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【Genocide Numbers】

Act.9




そして運命の日の朝が来た。



ジェノサイドナンバーズの面々は、黙々と光の塔で作業を続けていた。
その日中に光の塔からの撤退を完了しなければ、全員イレギュラー扱い。
夜を徹しての作業で、撤退準備は粗方終わっていた。
「……」
メンバーの間に、会話は少ない。
皆、この撤退命令に思う事があるのだろう。

「……準備は出来たか?」
フラカッソが、全員に声をかける。
既に壁のコンソールやスクリーンは撤去され、残っているのは飛空庭用のデッキぐらいの様だった。
最後に庭を出す時に、そこは爆破する算段である。
「まあ、ネ」
ドゥームが肩をすくめて、疲れたように言う。
「だいたい」
カラミティーは壁にもたれかかり、腕を組んでいた。
「うん……」
フラカッソの隣で、ヴィソトニキが小さく頷く。
だが一人だけ、何の反応も返さない者が居た。
「No.7は?」
「…………」
カーネイジは無造作に置かれた機械の塊に腰掛け、虚ろな目で床を見ている。
4人の視線がカーネイジに集まる。
「……No.3、一つ質問、いいですか?」
「何だ」
「……No.2は……」
顔を上げて、凛とした口調で、問うた。
「No.2は、どうなるんですか」
質問に対し、フラカッソは僅かに怯んだ。
それは、上司であるエキドナが判断する事。
部下でしか無い彼らが関与するのは、危険極まりない行動――
既にエキドナの不評を買っているのかも知れないのだから。
「お前は……いや、俺たちは知る必要の無い事項だ」
「でも……!」
吐き捨てるように言ったフラカッソに食い下がるカーネイジ。
「予想なら出来るヨ」
睨み合いになりそうにな二人の間に、ドゥームが冷静な声で割り込む。
「恐らく――別のNo.2が製造されて、ボクらの部隊に加えられる筈だヨ」
「別の、って……今のNo.2はどうなるの!」
目の色を変えて、ドゥームの胸倉に掴みかからんばかりに問い質すカーネイジ。
ドゥームは思わず、視線を反らした。
「……放置か、別部隊を送り込んで抹消するか、だネ」
「そんな……!」
その刹那、カーネイジのブレインは激しく乱れた。
アニキが手を離して去ってしまった時のように、ノイズの嵐が彼の『心』を動かす。
判断するより早く、カーネイジは動いていた。
「でも大丈夫、ボクの話を――」
ドゥームが何か言いかけるが、もう彼の耳には届かない。
風のように駆け、あっという間に飛空庭に飛び乗っていた。
「まっ、待てNo.7!」
「必ず、連れ戻して見せます!」
フラカッソの制止すら無視して、カーネイジは飛空庭を強制起動した。
基地全体が震動し、飛空庭は鉄砲玉のように急発進。
「か……カーネイジー!」
思わず開発名で叫ぶドゥーム。
彼女の視界で、カーネイジの乗った飛空庭はあっという間に空の向こうへ消えて行った。
ヴィソトニキもカラミティーも、弟の暴走を阻止するどころか、呆然と見守る事しか出来なかった。
「カーネイジ……早まった事を……!」



今日もアニキは、ダウンタウンを無防備に歩いていた。
昨日、フラカッソ達と鉢合わせ無かったのは単なる幸運なのだが
彼女はそんな事知る由も無い。
「~♪」
鼻歌なんて歌いながら、ダウンタウンを無防備に、それは無防備に歩いていた。
だが今日のアニキには、ちゃんと用事が有った。
彼女はこれから、エレキテルラボのクォーツ博士に会いに行くのだ。
ラボには、数日前メリーが注文した、アニキの整備用のDEMパーツが届いている筈だった。
それを受け取りに行くのである。
散歩ついでに。

「クォーツ博士、こんちゃー」
「あ、いらっしゃい」
アニキが威勢よくラボに入って行くと、作業台に屈みこむ白翼の背中が見えた。
作業台に横たわっているのは、壊れたDEMだろうか。
一心不乱に修理に取り組むその人こそ、このラボの責任者、クォーツ博士である。
「ちょっと手が離せないから、そこら辺で待ってて」
「あいよ」
適当な椅子に腰かけて、アニキはクォーツ博士の仕事ぶりを見守った。
大木槌片手に、精密なDEMの体を直してゆく。
彼女の技はまさに職人芸、アクロポリスのDEMの生命線。
あれよあれよという間に、機能を停止したDEMをあっという間に元通りにしてしまった。
「それじゃ、気をつけてね」
「有難う御座いました」
クォーツ博士は、直したばかりのDEMの出立を見送る。
そこで漸く、アニキに向きあった。
「悪かったわね、急な患者で」
機械油で汚れた手を拭いながら、クォーツ博士はダンボール箱を漁り始めた。
「さて、パーツだったわね」
「助かる」
幾つかのパーツボックスを受け取り、その代金をジュエルで支払う。
DEMパーツは高価だが、メリーは惜しみなく支払ってくれている。
それに対し、アニキは純粋に感謝していた。
「ところでさっきのは、はぐれDEMかい?」
「そうよ、最近多くて」
次元断層から落ちてきたDEMの事を、ラボではこう呼んでいる。
はぐれDEMは大抵酷く破損しているので、まずラボに運び込まれる。
それに応対出来るほどの技術者は、クォーツ博士以外には殆ど居ないからである。
それ故、殆どのDEMにとってクォーツ博士は命の恩人であり、第二の母でもあった。
「そうだ博士、一つ質問が有るんだが」
ふと、アニキは2,3日前の事を思い出してクォーツ博士に尋ねた。
「あら、何かしら?手短に頼むわ」
「ちょっと前に、カーネイジって奴が来ただろ?
 アイツ、私のダチなんだけど居場所知らないか?」
アニキは気軽に尋ねたが、それを聞いた博士は変な顔をした。
「“カーネイジ”……聞きおぼえが無い名前ね……」
「……来て、ないのか?」
どうだったかしら、と言って博士はPCを操作する。
そこにはラボに来たDEMの全記録が納められている。
暫くマウスをカチカチやった後、クォーツ博士は首を横に振った。
「うーん、そんな名前のDEMは来てないわね……」
「そ、そうか、すまない」
アニキは内心で、激しく困惑していた。
どうしてこんなにも動揺するのか、という程に。
「(アイツは確かに、ラボに行くと言っていた)」
その日の記憶を呼び起こし、アニキは確認する。
「(迷った?いや、そんなアホなDEMはいない。
  話した感じ、アイツは感情が未成熟である事以外は、正常そのものだった)」
何処かが壊れてたり、狂っている様子は無かった。
そこまで考えて、アニキはハッと気付く。
「(待てよ……じゃあ、なんでアイツはアクロポリスにいたんだ!?
  逃亡兵や次元断層から落ちてきた奴なら、少なからず破損してる筈だ……!)」
ラボにも行った事が無いDEMが、壊れてないのは逆におかしい。
どうしてそれに気付かなかったのか。
「……何か、訳有りのようね」
「あ、ああ……」
アニキの動揺を読み取ったのか、クォーツ博士が声をかけた。
「そのDEMの特徴を教えて。
 ――何かあったら、連絡したげるから」
そう言ってメモとペンを取りだすクォーツ博士。
並はずれて多忙な身で有りながら、1人1人のDEMに対し親身に応対する。
その面倒見の良さも、彼女の魅力の一つだった。
「すまん、博士……これは借りにさせてくれ」
DEMらしくない言い回しに、クォーツ博士は微笑んだ。
「そのうち返しなさいよ」



ラボを出たアニキは、カーネイジを探そうと決心した。
まだアクロポリスにいるのか判らない。
だが、一度会って話がしたかった。

 『楽しかったよ。
  僕、今日のことは忘れない』

別れ際のセリフが、急に思い起こされる。
「あの野郎……初めから、いなくなるつもりだったのか……!?」
アニキの体に、嫌な寒気と震えが走った。
じっとしている事が出来なくなり、アニキは駆け始めた。
走らずにはいられない衝動。
「何処だ、何処にいるカーネイジ!」
ダウンタウンを一回りし、東の可動橋に上がる。
もっとも賑わうそこにも、カーネイジの姿は無い。
「クソッ……なんで私が、こんな心配しなきゃいけないんだ!」
そしてアップタウン。
アニキは東から西まで一直線に駆け抜けた。
だが、あの気弱そうな瞳のDEMの少年は、どこにも無かった。
「ちっ……くしょう……」
転がり込むように西可動橋に入ったアニキは、流石に片膝を突いた。
全身の関節が軋んでいた。
右胸の動力炉も、無理な起動で早くもオーバーヒートしかかっている。
本気で走ったのなんて、いつ以来だろうか?
たかが街を全力疾走しただけで息切れとは、戦闘特化型DEMが笑わせてくれる。
まだ探さなきゃならない。
南北の可動橋とアップタウンも、四方の平原もまだ見てないじゃないか。
それでも居なかったら……果物の森もアクロニアの林も、ウテナ湖も河口も全部探してやる。
「……なんで、私はアイツにこうもご執心なんだ?」
たった一日あって、一緒に過ごしただけじゃないか。
まさか、恋?
違う、そんな甘いもんじゃない。
約束――そう、約束だ。
「また会おう、って約束した……じゃねぇか……」
そう吐き捨て、また走ろうと立ち上がった。
その時初めて、アニキは目の前に誰かが立っていた事に気付いた。

「――アニキ」
「……あ?」
間抜けな返事をするアニキ。
展開が唐突過ぎて、処理が追い付かない。
動けないでいるアニキの前で、そいつは困ったように頭を掻く。
「ごめん、会いに来ちゃった……」
カーネイジ、その人が2日前と変わらぬ出で立ちで、そこに立っていた。

「お前……何処にいたんだよ!」
我に返ったアニキは、逆上してカーネイジの両肩を掴んだ。
「い、痛い痛い痛い!痛いってばアニキ!」
格闘型DEMがマシナフォームで握って来たのだ、そりゃ痛い。
ジャケットとカーネイジの眉間に、深い皺が寄る。
本気で痛がっているのを見て、アニキは力を緩めた。
「すまん……」
しかし手は離さない。
視線も逸らさない。
何があっても逃がさない――その意思がカーネイジにひしひしと伝わってきた。
「僕の方こそ、ごめん……
 だけど、こうするしかなかったんだ」
「どういう事だ?」
カーネイジは身動ぎして、アニキの手から強引に抜け出す。
そして逆にその手を掴み、有無を言わせぬ口調で、言った。
「全て教える。
 だから、ついて来て」
その目には、覚悟が宿っていた。



アニキの手を握り、カーネイジが目指した場所。
それは彼が乗ってきた飛空庭の隠し場所であり、奇しくもアニキが最初に墜落したあの地点であった。
「庭……?
 お前、別の町から来てたのか」
「……」
カーネイジは答えない。
代わりに、片手で掴んでいたアニキの手を両手で握り直す。
今度は彼が、相手を逃がすまいと必死になっていた。
「な、なんだよ?」
「アニキ…………僕は…………」
カーネイジは思い出していた。
アニキと初めてあった時のこと。
色々な場所に連れて行ってもらったこと。
アニキはこの街で、生き生きと、まるでヒトのように暮らしていた。
これから彼が言うことは、アニキからそれを奪ってしまうだろう。
「僕は…………」
だけど、それでも。
我侭だと知っていても。
彼は彼女と一緒にいたかった。



「僕は――――GN007P。
 貴女の弟です」



パァンッ!

反射的に、アニキはカーネイジの手を弾いて飛び退った。
カーネイジは少なからずショックを受けたが、今は気にしている余裕は無かった。
「アニキ、お願い、一緒にドミニオン界に帰ろう!」
カーネイジが一歩近づく。
アニキは激しくカーネイジを睨んだまま、二歩下がった。
「貴様……!私をGN002Pだと知って、ずっと騙してたのか!」
「ち、違う……!」
騙した、という言葉はカーネイジの『心』に深く突き刺さった。
親愛の情が深い分、そのダメージは計り知れないほど大きい。
「僕は、そんなつもりじゃなかった!
 僕はアニキが――」
「嘘だ!」
アニキの口調には、先ほどの親しさは欠片も無い。
完全にカーネイジを敵と見なしていた。
『心』が痛い。
その苦しみが、怒りに変わってゆくのをカーネイジは感じる。
「どうして、判ってくれないの……!」
「!」
「もういいよ……!」
カーネイジは片手を天に目掛けて、いっぱいに伸ばした。
「来い、コンティネルミサイル!」
叫びに呼応するように、飛空庭の中から巨大な連装コンテナが飛び出した。
ミサイルを満載したそれは、宙で翻りカーネイジの元に一直線に急降下。
「!!!」
一瞬の眩い閃光。
アニキが腕で目を守ったその一瞬で、カーネイジは準備を終えていた。
「強引にでも、連れて帰るからね……!」
「それがお前のマシナフォームか……!」
角の生えたような帽子に、スカート状の脚部シールド。
右腕からは、集束されたレーザーの刃。
そして背部に聳える、圧倒的質量のコンティネルミサイルの威容。
ジェノサイドナンバーズNo.7、"皆殺し"のカーネイジ。
その名に恥じない火力を要した、歩く武器庫がそこに居た。
「へっ、面白ぇ……やってもらおうじゃねぇか!」
だがそれを見ても、アニキも引かない。
むしろカーネイジが完全に攻勢に出たことで、存分に戦えると思っている様子すらあった。
ブースターから吹き上がる炎が、アニキの後ろに陽炎を生む。
メリーと殴り合った時と同等の、否、『心』が在る今はそれ以上の気迫を漲らせている。
両者の視線が、衝突した。
「……いくよ、アニキ!」
「来やがれ、カーネイジ!」



二人の激突は、すぐに光の塔に残された4人の知るところとなった。
「大変だヨ、No.2とNo.7が戦ってるヨ!」
ドゥームの報告で、三人は色めき立った。
「早く助けに行かないと!」
「でも……どうやって?」
唯一の飛空庭はカーネイジが乗っていってしまった。
また飛行機械を作ろうとすると、半日はかかる。
「……あれだ」
外を見渡していたフラカッソが、不意に呟いた。
フラカッソが大槍で指した先には、小型飛空庭。
モーグ政府が管理している、冒険者向けの輸送便に使われているものだ。
「あれをハイジャックする!」
「え、そんなことしたらモーグ軍に察知されちゃうヨ」
ドゥームが慌てて止めに入る。
だがフラカッソは一言で切り捨てた。
「No.2さえ破壊できれば任務完了だ、ここに戻ってくる必要は無い!
 行くぞ!後に続け!」
「お、おー……!」
威勢良く階段を駆け下りていったフラカッソを、ヴィソトニキが慌てて追いかけていく。
基地に残ったドゥームとカラミティーは、しばし黙って視線を交わしていたが
「……じゃ、一応行ってくるよ、後でうるさいから」
物凄くやる気の無い感じで、カラミティーは歩き出した。
彼女の場合、塔から飛び降りて体をバネ状にして着地する、という荒業が使えるのだが
階段でゆっくり降りていくつもりらしい。
「行ってらっしゃいカラミティー。
 ボクは足手まといだから、ここでサポートに徹するヨ」
ドゥームにバイバイしながら階段に消えようとしたカラミティーが、ふと尋ねた。
「……お土産は何がいい?」
「元気な3人と、しょんぼりしたフラカッソ」
ドゥームは即答。
「間違っても、アニキの首なんて持って帰って来ないでよネ」
「……任せて」



カーネイジの火力は圧倒的だった。
コンティネルミサイルのハッチからは小型誘導ミサイルが、アニキ目指して次々に飛来する。
「よっ……ほっ」
アニキはファイティングポーズのまま、華麗なバックダッシュやサイドステップで流していく。
当たりはしないが、弾幕が濃過ぎて距離が一向に縮められない。
しかも、攻撃方法はミサイルだけではなかった。
「喰らえ!グラビティーフォール!!」
カーネイジが詠唱すると、アニキの足元に特大の地属性魔方陣が展開。
「うおわっ、危なっ!」
慌てて飛び退るアニキ。
一瞬前までアニキが立っていたところは、地震を伴う超重力で局地的に陥没していた。
「てめー、剣を持っておきながら魔法型とか狡いぞ!」
「アニキがいけないんだからね!」
立て続けに次の魔法を詠唱。
すぐさまカーネイジの足元から水流が吹き上げ、身の丈を超える大波になってアニキを襲う。
膨大な水圧が相手を襲うエレメンタラースキル、アクアウェーブ。
「ちっ、意味判んねーよ!」
横とんぼ返りで回避を試みるアニキ。
しかし波の横幅は広く、足を巻き込まれてしまった。
「うおおおおっ!」
波に揉まれてゴロゴロと草原を転げ回る。
ダメージは低いが、カーネイジとの距離は更に広がる。
「これは苦手みたいだね、アニキ」
「はン、ちょうどいいボディ洗浄になったぜ……」
ゆらりと立ち上がり、カーネイジを睨み付ける。
水は滴っているが、外傷らしい外傷は認められない。
しかし体力を消耗しているのは確かだった。
「……私がいけないって、どういう事だよ……
 お前、自分が正しいことしてるつもりなのかよ」
「……」
カーネイジは押し黙った。
「どうなんだ?
 ジェノサイドナンバーズなんかに居て、ドミニオン達をジェノサイドするのがお前の望みか?」
「……違う……」
配属されたばかりのカーネイジは、まだヒトを殺したことは無い。
記憶として、ヒトの殺し方は頭に入っているが、その時自分がどんな気持ちになるか、なんて想像できない。
「私を連れて帰って、また私に殺人を犯させるのがお前の望みなのか!?」
だがアニキは違う。
その拳で何十、何百と血を吸ってきた。
今、彼女の心の中には誰にも言えない暗い後悔がある。
それがジェノサイドナンバーズへの反発に繋がっていた。
「違う!」
「お前にとって、そんなに楽しいところなのかよ、あっちはよぉ!」
「違う!違う違う違う!」
頭を抱えて叫び、カーネイジは魔力を解き放った。
「僕は……僕はただ!」
両手を広げると、コンテナがフルオープン。
全てのミサイルを撃ち出す、全弾発射モードだ。

「アニキと一緒に居たいだけなのに!!!!」
「!!!」

叫びと共に、土や草、岩をも巻き込んで、幾重もの波が草原に生まれた。
先ほどよりも数も大きさも勝る大波と、視界を埋め尽くすミサイル群がアニキに迫る。
「……この、アホンダラが!」
アニキは回避をしなかった。
代わりに腕をクロスさせて、装甲にエネルギーを篭める。
「ソリッドボディ!」
両腕と両足が赤く輝き、エネルギーの膜でコーティングされた。
そのまま、アニキは真っ直ぐカーネイジに突っ込む。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
一歩、二歩。
数トンの圧力がかかっている筈なのに、アニキは下がるどころか前へ前へと進む。
ブースターが轟音を吹き上げ、赤い光が水圧を打ち負かし、波を切り裂く。
ミサイルが当たった箇所が加熱するが、波がその熱を奪ってしまっていた。
「火力がありゃいいってもんじゃないぜ、カーネイジィィ!」
「!!!」
カーネイジの目の前で、厚い波が弾けアニキが飛び出した。
「―――――!」
その勢いを借りて、アニキの拳がカーネイジの頬を抉った。
カーネイジの体が浮き、錐揉み回転をしながら放物線を描く。
「ぐふっ……!」
制御を失った空っぽのコンテナが、騒がしい音を立てて地面に墜落した。
「……ふぅ」



カーネイジはすぐに目を覚ました。
すぐに全身の走査を行ったが、頬が痛い以外は特に外傷は無い。
「……まだまだだな、ヒヨっ子め」
「あ、アニキ……」
すぐ傍で、コンテナの残骸に腰掛けたアニキが、得意げな表情で見下ろしていた。
「負け……ちゃったね」
「勝てるとでも思ってたのか」
まあね、と返してカーネイジは立ち上がる。
「でも、やっぱりアニキには全然敵わないや……」
「はン。
 ……まあ、あの一言は結構聞いたがな……」
「え?」
アニキが明後日の方向を向いて何かを言ったようだが、カーネイジには聞き取れなかった。
カーネイジが聞き直してくる前に、アニキはカーネイジに手を差し伸べて言った。
「んなことより、お前、ウチに来いよ」
「アニキの家に……?」
「私じゃなくて、メリーって言う私の姉貴分の家だがな。
 なに、ちゃんと頼めばガキの一人くらい置いてくれるって」
その手を呆然と見ているカーネイジ。
「兄貴の姉貴……って何か変じゃない?」
「兄貴じゃねぇ、アニキだ!」
差し出した手をグーに変えて、カーネイジの頭に振り下ろした!
「痛っ!」
「全く……しょうがねぇ弟だ」
「へへ……」
「……へっ、全くよ……」
二人っきりの草原に、小さな笑いが二つ生まれた。
「それもいいかもね……
 誰も殺さなくてすむし、アニキとも一緒に居られる」
「恥ずかしいことを、臆面も無く言う奴だ……」
「恥ずかしいかな?」
「知らん」
諦めたように言うと、アニキはコンテナから降りた。
「とりあえず、行こうぜ」
「うん」

いつかの様に。
アニキは僕の手を握って。
僕を楽しいところに連れて行ってくれる。
そう思った。
その瞬間だった。

「っ、下がれッ!」
「え」
伸ばしかけた手の代わりに、野太い足がカーネイジを蹴っ飛ばした。
「ぐっはー!?」
カーネイジはまた飛んだ。
アニキも反動で後ろに下がっていた。
そしてアニキが居た位置に、空から飛来した大口径の弾丸が地面に穴を穿つ。
「この攻撃……ヤツか!」
上を向いて、苛立たしげにアニキが呟いた。
二人の上空を、低空飛行した飛空庭の影が横切る。
そこから飛び降りる、一つのDEMの機影。
手に大槍を構えたその姿は、忘れようと思っても忘れられない。
かつての仲間、そして今の敵。

「見つけたぞ、No.2」
「……可愛くないヤツが来たな」

フラカッソとアニキ。
その間には、カーネイジとの間にあった穏やかな雰囲気は無い。
『壊し合い』が始まる気配だけが、そこにあった。
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