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【Genocide Numbers】

Act.5

アクロニア大陸の西南、モーグ島。
その西方の洋上に小さな島がある。
島にはもう人は住んでいないが、ギルド元宮をも見下ろす程の超巨大建造物が聳え立っていた。
完成を見ないまま、工事が打ち切られ放置されたその錆びた機械の塔を、人々はこう呼んでいる。
――――光の塔、と。

設計図など大分昔に失われた塔には、冒険者も気づかない隠し部屋がいくつも存在していた。
三棟の塔の内、最も高いA塔の中でもかなり上層に位置するフロア。
A-16とA-17の間にも、そんな空間が存在していた。
そこそこの広さの空間には、所狭しと機械類が設置され
その間に5人のDEMが立っている。
「ここを当座の前線基地とする」
その中の一人、No.3が宣言した。
「大体機材の配置は終わったヨ」
ドゥームがビッとサムアップを返す。
レーダーや補給装置は既に完備しており
アクロポリスまで行くための簡易飛空庭のドックも殆ど完成していた。
「No.6……ヒトどもに見つかる心配は本当に無いんだな?」
冒険者の狩場でもあるダンジョンに、いきなりこれだけの設備を用意して大丈夫なのか。
不審さを感じたフラカッソは、ドゥームに念を押す。
「ふふン、ここを提案したのはボクだヨ?
 考えてないわけがないじゃないノ」
ドゥームが指先をパチンと鳴らすと、壁際のスクリーンにいくつも画像が表示された。
塔の何箇所かの光景を克明に映し出している。
「監視カメラか……」
「ソレだけじゃないヨ。防衛メカの支配権もちゃんと奪ってあるシ」
ガッテンガーやギガント、前戦争で放棄された野良DEMと言った機械達に既にウィルスを仕込んであった。
万が一この場所に入り込まれても、それらの戦力で時間稼ぎが出来ると言う事だ。
ドゥームの説明に一応納得し、No.3は話を先に進める事にした。
「判った、ご苦労。
 それでは、No.2の処理任務を開始する」

No.3は一際大きなスクリーンに画像を投影する。
作戦内容とターゲットであるNo.2のスペックが表示される。
No.3はそれを操作しつつ、手早く説明を終わらせた。
「……以上が作戦内容だ。
 アクロポリス内の偵察も兼ねて、早速誰かに潜入して貰いたいのだが――」
「僕に行かせて下さい、リーダー」
1人のDEMが前に出た。
一同の視線が声の主に集中する。
頭をすっぽりと覆う帽子を被り、脚部は前の開いた巨大なスカート状のパーツで覆われている。
武器は持ってないように見えるが、高出力のビームサーベルが右腕に内蔵されていた。
開発名カーネイジ……配属されたばかりの新型GN007Pである。
「No.7、行けるか?」
「任せて下さい。
 No.6に最終調整さえ行って貰えれば、すぐにでも出撃出来ます」
No.3は少し迷った。
経験皆無のNo.7に先鋒を任せるのは、安定性に欠くのではないだろうか。
しかしNo.2との接触を考えると、面の割れていないNo.7の方が有利な面も、確かに有る。
何より、No.7により多くの経験を積ませ、一人前に兵士に仕上げる必要が有る。
「……よし、行けNo.7。
 だがあくまでも偵察任務が主体だ、戦闘は回避せよ」
「了解」
出撃が決まると、No.7の背後にドゥームがつつつと寄って行って、その襟首を掴んだ。
「じゃあこっち来てネー。
 色々準備が有るから♪」
「りょ、了解……」
「……大丈夫だろうか」
併設された出撃準備室にNo.7が消えるのを、一抹の不安を感じながら見守るNo.3だった。



「~♪」
「……No.6、まだでしょうか……」
機械のかたまりに腰かけ、じっとしていたNo.7が躊躇いがちに言う。
体の何箇所かにケーブルを繋がれたまま、10分ほどこの状態を続けていた。
「まだだヨ。調整はじっくり行わなきゃネ」
No.7は不完全なまま、実戦配備されている。
その為、今は仮のボディーを使っており、まだOSが完全にマッチングしていない状態だった。
そこでドゥームの能力が役だった。
支配能力でNo.7のOSに手を加え、ボディーに馴染む様にしているのである。
一番大事なシステムを弄られている為、No.7には絶対安静が強いられていた。
「ふんふふーん♪」
さて、一方のドゥームはと言うと、髪の生え際から伸ばしたケーブルをカーネイジと繋ぎつつ
何やら衣装の詰っているらしき箱を漁り物色していた。
スーツやスラックスを取りだしては、これはどうだろうか、とか
1人でブツブツ呟いている。
「あの、No.6……貴女は何をしているのですか……?」
「ン?」
赤いジャケットを手に持ったまま、No.7を振り返るドゥーム。
「何って、『カーネイジ』の潜入用のお洋服の選定に決まってるじゃないノ♪
 ああ、こっちも可愛いなァ」
「……今なんと……?」
「そのメカメカしい恰好のままアクロポリスに入ったら目立つでショ?」
にっこりと笑うと、ジャケットを前に突き出して、視界の中でNo.7と重ねた。
「だからノーマルフォームになって、一般人に溶け込んで潜入するんだヨ。
 ノーマルフォームは知ってるよネ?」
ノーマルフォームとは、DEMがヒトに近い体へとチェンジしたフォームである。
かなりヒトに――特にエミル種に近い見た目になるが、瞳の色が若干異なる事と
本来の戦闘能力を発揮できなくなる事が欠点である。
「いや、勿論知っているが……
 僕が聞きたいのはその事ではなく……」
「ン?何かナー?」
少し逡巡して、No.7は口を開いた。
「先程、No.6は僕の事を開発名で呼びませんでしたか?」
「ああ、呼んだヨ、カーネイジ」
「何故でしょう……?」
いつかのNo.5――ヴィソトニキと同じ疑義を呈するNo.7。
「そっちの方がヒトっぽくて、親しみが沸くからかナ?」
さらりと言い切るドゥーム。
案の定、カーネイジは混乱した様子を見せた。
「すみません、僕にはよく理解が――」
「ふふ、可愛いネェ」
「!」
No.7に歩み寄ると、思いっきり顔を近づけた。
黄緑色の瞳一杯に自分の姿を映し込んで、ドゥームはNo.7に囁く。
「すぐ判るようになるよ、カーネイジ……
 ボクがちゃんと教えてあげるから」
「No.6……?」
「ふフッ……つれないネ。
 姉さん、って呼んでごらん?」
ドゥームは元の位置まで下がる。
No.7は、またも躊躇いがちに聞き返す。
「その……起動してから、まだ一週間も経っていないから
 僕には判らない事が沢山あるのですが……」
「ウン」
「それが……No.6の言うやり方が、正しいのですか……?」
「ふふフ……。
 そうだヨ、すぐにそれが判る筈。
 だから難しく考えなくていいヨ」
片手をカーネイジの帽子に乗せて、よしよしと撫でる。
カーネイジにはその行為の意味が良く判らなかったが、されるがままになっていた。
「はい、判りました……姉さん?」
手の下から上目遣いでドゥームを見上げるNo.7――カーネイジ。
「ボクには敬語じゃなくていいヨ、カーネイジ」
「なら……ええと、なんて言えば……?」
そうだネェ、なんて言いながらドゥームは自分好みの返事を考える。
「そうだネ。『うん、判ったよ姉さん!』かナ?」
無垢な新人を、次々に自分色に染めて行くドゥーム。
そして律義にそれをそっくり真似するカーネイジ。
「うん、判ったよ姉さん!」
彼がそう言うと同時に、近くの機材がピーと高い音を鳴らす。
カーネイジの調整が終わった事を示す合図。
「よし、完了!外していいヨ」
丁寧にケーブルを外し、カーネイジは立ち上がった。
二、三度手を伸ばしたり脚を動かしたりして、体の状態を確かめる。
「動きが格段に良くなりまし……良くなったよ。
 姉さん、有難う」
ドゥームは色々な事を吹き込みつつも、仕事はきっちりこなしていたらしい。
「何、いいってことヨ。
 それじゃ、これ服ね」
「うん、移動中に着替えま……るよ」
必死に敬語を直そうとするカーネイジを優しい目で見つめる。
きちんと畳まれた洋服一式が、カーネイジに手渡された。
中身を確認し、飛空庭のドックへ行く。
エミル界で荷物の搬送などによく使われる小型なものだが、ドゥームが手を加えて
DEM一体が乗り込めるスペースとステルス迷彩が組み込まれていた。
これで西平原まで飛び、徒歩でアクロポリスに潜入する手筈になっている。
「気をつけてネ、カーネイジ」
乗り込むカーネイジの背中を見送るドゥーム。
カーネイジはちらっと振り返り、力強く頷いた。
「うん、行ってくるよ……姉さん」




数時間後、カーネイジは西可動橋に立っていた。
その姿は基地に居た時と異なり、ノーマルフォームの上にちゃんと衣類を纏っていた。
上半身はマモンカオス――薄紫のジャボ付きの貴族風の赤いジャケット。
下はスラックスと黒いローファーで、シックに纏められていた。
腰回りには小さな箱が付いており、そこには緊急時用の煙幕や回復剤が収まっている。
ドゥームが何処でこれを入手したのかは判らないが、有り難い心遣いだった。
自分の容姿が異常でない事を周囲と比較しつつ確認し、カーネイジは街に足を踏み入れた。
「(ここがアクロポリスか。なかなか大規模だな)」
カーネイジは足元を見る。
ENTERと大きく書かれた分厚い鉄板。
有事の際には、これが持ちあがり壁となり、外部と内部を遮断するのだろう。
「(さて、少し観察して回らないと……)」
偽造通行証は持っていたが、彼は階段を下りダウンタウンへ。
灰色のタイルの道を、ゆっくりと歩きながら観察。
「(人も家屋も多い……)」
ウェストフォートすら見た事が無い彼にとって、まさに驚愕に値する光景。
今の戦火吹き荒れるドミニオン界には、こんな活気に溢れた場所は無いだろう。
「(もっと詳しく調査しないと)」
とりあえずダウンタウンを一周し、道と主だった建物を記録しようと考える。
次はアップタウンで同じ事をする。
No.2を探すのは、その後。
大体今の彼の戦力では、No.2と遭遇してもなす術が無い。
だから見かけても、尾行して所在を突きとめるぐらいしか――
「おい、そこのDEM」
「!」
急に肩に手を置かれ、カーネイジの思考は中断。
慌てて振り返り、相手を見たカーネイジは動きを止めた。
「さっきから妙にキョロキョロしてるが……迷子か?」
「あ…………」
つかつかと歩み寄ってくる。
カーネイジには、その姿に見覚えが有った。
いや――直接会った事は無いが、記憶には刻み込まれている。
「私が案内してやろうか?」
そう言ったその女――DEMの女は、明るい黄色のツインテールに黒いボディ。
真っ赤な大きな両足と、これまた赤い翼状のブースター。
そして凶器になりそうな固い拳。
<外見・声紋・製造年代一致>
彼の予想を裏付けする分析結果が、弾き出された。
<対象・GN002P――開発名アニキラシオンと断定>


何の準備も無いままにNo.2に遭遇し、しどろもどろになるカーネイジ。
その仕草からアニキは迷子だと断定して、カーネイジをラボに連れて行こうとし始めた。
「あ、あの、僕、別に迷子では……」
手を握り引っ張られ、何度も転びそうになる。
マシナフォームとノーマルフォームでは出力が違うのだから、こうなるのは当然と言えた。
「そうなのか?じゃあ所属は?住んでる場所は?」
「……えっと……その……」
咄嗟に嘘が出ない。
冷静に対処出来ればいいのだが、カーネイジの思考回路はビジー状態。
もがけばもがくだけ深みに嵌る、底なし沼にいるような状況だった。
「ほら、やっぱり迷子なんだろ?だったら遠慮するな」
「う、うわぁ……せ、せめてちゃんと歩かせて!」
「お?おお、悪い」
足を緩め、カーネイジに歩調を合わせる。
それで漸く一息付けたカーネイジだが、未だに手は拘束されたままだった。
ふと気付いたように、アニキが言った。
「そう言えば、名前を聞いてなかったな」
「そ、そう言えばそうだね」
うっかりNo.2と呼びかける前で良かった、と密かに思うカーネイジ。
「私はアニキラシオン。アニキって呼んでいいぞ」
「アニキ……」
No.2も開発名を名前として使っていた事に、カーネイジは驚く。
「あ、僕の名前は……カーネイジ」
ここでもしGN007PとかNo.7と名乗っていたら、一瞬でバレていただろう。
「カーネイジかー。宜しくな、カーネイジ」
ニヤッと口の端を上げる感じで笑いかけるアニキ。
「こちらこそ、アニキ」
カーネイジも笑みで――可能な限り自然な笑みで返した。

アニキに引っ張られるようにして、カーネイジはダウンタウンを半周した。
途中アニキからは何度か質問を受けたが、言葉を濁したり判らない振りをして誤魔化した。
最近良くいる、記憶喪失のDEMとでもアニキは思ってくれたのだろう。
あまり深く追求してこなかったのは、カーネイジにとって僥倖だった。

「ほら、着いた。
 ここのクォーツ博士って人を頼るといいぞ」
「あ、ど、どうも……」
ダウンタウンを半周弱したら、もう目的の場所についてしまった。
クォーツ博士の研究所――エレキテルラボラトリーだ。
エミル界のDEM研究者としては一流の腕を持つ彼女と、もう一人DEMなんでも博士という女性の二人で
この街のDEMの整備や管理を殆ど担っている。
出資者はギルド評議会なので、ここに来たDEMの情報は全部評議会に送られる事になっている。
「迷子DEMなら、何かと面倒を見てくれる筈だ」
アニキは親切心からそう言ったが、実際、カーネイジにとってはマズい状況だ。
迷子DEMとなれば、色々と調べられてしまう。
性能から機体に記された製造元情報まで、ありとあらゆるデータが評議会に渡ってしまう。
一応カーネイジも最重要機密に含まれているので、それは避けなければならない。
余談になるが、アニキは『メリーが自主制作したDEM』という事にして評議会に申し出ている為
このラボを利用するのになんら支障は無かったりする。

「それじゃ、また会えるといいな」
アニキの手が、カーネイジの手から離れた。
「元気でな」
「あ――」
その瞬間、何かがカーネイジの中で、動いた。
ひらひらと手を振って、その場を立ち去ろうとするアニキ。
遠ざかる声。
遠ざかる背中。
遠ざかる足音。
さっきまで引っ張られて迷惑していた筈なのに、放された手が疼く。
何故だろう。
任務対象が去ってしまうから、危機感を感じているのだろうか?
否、それだけじゃない。
何かが圧倒的に不足していた。
アニキに手を握られていた時には大丈夫だったのに
今はアラートが出そうなくらい、何かが不足している。
ブレインが安定性を掻き、ノイズの嵐で正常な思考が出来ない――
「ま、待って!」
衝動的に、カーネイジは叫んでいた。
アニキは歩を止めて振り返る。
「ん?」
「あ、あの、アニキ……」
「どした」
カーネイジの様子が少し変だ。
そう気付いたアニキは、再びカーネイジの傍に行った。
それだけで、カーネイジのブレインは少しだけ安定を取り戻した。
「ごめん……」
「謝られてもなぁ……何かあったか……?」
アニキは心配そうに聞いてきた。
居ても立ってもいられなくなり、カーネイジは正直に話す。
「アニキが行こうとしたら、急にブレインが不安定になって……」
「うん?」
「電圧がおかしくなったり、ノイズが走ったり……
 なんでだろう、故障かな……」
本当に故障なら、ラボに連行されても文句は言えない。
カーネイジとしては、それだけは避けたいところだが。
「なんだ…?それは私が関係あるのか、やっぱり」
「判らない……」
起動して間も無いカーネイジには、このようなトラブルの対処法が身に付いていない。
こう考えている間にも、思考はどんどん複雑になり、抜け出せないループを形成してゆく。
「……じゃあ、こうしたらどうだ……?」
アニキが、カーネイジの片手を自分の両手で包み込む。
その瞬間、カーネイジのブレインは平穏を取り戻した。
「あ…………戻った……」
「そうか……」
カーネイジの手を、ぎゅっと握るアニキ。
その様子を見て、アニキは確信めいた口調でこう告げた。
「お前……寂しいんじゃないか?」
「寂しい……?」
聞きなれない単語。
カーネイジはデータベースを検索し、意味を調べる。
寂しい――心が満たされず、物足りない気持ち。
「(『心』が満たされず……ね……)」
『心』
それはヒトに宿るもの。
DEMである自分にある筈が無い……カーネイジはそう分析する。
だが実際はどうなのだろう。
アニキといいドゥームといい、全く行動が読めない。
二人はNo.3やNo.4とは何処か違う。
DEMらしくない、合理的な判断以外のナニカに従って行動をしているように見える。
その非合理性こそ『心』と呼ばれるものではないのだろうか。
「アニキは、DEMである僕が『寂しい』と感じることがある、って本気で思う?」
アニキは一瞬、虚を衝かれたような表情をしたが、すぐに裏の意味を理解した。
カーネイジは、自分にも『心』があるのだろうか、と聞いているのだ。
「ああ。ヒトだろうとDEMだろうと、『寂しい』と感じることは、ある」
握る手の力を強めながら、アニキはきっぱりと言い切った。
「そっか……」
一旦認められてしまうと、楽だった。
DEMだって、心を持てる。
きっとこの人は、自分でそれを証明したんだ。

結局、寂しがり屋という事になったカーネイジは、暫くアニキと共に行動することになった。
とは言え彼には別の任務があった。
アクロポリスの調査という任務が。
あまり任務に反する行動を取ると、評価が悪くなる――最悪、解体処分とか。
最低限、主要建造物の位置と道の形くらい把握しておかないとマズいだろう。
「ねぇアニキ、この街を案内してくれない?」
「いいぜ」
カーネイジはアニキを利用することにした……と言うより
アニキと一緒にいる口実として、任務を利用した。
アニキはカーネイジの手を引いて、街のあちこちへと連れ回した。
元々散歩好きのアニキ、街の紹介には自信があった。



……………………

「ダウンタウンの中心にあるのが、マーケットと4つのシアターだ」
「しあたー?」
「和訳すると映画館だな。
 真っ暗な部屋で、大きな画面で映像を見るんだ」
「ふーん、楽しいのかな……」
「楽しいらしいよ。私は行った事無いが」

「ここがギルド元宮。
 10の一次職といくつかの二次職を管理してるんだ」
「へぇー、大きいねぇ」
「5階建てだからな」

……………………



「どうだ、だいぶ判っただろ?」
「うん、主だった建物は覚えたし、もう迷う事はなさそう」
一通り歩き回った二人は、遠くに元宮を臨むカフェで休憩していた。
テーブルの上には、アニキが買って来たサンドイッチとコーヒーが並んでいる。
「食っていいぞ」
カーネイジの方に皿を押し遣るアニキ。
恐る恐る、サンドイッチに手を伸ばした。
「あ、ありがとう。ヒトはこうやってエネルギーを摂取するんだね……」
その姿に、アニキは一ヶ月前の自分を重ねて笑みを零す。
私も随分ヒト臭くなったんだな、とアニキは自覚した。
「良く噛めよ」
「…………」
サンドイッチを口に含み、暫く咀嚼する。
えも言えぬ感覚が咥内に広がる。
「……どうだ?」
「うーん、なんと言うか、不思議な感じ……
 だけど、なんだか楽しい感覚」
すぐに二口目に移る。
アニキよりも貪欲さが勝っているのか、もう食事に適応したらしい。
「飲み込み早いな、お前」
「良く噛んでるよ?」
「そういう意味じゃねぇ……まあいいや」
カーネイジの勘違いに、アニキは苦笑する。
アニキはふと気付く。
この可笑しさは、ウォルスに駄洒落に通ずるものがあるのではないかと。
つまり笑いの原点とはズレであり、意図しないズレが感情に――
「ご馳走様!」
「お、おう、早いな」
非常にどうでもいい思考を中断する。
見れば、カーネイジの前にあった皿は空っぽになっていた。
「美味かったか?」
「美味しいとかは良く判らないけど、楽しかった。
 また機会があったら食べたいな」
「いい事だ。コーヒーは飲むか?」
「うん」
サンドイッチを食べる時と同じ気持ちで、意気揚々と手を伸ばす。
ずずず。
カップを傾けたまま、カーネイジの動きが止まった。
「…………ぼ、僕、これはいいや……」
「DEMにも好き嫌いがあったんだな……」
何でも美味しく食べるアニキには、そんな姿がかえってヒトらしく見えた。
「じゃ、私が」
熱いブラックコーヒーを一息に煽る。
カーネイジとは逆に、アニキはすっかりこの苦味の虜になっていた。
カップをテーブルに戻すと、アニキは店内の時計を見た。
「もう5時か……」
店の外を見ると、夕空をバックび聳え立つ元宮。
季節はもう冬に入っているので、日が沈むのもあっという間だ。
「そろそろ家に帰らんとな」
「あ、そうなんだ」
二人で食器を片付け、店の外に出る。
肌寒い風が、アップタウンの建物群の合間を縫って吹いていた。
「お前……どうするんだ?」
「うん?」
「帰る場所ないだろ?良かったら……」
「大丈夫だよ、アニキ」
ウチに来い、と言おうとしたところを遮られる。
「エレキテルラボって所に行ってみる。
 元々、そうして貰うつもりだったしね」
「そ、そうか」
少し残念に感じるアニキ。
ならばせめてラボまで、とカーネイジの手を取ろうとしたところで、カーネイジは身を翻した。
「道は大丈夫だよ、案内してもらったから」
「……」
「アニキ、今日は有難う」
にっこり微笑んで、お辞儀をする。
夕日に照らされた顔が、とても眩しかった。
「楽しかったよ。
 僕、今日のことは忘れない」
今生の別れと言わんばかりの言葉に、アニキは慌てて言った。
「お、おいおい、縁起でもねぇ。
 ラボで保護してもらえるんなら、またいつでも会えるぜ」
「はは、そうだったね」
「……」
「……」
どちらともなく、言葉を失う二人。
冷たい風が二人の間を吹き抜けて行く。
「じゃ、また……」
「ああ……」
カーネイジは名残惜しそうに、踵を返した。
「また会おうな!カーネイジ!」
背中に届くアニキの大声に、カーネイジの『心』が揺れた。
機械なのに、目の辺りと鼻の辺りが痛い。
涙なんて流れないはずなのに。
「…………うん、また、会おうね………アニキ」



来た時と同じ様に、カーネイジは基地に帰投した。
「戻ったか」
「はい、GN007P、ただいま帰還しました」
待ち受けていたNo.3の前で、きびきびと返事をする。
「おかえりなさい、No.7」
その後ろから、ドゥームも手を振っていた。
カーネイジでは無く、No.7。
No.3の前ではあの呼称は使うな、と暗に言っていることにカーネイジは気づいた。
「ただいま、No.6」
「首尾はどうだった。報告せよ」
No.3の命令で、カーネイジは巨大なスクリーンの前に立ち報告を開始する。
「アクロポリスの偵察は完了しました。
 主だった建造物、主だった道路の位置はデータベースに反映します」
サンバイザー越しにスクリーンを見、かなり正確で細かいデータが集まっているのを確認してNo.3は頷いた。
見知らぬ街に単騎で潜入してこれほど、とはなかなかやる。
No.3はNo.7への評価を一段階アップした。
「……No.2は見つからなかったか?」
「残念ながら」
何の躊躇いも無く、そう言ってしまった事にカーネイジは内心で驚愕した。
No.3は全く疑うことなく、その報告を信じた。
「そうか……だが気にすることは無い。
 ご苦労だった。次の作戦まで休息を摂ってくれ」
「…………了解」
力無く返事をして、カーネイジは下がった。


「……」
何故、自分は嘘を吐いたのだろうか。
No.2を探しに、自分たちはドミニオン界から遠路遥々来たというのに。
アニキを裏切ることになるから?
No.3にアニキを破壊されたくないから?
それとも……
それとも……なんだろう。
「会いたい……会いたいよ、アニキ……」
今日出会ったばかりなのに、さっき別れたばかりなのに。
でも次に会うときは敵同士かもしれない。
いや――恐らくそうだ。
僕の正体もきっとバレる。
もう二度と、今日みたいに二人で散歩することは無いだろう――
『心』が痛い。
『心』が苦しい。
「寂しいよ……」



その光景を、遠巻きに見つめるドゥーム。
彼女は祈った。
彼女の可愛い弟が、これ以上苦しまなくて済む事を。
「大丈夫だヨ。
 みんな幸せに暮らせる時が、きっと来るから……」
口の中で、そう、呟きながら――
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