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【Genocide Numbers】

Act.8



ドミニオン世界デムロポリス最北端。
ジェノサイドナンバーズのベースが位置する、第七工廠と呼ばれるエリア。
その奥深くに、広大な空間が存在していた。
床は鈍く光を反射する、紫色の金属で造られた円板。
ドーム状の天井は高く、洞窟を繰り抜いたように岩状の隆起が目立ったが
それらは全て、金属質のナニカから構成されているようである。

「……失策だったか。
 よもや、妾が直々に倫理回路を組み込んだGN003Pが
 イレギュラー化の兆候を示すとは……」

広い広い空間の中央に立つ、1人の女性。
銀色の髪にエメラルドの瞳。
こんな場所にいるのだから、当然、ヒトではない。
その証拠に、彼女の腕の一振りで岩に見えたものが一斉に不規則な発光を返した。

「前回のアップデートより二ヶ月。
 そろそろ、“劣化”が始まる頃合いと言う事か喃」

この部屋の壁面と天井を覆う鉱物質の正体は、コンピューターだった。
そしてその中核こそ、中心に立つ女性。
“母世代”DEM-エキドナ――ジェノサイドナンバーズの支配者である。

「アニキラシオンエンジンを失うのは痛手じゃが……
 GN002Pは破棄せざるを得んか喃……?」

エキドナは、発生しうる可能性を全て並べ上げ、それを精査した。
部屋そのものである超巨大コンピューターが激しく明滅した後、結論が出る。

「やはり、そう出たか。
 全機回収困難になる前に、呼び戻さねば――」

エキドナは特殊回線で、エミル界にいる彼らに命令を出す。
自らの出した、最上の答えに従って。






<最適行動:GN003P以下の早急な回収 及び 上書き処理アップデート>










一方その頃。
帰還命令が出た事など露知らず、フラカッソとヴィソトニキはダウンタウンを歩いていた。
「本当にヒトが多いな、この街は」
「そうねぇ……」
陽光の差さない地との事だったが、その賑わいはアップタウンに劣らない。
二人は改めて、この街の懐の深さを実感していた。
「私達、変じゃないかな?」
ヴィソトニキが小声で囁いた。
彼女はフラカッソの腕を抱いて、彼の肩に頭を預けている。
「問題ない」
ポケットに手を突っ込み、前を向いたまま答える。
彼も無表情ながら、それを甘受して歩調を揃えていた。
この街の何処にでもいそうな、クリスマスムードに酔う仲睦まじいアベック。
「完璧なカムフラージュだ。
 誰が見ても、特殊部隊の偵察任務中だとは思うまい」
そう、これでも二人は重要任務の真っ最中なのである、これでも。
その証拠に、フラカッソの視線は正面を向いているように見えて、絶えず周囲を探っていた。
レーダーも常時フル可動である。
「(ヒトが多い、だけでなくDEM比率も高いな……)」
カラミティーの報告で判っていた事だが、ダウンタウンは特にDEMが多かった。
エレキテルラボと呼ばれるDEM専門機関が有る為である。
そのお陰でレーダーが余計な反応ばかり拾い、まるで役に立っていない。
「ヴィソトニキ、そちらはどうだ?」
「…………」
フラカッソが視線を下にやると、ヴィソトニキは目を半分閉じていた。
いつの間にか、腕にかかる重量も増している。
「ヴィソトニキ?どうした?」
「あ……ごめん」
腕を軽く揺さぶると、ようやく気付いて顔を挙げた。
「不調か?」
「ううん、そんなことない。大丈夫」
彼女は気丈に振舞ってはいるが、フラカッソには気がかりな事があった。
「…………」
相変わらずヴィソトニキのエンジンが安定していない。
やや過出力状態にあり、機体温度は高めをキープしている。
ヒトの真似事をするという慣れない任務で、エラーを処理しきれていないのかも知れない。
「苦労をかける……ヴィソトニキは、演技に傾注しているがいい」
そう言って、空いている側の手でヴィソトニキの頭を自分に寄せた。
不意を突かれたヴィソトニキは、バランスを崩しより強く、フラカッソの腕を抱き締める。
「あ……」
「そうだ、しっかり掴まっていろ。
 索敵は俺に任せろ」
「ん……ごめんね……」

フラカッソに体を預けつつ、ヴィソトニキは半分思考を手放していた。
アップタウンでフラカッソに肩を抱かれてからというもの、全身の調子がおかしかった。
エンジンは不安定。
体温調整も上手くいかない。
No.2を捜さないといけないのに集中できない。
視界もほんのりピンク色だ。
原因は、ブレインを埋め尽くすノイズ。
演算処理はノイズに乱され、論理的思考はノイズに噛み砕かる。
ノイズの原因は、フラカッソにあるみたいだった。
彼に近づくとノイズは増え、彼に触れられるとノイズは跳ね上がる。
彼と話すとノイズは踊り、彼を見るだけでもノイズは騒ぎ立てる。
自分の中を埋め尽くす、ノイズ、ノイズ、ノイズ。
だけど、これだけ影響を受けているにも拘らずエラーメッセージは出てこない。
彼を忌避する命令どころか、より接近を促す命令すら出ている。
何故だろう。
もうバグっちゃったのかな。
彼女はそう思うが、不思議と危機感は感じない。
それどころか、今が永遠に続けばいい――そんな気すら、していた。



やがて二人は、ダウンタウンの中央に辿りついた。
ダウンタウン中でも最もヒトの密度が濃い場所。
「この近辺を捜すのは、困難だな」
困った事に、ヒトは外を歩いているばかりではない。
ダウンタウン中央と言えば、シアター街としても名高い区画。
4か所に位置するシアターには常にヒトやDEMが出入りしており、中にも大勢いると思われた。
「DEMも映画見るのね」
「ふん、イレギュラー達め……」
この街に居るのは、ヒトが作った実験機か、逃亡兵だけだとフラカッソは断定している。
同胞と呼べるDEMはいない――全てイレギュラーだ、と。
「中も調べた方がいいんじゃないからしら」
「シアターのか?」
「うん。ほら、あのシアターなんて随分とDEMが出入りしてる」
ヴィソトニキが指さした方向を見遣れば、確かにその通りだった。
少し近付いて見ると、DEMの女性とエミル族の男性が描かれた巨大なポスターが目に入った。

「ヒトとDEMの心は通い合うのか――
  実話を元にした、ヒトとDEMの初の恋愛映画!
   『キカイのココロ』
     
     協賛:エレキテルラボラトリー」

「実話を元に、だと?何を寝ぼけたキャッチコピーを……」
「…………」
周りに聞こえない声で毒づくフラカッソ。
その横で、ポスターに見入るヴィソトニキ。
その眼は、一点で止まっていた。
「『恋愛』……」
「ん、何か言ったかヴィソトニキ?」
「え?あ、ほ、ほら、入ろう入ろう」
そう言って、今度はフラカッソをリードして歩き出す。
しかしフラカッソは一歩も動かなかったので、ガクンとその場で停止した。
「何故入る必要が?」
「だ、だって、ここDEM沢山いるでしょ」
なるほど、DEMを主題にした映画だからか、他のシアターよりDEMの数は多い。
ついでに、種族を問わずカップルも多そうだ。
「……なるほど、No.2がこれを見に来ている可能性もある、と言う事か……」
No.2もイレギュラー……あり得ない話ではないとフラカッソは納得した。
他のDEM密度が低い場所を探すよりは、効率がいいかも知れない。
「よかろう、中を見てみるとしよう」
「うんうん!」
フラカッソの同意を得たヴィソトニキは、腕を離しシアターへ入って行った。
「お、おい、待て――」
「お姉さん、DEM二枚、あとパンフレット。
 なるべく後ろの方で、席は二つ並んでるところを――」
淀みの無い動きでチケットを入手する。
シアターの店員のお姉さんも、偵察中の戦闘用DEMだとは夢にも思わなかっただろう。
「はい」
「……何故、チケットを買う必要が?」
渋々受け取りながら、フラカッソは問い質した。
「ロビーだけ見ても、仕方ないじゃない?
 ちゃんと中まで調べないと」
「ここが中じゃないのか」
「ここはロビーだってば……ほら、行こ」
何やらズレた事を言う相方の腕を掴み、ヴィソトニキは厚い豪奢な扉を押してシアターに入った。
床や壁に小さな電燈のみを灯した、薄暗い奥行きのある空間。
赤外線バイザーに切り替え、室内に多数の椅子の列と、巨大なスクリーンっぽい物の存在を確認する。
「なるほど、あそこに映像をプロジェクターで投影するのか……
 しかし、それだと映像が劣化しないか?
 俺は動画をダウンロードしてブレインで再生するものかと――」
「……それじゃDEM以外のヒト、見られないじゃない」
まるで御上りさんのような事を呟いているフラカッソを、無理やり席に座らせる。
二人の席は最後列の端っこだったが、スクリーンはよく見えた。
「ここならよく見えるね」
「うむ、良い席だ。
 早速No.2を索敵するとしよう」
フラカッソはレシーバーグラスに手を翳し、種々のレーダーを起動する。
その姿を見て、ヴィソトニキがため息交じりに呟く。
「……見えるって、スクリーンの事だったんだけど……」
「何か言ったか?」
「う、ううん、何でもない……」
反論を諦め、再びフラカッソの腕に抱きつこうと手を伸ばしたその時
フラカッソのサングラスが極々小さい電子音を発した。
「……該当0。
 よし、出て別のシアターに行くぞ」
「ちょ、ちょ待っ!」
急に立ち上がったフラカッソの手を掴んで、引っぱる。
その力に抗って立ち、怪訝そうにヴィソトニキを見た。
「まだ何か問題が……?」
「映画見ないの!?」
「……見る必要がないだろう」
フラカッソは正しい。
ここに留まってもNo.2は見つからないのだから、すぐに出て他の場所を探すべきである。
幸い映画は始まっていない――抜け出ても怪しまれないだろう。
反論の余地など、何処にも無い。
「そうだけど……」
「……」
ヴィソトニキにも理屈は判る。
だが彼女のブレインは、ここから去る事を拒んでいた。
その原因はやはりノイズだろうが、それをフラカッソに説明する事なんて出来ない。
「うん、そうだね……行こう」
掴んだフラカッソの手を引っ張り、立ちあがろうとした――
「仕方ないな」
だが先に、フラカッソの方が腰を下ろしていた。
「……この映画、上映時間は何分だ?」
「え?」
「パンフレットを貸せ」
唖然としているヴィソトニキの膝から、受付で買ったパンフレットを取る。
ページを指で高速で捲り、上映時間を確認。
「1時間20分か……まあ、丁度いいだろう」
「え、いいの……?」
フラカッソが返したパンフレットを受け取りながら
ヴィソトニキは信じられないものを見るような目でフラカッソを見つめた。
「ヴィソトニキ、お前のエンジンはさっきから不調だろう。
 暫く休憩が必要だと俺は判断した」
視線を前に向けたまま、事務的な抑揚のない口調で答える。
「よって、ここでの1時間20分の休憩を許可する」
「……ありがとう……!」

フラカッソは自問していた。
自分は何故、映画の観賞を許可したのか。
「(……じゃない、俺は休憩を許可したんだ。
  安静な状態を維持できるから、たまたまこの場を選んだだけ)」
フラカッソは兎に角、全てを論理的に結論付ける。
自分の中に発生した理解不能な判断――ノイズにも、全て理由が付けられる。
そうする事で、自分の中のDEMとしての倫理を保っているかのように。
「(今後熱暴走でも発生したら、1時間20分のロスでは済まないかも知れない。
  そのリスクを考慮すれば、俺の判断は実に効率的……)」
彼は自分の判断に満足した。
だがもう一つ、理解出来ない事があった。
「(何故、礼を言われたのだろう)」
礼を言われる状況だったのだろうか。
そもそも、DEMが礼を言う事は無い。
感謝、という概念が存在しないからだ。
「(……と言う事は、これもヒトの真似か)」
ならば合点がいく。
だが、礼を述べられた時に得た、妙な感覚を回想して、フラカッソは思った。
「(例え真似とは言え……悪くない感覚だ)」





やがて照明が完全に落ち、フィルムが回り始めた――




『キカイのココロ』

遥か昔、マイマイ島に拠点を構え、DEM達がエミル界に侵攻していた時代。

一体のDEMがアクロポリスに送り込まれた。
後に指導者となる男を暗殺する任務を受けて。

アクロポリスに着き、彼女は早々に街のゴロツキに絡まれた。
彼女がそのゴロツキに殴られそうになったその時。
一人の男が間に入り、身を挺して守った。
彼女が暗殺すべき対象――クロードだった。
その時、何故か彼女はクロードを殺す事が出来なかった。
簡単に殺せる筈だったのにも関わらず――

その後、彼女は再びクロードに出会う。
クロードは墓参りをし、死者の霊を弔っていた。
DEMには理解しがたい風習だった。
だが更に彼女を困惑させたのは、クロードがDEMも弔っていた事である。
何故、と問う彼女に、クロードは笑って答えた。

『ボクはね、僕らとDEMの和平を実現したいんだ。』

最後に、彼は彼女がDEMである事を見抜き、それでも何もせずに帰ってゆく。
その頃から、彼女の中には理解しがたい何かが芽生え始める。

何度も逢瀬を重ねるDEMの女とクロード。
やがて二人の間には、愛情が生まれた。
しかし、束の間の平穏は戦乱に引き裂かれる。
廃墟と化したアクロポリスで、平和を信じ続けるクロード。
そして自らの任務と、彼への愛情の狭間で苦しむ彼女が取った行動は――



彼女の亡骸を抱いて、彼は神に祈る。
彼女の復活を。

しかし、戦火の空には、男の慟哭が響くばかりだった――





「……」
始まってすぐ、フラカッソは待機状態に移行するつもりだった。
自分には意味のない物。
初めから、そう断定していたからである。
だが、隣のヴィソトニキにとっては、そうではなかったらしい。
物語の変化に合わせ、小さく息を呑んだり、エンジンの回転数が変わったりしている。
フラカッソの片腕はホールドされていた為、それがよく判った。
「(映画なんかが、DEMに影響を与えるのだろうか?)」
仕方なく彼も理解に努めたが、全く判らなかった。
しかしヴィソトニキの反応を見ていると、DEMにとっても、意味のある物なのかも知れない。
「(……いつか、時間のある時に見直してみるか……)」
フラカッソは視覚の解像度を限界まで上げ、こっそりRECモードに切り替えた。
上映前に、映画を撮影する事は映画泥棒です――と警告が出ていたが、気にしない事にした。
「(俺にアクロポリス市民ではないから、法律に従う必要も無い……)」

映画が終わり、観客が一斉に街に繰り出した。
その中に、寄り添った二人の姿もある。
「調子はどうだ、ヴィソトニキ」
「……最高」
「…………………そうか」
フラカッソに伝わる体温とエンジン音は、依然不安定――どころか上昇している。
しかし、本人の言葉を信用する事にした。
「次、どこを捜索する?」
「もう一度、アップタウンに行きたいな……いい?」
「構わん。向かうぞ」
理由を聞かず、フラカッソは歩き出した。
ダウンタウンだから見て確認は出来ないが、時間的にもうすぐ日が沈むだろう。
フラカッソは、今日はNo.2を見つける事は出来ないと予想していた。
だから、何処へ向かっても結果は同じ。
ならばヴィソトニキの意見に無条件で従ってもいいだろう――そう考えた。

日が沈んだ後のアップタウンは、壮観だった。
あちらこちらに設置された電飾が、昼間以上に自己主張して街を七色に彩る。
特に、全身を魔法的な処理でライトアップしたギルド元宮は、まさしく“光の塔”であった。
「うわぁ、凄い……」
ヴィソトニキがアップタウンに来た理由も、勿論この美しさにある。
口を開けてぽかんと魅入る彼女に、フラカッソが囁いた。
「『綺麗』か?」
「うん、そうだね……」
「……そうか。そうだな……」
フラカッソは、判りかけていた。
『綺麗』という言葉の意味を。
「(なるほど……こういうのを、『綺麗』と言うんだな)」
理論立てて説明の出来ない、実にファジーな感覚ではある。
だが、それでも理解出来る、不思議な感覚。
「(……これは機械種族らしくないな)」
彼はイレギュラーになるつもりは無い。
DEMに『心』がある、などと世迷い事を言うつもりも無い。
これは人真似だ。
機械種族は、ドミニオン・エミル・タイタニアよりも優れた種族。
彼らが理解出来て、我らが理解出来ない事があるだろうか。
だから、理解できても問題は無い。
フラカッソはそう判断し、更に独自の理論を進める。
「(判ったぞ。
  何故、我ら機械種族がこのファジーな感覚を失ったのか)」
無駄だからだ。
合理性と安定性に勝るものはなく、これは余計なものだからだ。
一般性を欠く長ったらしい名前も
『綺麗』というファジーで説明不可能な感覚も
自らの命を捧げてしまう程に感覚を狂わせる『恋』という感情も――全て無駄。
「(そうか、そうに違いない――)」


「ね、フラカッソ……」
「ん、なんだ?」
遠くを見るような眼で元宮を見上げていたフラカッソが、こちらを向いた。
文字通り、目と鼻の距離に彼の顔がある。
それだけで、ヴィソトニキの体は物理的に熱くなった。
「ごめんね、私のエンジンが不調のせいで時間を無駄にして……
 結局、No.2は見つからなかったね」
「気にするな」
思い通りにならない自分の体が、もどかしい。
だけど、不調の理由は判った。
「あのね、フラカッソ……」
「今度はなんだ、ヴィソトニキ」
彼の名前を呼ぶだけで、心が熱く。
彼に名前を呼ばれるだけで、胸が熱く。
自分をおかしくしている、ブレインのノイズの正体――
「…………あの…………」
「?」
映画を見て、判った。
あの女性の気持ちが、不思議と判ってしまった時から。
ああ、私も同じだ――

「どうした?ヴィソトニキ」

私もこの人に、『恋』をしているんだ。



きっと、今日、いきなり『恋』に落ちた訳じゃない。
ずっとノイズは感じ続けていた。
初めて彼のサポートをした時から。
彼に頼りにされる度に
彼の背中を守る度に
彼と戦闘訓練を行う度に
ノイズは少しずつ蓄積されてきた。
少しだから、それはエラーとしてダストボックスに隠しておけた。
そして今日、そのノイズが爆発した。
理路整然と動くべき筈のブレインを、所狭しと駆け回るノイズに、初めは混乱した。
だが映画を見て、DEMの女性の機微を感じ取り、それを自分に重ね合わせた時
ノイズはノイズで無くなった。
ノイズ――理解不能な信号は一つの方向性を持った『感情』

――『フラカッソが好き』というたった一つの『感情』だった。



「ううん、何でもない」



でもきっと、この気持ちは伝わらない。
この人から貰った気持ちだけど、理解はして貰えないだろう。
伝えても混乱させるだけ。
理屈のみに従うDEMにとって、処理能力を超える感情は諸刃の剣である。
それを今日、自分は体で証明したばかりだから。
だから、言えない。
この気持ち、いつか彼に言える日まで、ずっと大切にしていきたい。
いつか――あの女性とクロードのように、心を通わせられる日まで――



「帰ろう?」
「ああ、そうだな」



帰り道――
飛空庭の中で、フラカッソは口を開かなかった。
ヴィソトニキにとって、それは有難かった。
きっと彼は、自分の事を『ヴィソトニキ』ではなく『No.5』と呼ぶであろう事が
容易に想像できたからである。

そしてフラカッソも、そのつもりだった。
もう潜入任務は終わった。
ヒトの真似をして、ヒトに溶け込む必要は無いのだ。
この期に及んで、ヒトに倣って名前で呼ぶ事は、彼のDEM的な理念に反する。
例え、彼の中の何か――ノイズが、それを欲したとしても。




…………………………



「残念ながら、No.2は発見できなかった」
帰投して開口一番、そう言ったのはフラカッソ。
だがヴィソトニキの手には、恋愛映画のパンフレット。
「……」
何をしてきたかは一目瞭然。
カラミティーとカーネイジとドゥームは、同時に思った。
――そりゃそうだろ、と。
「じぃー……」
「何だNo.4、その目は――」
カラミティーは目元の『蒼血』を弄り、横棒の端に小さな黒い半円を付けたような
いわゆる漫画のようなジト目を再現していた。
漫画など読んだ事も無いフラカッソにも、侮蔑の意が伝わった。
「ゴホン。随分とお楽しみだったようだけド……
 事態は不味い方向に動いてるヨ、No.3」
咳払いで遮り、フラカッソに鋭い視線を向ける。
「おっおおおお楽しみだなんて、そんな」
「ヴィ……No.5、落ちつけ。
 どういう事だ、No.6?」
「これを見てヨ」
No.6がコンソールを操作し、一枚のウィンドウを呼び出した。
その内容にざっと目を通し、No.3が固まった。
「これは…………」


<最重要指令>


 ジェノサイドナンバーズ各員に通達。
 明日中に基地より撤収し、明後日時刻2400までに我が下に帰投せよ。

 これは司令官命令である。
 違反者は規則427に従い、例外なくイレギュラー認定及び解体処分と処す。



 なお、GN002Pの処遇はこちらで決定する。
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プロフィール
管理人 こくてん
MMORPGエミルクロニクルオンライン
Cloverサーバーで活動中。
管理人室は ほぼ日刊で更新中。
連絡先は
bloodmoon495告hotmail.co.jp
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