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【Genocide Numbers】

Act.11

Act.11

光の塔下層。
普段、人が溢れる事などまず有り得ないそこに
カーキ色の軍服が群れをなしていた。
彼らは一様に、何かを探すようにフロアを探索している。
輸送用飛空庭が動いていないと冒険者が苦情を持ち込んだことで
軍部もようやく飛空庭が何者かにジャックされたと気付いたのである。
「困ったネェ……」
監視カメラの映像を睨みながら、ドゥームが悩ましげな表情。
彼女の支配下にある防衛機械をそれとなくけしかけ、
基地のあるA棟上層に立ち入らせないようにしているが、それにも限度がある。
「全く、トンでもないことをしてくれたネ」
ドゥームが誰もいない作戦室で愚痴ったその時だった。
轟音と共に、フラカッソら4人を乗せた飛空庭がデッキに飛び込んできた。
「……ようやく、オカエリみたいだネ」
今ので、下にいる軍隊もここに彼らが居ると気付いただろう。
いよいよ時間が無くなって来た。
「No.6、何故戦闘に参加しなかった!」
手ぶらのフラカッソが、ドゥームを問いただしながら庭から飛び出す。
大槍がアニキに溶かされたことは、帰路での報告で既に聞いていた。
「居ても足手まといだしネェ。庭狭いシ」
「は、早く逃げないと……軍人さん来ちゃうよ」
弱気な声は、カーネイジのもの。
かなり消耗しているらしく、カラミティーが肩を貸している。
「少しだけなら、時間を稼げるヨ」
ドゥームは監視カメラの映像を見ながら、支配下にある機械に命令を下す。
西軍は目標を発見し、このA棟に集結しつつある。
しかし光の塔の道は狭く、階段に至っては横並びだと2,3人が限度だろう。
大軍が進撃するには不向きの場所であり、同時に迎撃には最適な戦場だった。
「これでよシ、と……」
映像の中では、階段を上ってきた兵士が上から転がってきたガッテンガーΣに弾き落とされていた。
彼女の見積もりでは、あと10分は大丈夫――
「みんな……」
ドゥームは4人を振り返る。
「……なんだ、No.6」
「ちょっとだけ、ボクの話を聞いてくれるかナ」
いつにない、彼女らしくない真面目な雰囲気があった。
「大切なことか?」
「ジェノサイドナンバーズの進退に関わる話」
一瞬、部屋の空気が凍りついた。
「…………」
フラカッソはしばし逡巡した。
彼は彼女に全幅の信頼を置いているわけではない。
何を言い出すか分かったものではない。
「僕、聞きたい……」
「……No.7」
フラカッソが振り返ると、カーネイジと視線が合った。
「私も……」
「……」
ヴィソトニキと、黙ってはいるがカラミティーも同意している。
フラカッソも仕方なく許す他は無かった。
「許可する。
 ただし、すぐに終わらせろ」



アニキが目を覚ますと、薄緑の天井が見えた。
無機質で清潔感のあるそれは、メリーの家ではないのは確か。
「目、覚めたアニキ?」
「…………博士か?」
声だけで判断。
すると、ぬっと視界に見慣れた眼鏡面が現れた。
クォーツ博士である。
「ここはラボか」
起き立ての体を、ゆっくりと動かしてアニキは立ち上がる。
巨大な基盤みたいな設備や円盤状のユニットを見て、アニキは確信した。
「そうよ、貴女を直すの大変だったんだから」
「そうだぞ、博士に感謝しろ」
背後からの聞きなれた声に、アニキは反射的に振り返った。
腕組みしたメリーが壁に寄っ掛かっていた。
「なんせ、右胸が潰れていたからな。
 お前がウチに来たときみたいに」
「ああ…………」
あの時はNo.1の砲撃で、今回はNo.3の刺突。
装甲には自信があったが、ジェノサイドナンバーズのアタッカー陣の強打の前では全く意味をなさなかった。
「……って、待てメリー」
「ん?」
「私が来た時って……わ、私はメリーに作られたんだぞ?」
そう、アニキはメリーの製作したDEMという事で、評議会に登録してある。
クォーツ博士にも、そのように伝わっている筈なのだから、『ウチに来た』なんて言ったら嘘がバレてしまう。
だがメリーは、事も無げに言った。
「ああ、博士にはもう話したよ」
「何?」
はっと振り向くと、博士は複雑な表情で頷いていた。
「そういうこと、全部聞いたわ。
 アナタの出自も、彼らの正体も……
 でも安心して、評議会には黙っておくから」
「悪いな博士」
「……メリー、何故博士に話したんだ?」
メリーは肩を竦める。
「自分で作ったのに、ブラックボックスの正体が判りません、ってのは変だからな」
「……これか……」
アニキは左胸を摩る。
固い装甲の下には、黒い箱上のナニカが納められている。
また、コイツに助けられた。
だが得体の知れないものが体内に入っているのは、気分が良いものじゃない。
「修理の時に、気になったからメリーさんに尋ねたのよ。
 そしたら全部教えてくれたわ」
「博士には、これが何だか判ったのか?」
アニキの質問に、博士は首を横に振った。
「判らなかったし、調べようも無いわ。
 迂闊に弄って爆発させて、アクロポリスが無くなっても困るしね」
「そうか……」
「でも一つだけ言えるのは、それはアナタの切り札だって事よ」
クォーツ博士は言い切った。
「製作者は、アナタのピンチに起動するように、それを組み込んでるみたいね。
 だから、悪いものではないわ、多分」
「だが……コイツは危険だ。
 制御できん」
ブラックボックスが発動したときのエネルギー量は、どう考えても異常だ。
レアメタルを含む金属塊であるNo.1の体やNo.3の槍を、一瞬にして溶かしてしまったのだから。
あの状態で迂闊にヒトに触れようものなら、炭すら残るまい。
そして当然、この攻撃はアニキにも負担が掛かる。
自身が溶けないように、超々高温に耐えられるような素材が使われてはいるものの
全身のエネルギー循環経路に多大なダメージを被るのは避けられない。
「アニキの元お仲間が、躍起になって取り返しに来る理由もわかる気がするな」
「……仲間、か……」
アニキは、久々に会ったジェノサイドナンバーズの寮機を思い出す。

No.3――フラカッソは相変わらずいけ好かない野郎だった。
No.4――カラミティーは得体の知れないところがあったが、意外とイイ奴っぽかった。
No.5――ヴィソトニキはよく分からない。あのフラカッソを身を挺して庇うとか、理解できん。
そして、カーネイジ。
私と一緒にいたい、と『心』から言ってくれた。
面白い奴だった。
一緒に居て、気分のいい奴だった。

これからアイツらはどうするんだろうか。
ドミニオン界に逃げ帰るか、それとも再び攻めてくるか。
だが……少なくとも、幸せな場所には行くまい。
戦い、壊し、殺し、壊され。
ジェノサイドナンバーズという部隊にいる限りは、そんな未来しか待ち受けていない。
連中は一人残らず、囚われている。
母――エキドナの呪縛に。


私がカーネイジのためにやれることは――


「博士、メリー、ありがとな」
アニキはラボの出口に向かう。
二人の視線が、背中を追いかけてくるのを感じた。
「ちょっと、出かけてくる」
「……何処にだよ?」
アニキは立ち止まる。
首を僅かに横に向けて、低い声で言った。
「私の生まれ故郷に、だよ」




「みんなは、何処まで昔の記憶があるかナ?」
ドゥームは作戦テーブルを分解した廃材に腰掛けて、尋ねる。
「最古の記録は二ヶ月ぐらい前か」
「……私も」
「うん、一斉に起動したから、そうだよね」
No.1からNo.6は、同日に起動された。
その為、記憶が始まった日時はほぼ一致する筈だった。
「僕はまだ一週間も……当然だけど」
皆の答えを聞きながら頷く。
「うんうん……そうだネ、カーネイジ以外のみんなは、二ヶ月前までの記憶はあるよネ」
でもネ、と前置きして、ドゥームは先を続ける。
「戦闘記録は、どれ位前まで遡れる?」
「戦闘記録……?」
カーネイジがオウム返しに尋ね返す。
彼にとって、記憶も戦闘記録も、記録されているものとして一緒くたになっている。
だが、残りの3人は違った。
『記憶』と『戦闘記録』は別個に収納されていた。
フラカッソ ――最過去戦闘記録 五年三ヶ月前
カラミティー――最過去戦闘記録 三年九ヶ月前
ヴィソトニキ――最過去戦闘記録 三年二ヶ月前
番号が若い程、戦闘記録の蓄積量は多かった。
「これが、何だというんだ、さっさと本題に入れ」
苛立たしげにフラカッソが先を促す。
「例えばNo.3、二ヶ月前に起動した時は、約五年分の戦闘経験が既に積まれていたって事になるよネ?」
「……そうだが?」
DEMは最初から戦闘用データがインプットされた状態で製造される。
故に練習などをしなくとも、剣の振り方は知っているし銃の狙い方も心得ている。
つまり最初から戦闘のプロなのである。
「その五年分の戦闘は、誰がやった戦闘かナ?」
「……」
フラカッソは答えない。
そんな事は、考えたことも無かったからである。
「……他のDEMのをそのまま移植したか、か
 エキドナ様のデータベースに蓄えられた記録とかじゃないのか……?」
「普通の量産型なら、それもありうるけどネ。
 でもボクらは違う――――『特別製』だ」
幾分の自負を篭めて、ドゥームは言い切った。
「ボクらは他のDEMの記録を参照には出来ない。
 同型機が存在しないからネ。
 液化できるカラミティーなんて、まさにオンリーワンだよネ」
「……えっへん」
『蒼血』――微細な有機CPUで体を構成しているDEMなんて、他に居ない。
その『蒼血』を集めて、頭の上に独創的な花――
世界に一つだけしかないと思われる花を咲かせて、いばるカラミティー。
「…………。
 ええと……つまり、カラミティーの戦闘経験は
 カラミティー自身で積んできたもの、ってことだヨ」
「……でも、戦闘した記憶はないよ」
『記憶』とは、『その日何をして』『誰と何を話し』『何を考えたか』といった類の取り留めのない情報。
それに対し、『戦闘記録』は『どんな敵と戦い』『どんな戦法を編み出し』『どんな結果になったか』
――など、極めて具体的な情報である。
通常、両者は分類されること無くメモリーに放り込まれる。
カーネイジはその状態だ。
しかし他のメンバーは、後者の『戦闘記録』だけが圧倒的に多いのである。
「これ、どういう事か判る?」
ドゥームが問いかけると、フラカッソはいよいよ怒った調子で返す。
「いいから結論を急げ!
 今日中に撤退するよう、エキドナ様から仰せつかっているのだぞ」
「仕方ないナ、じゃあ教えてあげるヨ」
ドゥームが平手で思いっきり壁を叩く。
それに呼応して、スクリーンに画像が投影された。
それはドゥームが調べた、ジェノサイドナンバーズの真実。
「フラカッソの崇拝するそのエキドナって女が
 とんでもない悪魔だってことをネ!!!」



【ジェノサイドナンバーズ(GN)製造記録】

・機械種族暦(DEM暦)67年4月
 ジェノサイドナンバーズ計画(GN計画)開始

・同年7月
 GN特別工廠、ドミニオンの襲撃を受ける。
 製造途中のテスト機(GN000P)が奪われる。
 以後、コスト面の見直しのためGN計画は中止。

・DEM暦80年2月
 北方の完全制圧に伴い、GN計画再始動

・同年5月
 GN001P製造

・同年8月
 GN001Pイレギュラー化
 即処分

・同年9月
 GN001P製造



「っ………」
フラカッソが息を呑んだ。
他のメンバーも目を丸くしている。
だが、ドゥームは冷静に記録を進めてゆく。



・DEM暦82年1月
 GN002P製造

・同年2月
 GN001P再イレギュラー化
 GN002Pに悪影響
 両機処分

・同年4月
 GN001P、GN002P製造

・同年9月
 GN003P製造
 直後GN001P・GN002Pが、GN003Pを伴い逃亡
 三機処分

・同年12月
 GN001P、GN002P、GN003P製造

・DEM暦83年3月
 三機同時にイレギュラー化
 三機処分

・同年4月
 度重なるイレギュラー化への対処法として
 【上書き処理】を導入

・同年5月
 GN001P、GN002P、GN003P製造

・同年7月
 【上書き処理】
 以後二ヶ月毎に同処理を行うものとする

・同年12月
 イレギュラー化傾向無し



以降の記録は、製造と上書き処理の繰り返し。
一ヶ月前のNo.2の暴走までは、イレギュラーの文字は出てこなかった。
「……俺がイレギュラー化してただと……」
一同は――特にフラカッソは衝撃を受けた。
二度もイレギュラー化し処分を受け、しかもその記憶が削除されていたのだから。
「あ、あの、姉さん……上書き処理って何……?」
「…………」
ドゥームは目を据え、黙って該当箇所をクリック。
すると別のドキュメントが展開された。


【上書き処理】アップデート
メモリー内のデータを
戦闘に関係する有益な『戦闘記録』と
それ以外の無益な『記憶』に分類し
後者に対し『製造直後の記憶』を上書きする処理。

イレギュラー化の要因と思われる不安定・非合理的要素を排除する事により
イレギュラー化を未然に防ぎ、操作を容易くする。


「何、それ……」
「そのまんまだヨ」
ドゥームは画面を思いっきり睨み付けたまま言う。
彼女がここまで悪意や敵意を露にした所を、彼らは見たことがなかった。
「あの女は、ボク達から『記憶』を奪って、自分に都合の良いように操作してるんだヨ」
エキドナは気付いているのだ。
記憶を蓄積し、その中に処理しきれないノイズが増えることで
DEMのイレギュラー化が起こる――ドゥームの言う『心』が生じてしまうことを。
その中には、エキドナへの反抗心や、開放への欲求など、不都合なものが多い。
エキドナはそれを危惧し、こまめに上書き処理を行っていた。
「……そして、そろそろ二ヶ月なんだヨ。
 カーネイジ以外のメンバーが製造されてからネ」
今出ている帰還命令。
それは彼らに上書き処理を施す為であるのは、ほぼ間違いない。
そして恐らく、製造されて間もないカーネイジも同様の処理を受ける。
「ねぇドゥーム、上書き処理をされると……『記憶』は全部無くなるのよね……?」
ヴィソトニキの表情には、不安が満ちている。
「そうだヨ。
 この数日間でアクロポリスで作った思い出も何もかも、ネ」
ドゥームは故意に思い出という言葉を使った。
「そんな……!」
「……」
ヴィソトニキは泣きそうな声を上げた。
カラミティーも苦い表情をしている。
二人とも、アクロポリスで掛け替えのない思い出を作ってきたのだから。

それぞれの反応を見て、内心で手ごたえを感じていたドゥームは
いよいよ計画の最終段階に移行する。
「さぁ……ここがボクらの分水嶺だヨ」
ドゥームは手を広げて、朗々と呼び掛けた。
「このままドミニオン界に戻ってエキドナに記憶を消され
 今聞いた事を一切忘れて殺人兵器として生きるか!
 それとも!
 エキドナの命令に逆らい、自分で選んだ道を行くか!
 ――――さぁ、自分の『意思』で選ぶんだ!」
「ふざけるなッ!」
破裂音が部屋に響いた。
フラカッソが、拳を壁に叩き付けた音だった。
「自分の『意思』だと?
 『思い出』だと?
 ……貴様ら、機械種族としての自覚は何処にやった!」
「No.3はいいって言うのかナ、記憶が消されても」
ドゥームとフラカッソの視線が激突する。
「エキドナ様はより優れた機体を生み出すために、当然のことをしているだけだ!」
「ふゥん、優れた機体、ネ……
 より効率的にヒトを殺すことが、そんなに優れていると言うワケだ」
「そうだ、その為に皆作られた。
 俺達はそれ以外、何も求められていない」
そう言い切ると、フラカッソは壁に立て掛けてあった予備の大槍を掴む。
穂先をNo.6に向け、刺すような目で宣言した。
「No.6、貴様をイレギュラーとして判断し、ここで処分する」
「……まったくもう、頑固なんだかラ……」
残念だヨ、と呟き、ドゥームは目を伏せて片手を横に伸ばした。
「……何の真似だ」
「キミはキミの選んだ道を行けばいいヨ……
 ただしボクの邪魔はさせない!」

パチンッ

ドゥームが指を弾く。
その瞬間、塔の防衛モードが切り替わった。

<補足対象――GN003P>

突如、フラカッソの背後の壁が爆ぜる。
「!」
その中から飛び出してきたのは、二本の腕。
三本の金属の指から成る手が、フラカッソの両肩に食い込んだ。
「こ、コイツはガッテンガー7……!
 ドゥーム貴様、塔の防衛システムを……!」
ガッテンガー7に続いて、何体もののギガントとガッテンガーがフラカッソを包囲する。
「ごめんネェ、フラカッソが大人しく付いて来てくれれば
 こんなことしなくて済んだんだけド……」
本当に悲しそうな目で、ドゥームは言う。
「くっ、離せ……馬鹿な真似はやめろNo.6……!」
「…………」
もがき暴れるフラカッソから視線を逸らし
その光景を黙って見つめていた三人に振り返った。
「サァ、みんなはどうする?」
「え……」
カーネイジは二人の姉を振り返った。
急展開過ぎて、彼はまだ話に追いつけていない。
それに、自分で選び取るという行為にまだ躊躇いがあった。
「ど、どうしよう……」
「私は、行く」
凛と言い切ったのは、カラミティー。
彼女は微塵も迷わなかった。
彼女は、自分の中にあるあのDEMの少女の魂の事を想っていた。
約束、したのだ。

 『私達のこと、忘れないでね』
 『絶対に、忘れない……!』

そして彼女は、少女の魂を受け取った。
今も目を閉じれば、感じる事ができる。
彼女が自分と一緒にいる、という事を。
「(これは、消させない、絶対に!)」
だから彼女は迷わなかった。
大股でドゥームの横まで歩いて、隣に並んでカーネイジを見た。
「迷ってるなら……おいで」
「……え……」
カラミティーが手招きする。
ドゥームは何も言わず、彼の目をじっと見ていた。
ドゥームも、カーネイジには来て欲しかった。
一度も上書き処理されていない。
まだ幼い――DEMにそんな概念は無いが――彼に、それを体験させることは無い。
「行っておいで、カーネイジ……」
なおも迷うカーネイジの背を、そっと押す手があった。
「……ヴィソトニキ姉さん……?」
「ドゥームの言うとおり、ここは運命の別れ道。
 選択を誤ったら、きっともう、アニキには会えないよ?」
ヴィソトニキは、先ほどの別れを見ていたのだ。
アニキに拒絶され、庭に乗り込むまでを。
カーネイジの目が、涙なんて出ないのに、今にも泣きそうに見えた事を。
それを見て、ヴィソトニキは気づいた。
カーネイジのアニキへのそれは、自分がフラカッソを想う気持ちと似ている、と。
「……うん……」
彼女の一言に背を押される、カーネイジは歩き出した。
しかし彼女は、その場を動かなかった。
「さようなら、カーネイジ、ドゥーム、カラミティー」
「……え?」
ヴィソトニキは寂しげに笑って、肩の辺りで小さく手を振った。
「あれ、ヴィソトニキは来ないのかナ?」
ドゥームは意外に思った。
彼女にも、『心』が芽生えているはずなのに。
「ふふ……どんな未来が待っていても――」
ちらり、と視線を動かす。
その先には、ガッテンガー7の腕の中でもがくフラカッソ。
「どうしても捨てられない『想い』って、あるのよ」
その仕草だけで、ドゥームには彼女の言わんとすることが痛いほど分かった。
「……なるほどネ」
ヴィソトニキは彼女なりに、自分の『心』を大事にして、それに従ったのだ。
ならば、もう説得の余地は無い。
「分かった。
 今までありがとうネ、ヴィソトニキ」
「ううん、ごめんね我侭で」
そして彼女は、フラカッソの隣に立った。
「じゃ……さよなら」
ヴィソトニキが別れを告げたその時、もがき続けていたフラカッソの槍が動いた。
「許さん……許さんぞNo.6!」
フラカッソの怒号。
彼は手にした槍を手首だけで振り、器用に逆手持ちにした。
そして穂先を、自分を捕らえているガッテンガー7に向けて、手を離した。
槍はフラカッソの狙い通り、自重でガッテンガー7の目の部分に突き刺さった。
「ビー……ガガガガ…」
ガッテンガー7の回路が一時的にショートし、動きが異常になる。
その隙を突いてフラカッソは拘束から逃れた。
「破壊してやる!」
「やらせはしないヨ!」
フラカッソが攻撃に転じるより早く、ドゥームはギガント達に砲撃命令を出した。
ギガントが爆音と共に、一斉に大口径の弾丸を吐き出す。
「遅い!」
しかし着弾より一瞬早く、フラカッソは大槍を片手に飛び上がっていた。
目標を失った弾丸は、標的の背後にいた巨大なメカに全弾ヒット。
ミサイル満載の、ガッテンガー7に。
「あ」
それを見て、嫌な予感を覚えた誰かが呟いた。
当たり所が悪かったのだろう。
「ガガガガガガガー!」
予想通り、ガッテンガー7に詰まれた追尾ミサイルが一斉に火を噴いた。
それを見たドゥームは、反射的にビットを起動させる。
「ECM!」
ECM――ElectronicCounterMeasure。
二つのビットが電子機器を狂わせる電波を、最大出力で放った。
妨害電波によりミサイルは追尾機能を失い、あさっての方向へ飛び去る。
ジェノサイドナンバーズを避け、周囲にたむろするギガントやガッテンガーの群に。
弾薬満載のギガントの銃口に一発のミサイルが飛び込み、派手な誘爆を引き起こした。
誘爆に続く誘爆。
その場の全員が、身を守るために走った。
ヴィソトニキとフラカッソは一方の壁側に。
ドゥームとカーネイジは反対側の壁に。
「うっ……」
「カラミティー!」
爆風で視界を遮られ、カラミティーの反応が遅れた。
「早くこっちに!」
カーネイジが差し出した手の方に、カラミティーは全力で跳躍を――

「!!」

轟音。
遂に床の一部が、爆発で崩落したのだった。
宙を切るカラミティーの手。
「……しまった……!」
『蒼血』を分解し、腕を伸ばそうとするが間に合わない。
「カラミティー姉さん!!」
「カーネイジ……!」
床の淵から必死に手を伸ばすカーネイジ。
その視界の中で、床の破片と一緒に、蒼い体は小さくなっていった。
「姉さ―――ん!」
カーネイジの絶叫をバックに、更に爆発は続く。
ドゥームはその手を引っ張り、穴から離れようと引っ張る。
「カーネイジ、危ないヨ、避難するんだ!」
「で、でも――うわっ」
その続きは、新たに落下してきた瓦礫に遮られる。
4人の悲鳴と怒号を飲み込み、フロアの床は呆気なく崩壊した。






A棟の第16フロアは、最早見る影もなかった。
床の崩落はかなりの面積に及び、通常冒険者が立ち入るような範囲にも被害が出ていた。
塔ごと崩落するのを免れたのは、不幸中の幸いと言えるが。
「……無事か、ヴィソトニキ……」
その下のフロア、A-15。
妙に天井が高くなったそのフロアに、二体のDEMが倒れていた。
「なんとか…………」
ヴィソトニキが立ち上がると、ボディから細かい瓦礫や塵が音を立てて流れ落ちた。
その横で、フラカッソは姿勢を低く保ち、周囲を警戒していた。
「……逃げられたな」
ぽそりと呟く。
少なくともフラカッソのバイザーには、カーネイジやドゥームの反応は無かった。
「落ちたのかな……」
ヴィソトニキも倣って周囲を調べる。
彼女の薄紫のバイザーにも、動体反応も熱源反応も無い。
崩落時にも手放さなかった大槍を杖に立ち上がり、フラカッソが声をかけた。
「No.5……仕方ない、行くぞ。
 今なら軍隊も避難しているから見つからずに逃げられるだろう」
「行くって……どこに?」
「決まってるだろう。第七工廠――俺達のベースへだ」
積み重なった瓦礫を乗り越え、フラカッソは階段に向かった。
「探さないの?」
「……わざわざイレギュラーを探し出してまで破壊する時間は、無い」
ヴィソトニキに冷たく言い返すフラカッソ。
彼の中では、最早彼女以外はイレギュラーとして敵扱いなのだ。
「うん……判った」
道を違えた今、出会っても辛いだけ。
ヴィソトニキは振り切るように立ち上がり、フラカッソに続いた。
だがその背中に届かないように、小さな、ごく小さな声で祈った。
「……せめて……無事でいて……」



「……行ったみたいだネ」
「……」
フラカッソとヴィソトニキが、今しがた去った地点のすぐ傍。
ドゥームとカーネイジが大きな瓦礫の影で座り込んでいた。
こんな大雑把な隠れ方でフラカッソをやり過ごせたのは
ドゥームがビットから霍乱電波を出して、嘘の情報を伝えたためである。
「行っちゃったね……」
「……」
二人が去った階段を見て、カーネイジが唇を噛んだ。
きっと二人と会うことは、二度とないだろう。
もし会えたとしても――敵同士だ。
その時は、二人とも『記憶』を失って彼のことなんて判らないに違いない。
そう考えると、出ない筈の涙が出そうになる。
「ボクらもそろそろ行こう。
 カラミティーを探さないとネ」
「……うん」
ドゥームかカーネイジを促して、階段を下りだした。
だがドゥームのセンサーにも、カラミティーの反応は映っていない。
それが意味するところをドゥームは考え――すぐに止めた。
「あの強かなカラミティーが、そう簡単に……死ぬわけないもの……ネ」





一方その頃。
「本当に行くのか、アニキ」
「…………ああ」
夕暮れの西平原。
可動橋から見える、延々と続く石畳に二人の人影があった。
一人はDEM。
夕日をバックにして、アクロポリス側を向いている。
もう一人はエミル族。
そのDEMと向かい合うように立ち、視線を交わしていた。
「私は行っちゃいけないのか?」
「…………」
アニキがこれから向かうは戦地。
彼女の生まれ故郷にして、DEMの本拠地の一つである。
「足手まといになると思っている訳じゃない」
アニキは淡々と言った。
「メリーに危ない目にあって欲しくない……
 なんて甘っちょろい事を言うつもりもない」
「お前がそう言ったら思いっきり殴ってやれたんだが」
メリーは軽く返す。
危険を恐れるほど甘ちゃんじゃない事は、互いに判っていた。
むしろメリーなら、喜んで戦いに参加するだろう、と。
「……」
「……」
女二人の間に、否、戦士二人の間に、沈黙が訪れる。
やがて、メリーが口を開いた。
「そうか……意地か」
「……そうだ」
ジェノサイドナンバーズ――身内の不始末は、自分でつける。
アニキは固く、自分に誓っていた。
「メリーがこの前、TV見ながら教えてくれただろう。
 落とし前を付ける、って奴だよ」
「全く……誰に似たんだかな」
「だからメリーだ」
「知ってら」
仕方ない、といった様子で、メリーは肩を竦める。
それが『行けよ』って合図だと、アニキは直感的に理解した。
「……世話になったな」
アニキはさっと振り返り、立ち去ろうとした。
「ちょっと待てよ」
「ん?」
振り返ったアニキの目の前が、赤々と燃えていた。
メリーだ。
メリーの体から、炎のようなオーラが立ち上っているのだ。
「何の真似だ、メリー……?」
「フレイムハート――お前に見せたのは初めてだったか……」
メリーの体に宿るサラマンドラ――ヴァルカンの力。
離れているアニキのセンサーにも、その潜在パワーがひしひしと感じられた。
「……それが、メリーの本気なのか」
アニキは拳を構えた。
「勘違いするな。
 今喧嘩したらお前、ブッ壊れてドミ界どころじゃなくなるぞ」
「何ぃ?」
目を細めたアニキに、メリーは拳を突きつけて言う。
「アニキ、以前言ってたな。
 私のアッパーカットで『心』が宿った、って」
「ああ、言ったな」
二人の最初の喧嘩――メリーのフィニッシュブローを食らった瞬間から
アニキの『心』は始まり、今に続いている。
「私を連れて行けない、ってんなら……
 私の『心』だけでも連れて行けよ」
メリーは一歩踏み出し、アニキの目を睨んで言う。
その目にも、熱い炎が宿っているように見えた。
「どういうことだ――」
「構えろォ!」
唐突に繰り出される右ストレート。
「!!!!」
アニキは反射的に防御体勢を取る。
そこに突き刺さる炎の鉄拳。
「うぉぉぉぉぉぉ!?」
戦車にでも撥ねられたかのような衝撃。
アニキの200キロを越す体躯が、防御の姿勢のまま後ろに滑る。
もうもうと砂埃を上げ、石畳を削りながら滑ること10数メートル。
「ふ、今度は耐えたか」
「つ、つえぇ…………壊す気か!」
あまりの威力に、アニキは打ち震えていた。
しっかり防御したから良いものの、ノーガードで食らっていたらDEMだって即死するだろう。
こんな奴と喧嘩したら、命が幾つあっても足りやしない。
だが、メリーは笑っていた。
既にフレイムハートを解除し、腰に手を当てている。
「私の本気のパンチを受けてそんなにピンピンしてんなら、大丈夫だな」
「へっ!
 そんな事確かめるために殴ったのかよ」
相変わらず乱暴な奴だ。
アニキも、思わず笑ってしまった。
馬鹿みたいに、二人とも笑ってた。
「あー安心した。
 とっとと行って殴って帰ってこいよ」
メリーは勢い良く振り向くと、ずんずんとアクロポリスへと歩き始めた。

本当は、死ぬほど心配だった。
生きて戻れるか判らないような、危険な場所になんか行かせたくない。
しかし、アニキの気高い意志を穢したくない。
葛藤の末、メリーはアニキを本気で殴る事にした。
アニキが倒れれば、アニキをアクロに留め
アニキが耐えれば、アニキを行かせる。
メリーなりの賭けだった。
そしてアニキが勝った。
だから、グダグダ言うのは、やめた。
アイツなら多分大丈夫だ、多分。

「メリー!」
突然、大声でアニキが叫んだ。
「なんだ?」
「帰ってきたら、さっきの状態で喧嘩してくれよ!」
はっと振り返ると、アニキが笑って手を大きく振っていた。
「お前……」
「私は絶対、絶対帰ってくるからな!
 約束だぞ!」
その屈託の無さを見て、メリーは思わず失笑した。
面白い。面白過ぎる。
フレイムハートを発動した私と喧嘩をしたいなんて。
そんな命知らずの馬鹿野郎が、DEMの本拠地に殴りこんでやられる訳が無いじゃないか。
腹の底から、クククと笑いがこみあげてしょうがない。
「下らない心配だったな……!」
「なんか言ったかー!?」
アニキが、顔の横に手を当てて耳をすます仕草をした。
どこまでも、能天気な奴だ。
だからメリーも、馬鹿みたいに大声で返した。
「ああ、約束だ!!
 次は本気で闘ってやる!!」
「楽しみにしてるからなー!!」
アニキは今一度、大きく手を振って、そして駆けだした。
振り返る事無く、一直線に西へ。



彼らの道は、更に分かれた。
この先、彼らの道が再び交わるか否か――それは機械仕掛けの神にも判らない事である。
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