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【Genocide Numbers】

Act.21

――音が止んだ。



フラカッソは、ヴィソトニキが何かを叫んでいるのを何度も耳にしていた。
彼に向けたものでは無いらしいので、あまり気には止めていなかった。
だが、様子が変わった事に気付く。
声と同時に銃声が止んだのだ。
不審に思ったフラカッソは、目の前の邪魔なDEMIL数体を
スピアサイクロンで纏めて吹き飛ばし、その隙に振り返った。
「……どうした、No.5――――!!!!」
彼の目の前に、ヴィソトニキはいなかった。
彼女は、彼の足元に蹲るようにして倒れていた。
オイルが大量に流出し、右半身が酷い損傷を受けているのが一目で判った
そしてその前で、イミテイトF1型が額から火花を飛び散らせながらも
ぎこちない動きで剣を抜き、ヴィソトニキにトドメを指そうとしていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
気が付くと、フラカッソは大槍を凄まじい速度で繰り出し
イミテイトF1型の胴体を突いていた。
イミテイトF1型は枯葉のように吹き飛ばされ、空中で爆散。
だがフラカッソは、そんな事を気にしている余裕は無かった。
「No.5!どうした!しっかりしろ!」
「う…………」
片膝を突き、槍を置いてヴィソトニキの体を腕で抱きかかえる
彼とは比べ物にならないくらい、傷は深い。
右肩からざっくりと胴にかけて袈裟斬りにさ
腹部は刃を中で捻ったかのような酷い破損個所を呈していた。
どう見ても致命傷。
意識が有るのか無いのか、ヴィソトニキは目を殆ど閉じて浅いピクリともしない。
「くっ…………!」
こうしている間にも敵は接近してくる。
「(早く、どこか安静に出来る場所に移送せねば……!)」
ノイズまみれのブレインで、フラカッソは必死に思考した。
フラカッソは腿部に装備したボックスに手を伸ばし、スモークグレネードを取りだす。
取って置きの一発だが、彼は躊躇いなく地面に叩きつけた。
軽い破裂音と共に、もうもうと煙が立ち込め、二人の姿を文字通り煙に巻いた。
「後ちょっとだ、耐えろよ、No.5……」
槍を背負い、右腕をヴィソトニキの背中側に通し、右のわき腹をしっかりと掴む。
そして彼女の体を自分に密着させると、煙の中を駆け、敵を僅かでも凌げそうな場所を探した。
これ以上傷を広げないように、と彼は必死だった。
「死ぬな……死ぬんじゃない……!」
「………フラ……カ……」

フラカッソは、巨大機械の残骸が何体も横たわる場所の影に、身を潜めた。
すぐに見つかってしまうだろうが、隠れないよりは遥かにマシと言えた。
「No.5、しっかりしろ!」
「…………う……」
ヴィソトニキを横たえ、上半身を腕で支える様に抱いて呼び掛ける。
その声が届いたのか、ヴィソトニキは少しだけ目を開いた。
「フラ………わ、私……………」
まるで焦点は定まらず、視線はフラカッソの背後を向いているかのよう。
それでも彼女は、必死に彼に何かを告げようとしていた。
「意識を保てNo.5、今すぐに応急手当てをする」
「駄……目…………」
ヴィソトニキが首を振ろうとするが、それすらも困難な様子だった。
エネルギー量の急激な低下によるショック症状で小刻みに震える体を、フラカッソは摩る。
「大丈夫だ……大丈夫、安心しろ……」
それは、自分に言い聞かせているようだった。
胸の迷彩柄のハッチを空け、フラカッソはケーブルを取り出した。
「ほら、今電力を供給するから――」
「だ……めだっ………てば……」
何故か震えてしまう指先でケーブルの先をつまみ、ヴィソトニキの傷口から体内に接続する。
頼りない二本のケーブルで、フラカッソのエネルギーがヴィソトニキの体に少しずつ注ぎ込まれる。
僅かだが、ヴィソトニキのブレインは機能を回復した。
「どう……して………?」
だが、ヴィソトニキの放った言葉は、フラカッソを責めるような口調だった。
まるで、助けて貰いたくなかったかのようだ。
「どうして、って……」
「こんなこと……したら、フラカッソのバッテリーが……無くなっちゃ……
 動けな……くなっちゃう…じゃない……」
「……案ずるな、まだ残量には余裕がある」
ぎこちなく微笑むと、フラカッソは一旦彼女を横たえた。
ケーブルは繋いだが、彼女の傷から常にオイルが漏出している。
すぐに塞ぎ、その他の伝達系コードも繋ぎ直さないと
いつ機能停止してもおかしくない酷い状態だった。
「今すぐ、その損傷も修理する」
オイルにまみれ、飛び散る火花で少し焦げた手を、傷口の方に差し伸べる。
だがその手を、ブラウンの手が押し留める。
「やめ、て……フラカッソ……」
「何をしている…!
 すぐに修理しないと――」
その言葉を、ヴィソトニキがか細い声で遮る。
「判って、るでしょ……?
 もう……手遅…れ、だって……」
フラカッソは押し黙った。
彼女の言う通り、彼女がどれだけ死に瀕しているか、同じDEMの彼には判っていた。
この傷で即機能停止しなかった方が、奇跡と言えるほどであった。
しかしフラカッソは、その現実を認められない。
ブレインの何処かが、頑として拒否をしていた。
「お前を背負って包囲網を突破するくらい、片腕でも可能だ
 ちょっと応急処置をして、すぐにメインベースまで行けば直――」
「……嘘吐き………それくらい、私の、馬鹿な演算素子……だって判る…わ」
ヴィソトニキの言葉は、真実。
朦朧とした彼女にも判るほど、フラカッソの発言は非現実的だった。
完全なリアリストの彼らしくない発言だ、とヴィソトニキは思った。
「確かに成功見込みは0.005%程だ。
 ……しかし他に方法は――」
「貴方、一人で……行けば、40.2……4%になる、わ。
 私達DEMの、基本命令に…瀕死の仲間……助けるなんて、無い筈よ……」
彼女の言う通り、DEMの基本法則に従うなら、フラカッソは彼女を見捨てて戦闘を続行すべきだった。
彼にも、それは判っていた。
傷ついた倫理回路も、それを激しく主張していた。
だが――

「その考えは棄却された」

フラカッソは、きっぱりと言った。
「自分でも、理解不能だが」
それでも、彼の目に迷いはない。
彼はノイズに、身を委ねていた。
「……フラ……カッソ……?」
フラカッソは傷口の手当てを再開し、言葉を選びながら慎重に話す。
「No.5の破棄、という本来最も望ましい判断を選択すると……エラーが出る。
 ……奇妙な話なんだが――」
「…………」
「いつの間にか、お前の優先度が一番高く設定されていた」
「……!」
フラカッソの思考回路や倫理回路は、極めて正常ではあった。
だがその下、根幹となるOSに、それは書き込まれていた。

『最優先事項:ヴィソトニキの笑顔』

それは大原則。
どんな命令も回路も覆せるものじゃない。
「だから、お前を見捨てることは、出来ない」
「フラカッソ……有難う……」

ヴィソトニキが、笑った。
目を細め、目尻を下げるだけの変化だったけど。
オイルや砂埃で汚れた顔だったけど。
確かに笑っていた。
それを見て、フラカッソの中で、また感情が喚起される

もっとこの笑顔を見ていたい。
もっとこの子と一緒にいたい。
もっとこの子を幸せにしたい
ずっと笑顔で、いて貰いたい

彼の頭のどこかで、倫理回路が焼け落ちる音がした。
それは、恋に落ちる音にも似ていた。



「嬉しいよ、凄く……」
ヴィソトニキは、身体の痛みなど忘れていた。
『心』を、処理できないくらいの幸せのノイズが埋め尽くしていたから。
「何故……?」
フラカッソが、不思議そうな表情で覗き込んでくる。
もっと顔を近づけてくれないかな。
そんな不埒なことまで、考えてしまう。
「私の一番……大切な人が、私の事も、一番、大切だと……思っててくれたなんて……」
万感の想いを込めて。
今の気持ちを精一杯伝えた。
「こんなに嬉しい事、他にないよ……!」

フリじゃなかった。
芝居でもなかった。
肩を抱く手の温もりも。
一緒に映画を見た眼差しも。
寝ても離さなかった逞しい腕も。
夢に落ちる時に囁いた優しい言葉も。
何もかも―――――――――本物だった!

想いは一方通行じゃなかった。
今私達は、お互いを、ちゃんと見つめ合っている。
不器用な――泣けちゃうくらいに不器用な、でも何よりも素敵な、両想いだった!



「……そうか……」
フラカッソは見た。
ヴィソトニキの笑顔を。
それ瞬間、フラカッソの中で倫理回路に封じられていた記憶が、花が開くように蘇る。
彼の一番大切な記憶が。
彼の腕を自分の物のように抱いて、笑いかけるヴィソトニキ。
その裏で、彼女は想いを伝えようと必死になっていたのではないか。
そして自分は、悉く無視し続けてきたのではないのか。
フラカッソは深く悔やんだ。
彼女を傷つけ続けた事。
無視を繰り返し、挙句の果てには槍まで突き付けた。
最低だ。
それでも彼女は、一番大切な人、と呼んでくれた。
フラカッソは、それが嬉しく、悲しい。
どうして、やっと結ばれたのに。
離れ離れにならなければならないのか――



――どうして、彼女が逝かなければならないのだ?



ヴィソトニキは嬉し泣きの表情で、そっと手をフラカッソの手に重ねた。
「私……幸せだったよ……」
彼女の言葉は、過去形。
フラカッソは聞こえない振りをして、彼女の体を持ち上げようとした。
「さて、行くか」
「うん……行ってらっしゃい」
「お前も……行くんだ……」
何処までも穏やかな表情で、彼を見送ろうとするヴィソトニキ。
フラカッソは首を振って、それを懸命に否定する。
「二人で行こう……!」
「気持ちは嬉しい、し……私も、そう、したい」
限界が近いのか、言葉が途切れ途切れになる。
「けれど……私も、貴方が一番大切だから
 無謀なことして、私に殉じさせる訳には、いかないの……」
「…………」
フラカッソにも、判ってる事だった。
それでも彼は諦めたくなかった。
彼女を救えないなら、自分も一緒に逝く――とさえ、考えていた。
だが、彼女にそう言われてしまっては、彼も退かざるを得なかった。
「……すまん」
「あやまら、ないでよ……ね?
 代わりに、わたし、の、左腕と、銃、使って……?」
ヴィソトニキは仕方なさそうに笑う。
力の入らない左手を僅かに揺らしながら、フラカッソの萎えた左腕を見る。
「わた、したちは……アーキテクトが、近いか、ら……
 上手く、適合、する、はず……」
「……ああ、判った。
 お前だと思って、大切にする」
フラカッソの答えに、満足げに頷く。
「うん……きっと……貴方をま……もるか……ら……
 …………うっ…………」
「!」
ヴィソトニキが顔を顰めた。
オイルは全て地面に吸い込まれ、ショートした回路の悉くは溶け落ちていた。
いよいよ、最期の時が来たのを、二人は判ってしまった。
「お……別れ……ね……」
「……そうだな」
フラカッソは軽い彼女の体を胸に抱く。
ヴィソトニキは、彼の胸の鼓動を顔で感じ、満足げな表情を浮かべた。
「最期のお……願い、聞いて……く………れる?」
聞き取るのが殆ど無理なくらい、掠れた声で囁いた。
「言え」
フラカッソは触れんばかりに顔を近づけ、彼女の言葉を漏らさず拾おうと努めた。
彼女の命の呼気が、頬を擽る。
「私を……名前で……呼んで」
名前――最も簡単で、最も意味のある呪文。
末期に及び、彼女が求めたのは、彼女を呼ぶ彼の声だった。
「……ヴィソトニキ……?」
不思議そうに、彼が呟く。
その声はヴィソトニキのメモリーに、ダイレクトに刻まれる。
「うん……」
彼女が弱弱しげに頷いたのを肌で感じ、フラカッソは続けざまに呼び掛ける。
「ヴィソトニキ……ヴィソトニキ!」
これで彼女が幸せになるのなら、一万回でも一億回でも呼んでやる。
彼は本気でそう思った。
「フラ……カッソ……」
感極まってオーバーフローを起こしたのか、潤滑液で彼女の眼は潤んでいた。
一筋の流れを作って、頬を滑り落ちる、DEMの涙。
その一滴が、フラカッソの腕を濡らした。
「ヴィソトニキ……ヴィソ……トニキ……」
耳元で何度も、呼び掛ける。
フラカッソの体も声も、小刻みに震えていた。
「あり……がと……う」
ヴィソトニキは唯一動く左手を、フラカッソの頭に撫でる様に添える。
「私……フラカッソに出会えて、幸せ……」
「……ああ……俺もだ……」
フラカッソの赤い瞳と、ヴィソトニキの紫の瞳が。
二人の視線が、バイザー越しに一直線になる――

「フラカッソ、大好き――」

彼女は最期の力で、左手で彼の顔を近づけ

「――――!」

その唇を、奪った。

最初で最後のキス。

最後の最後で、彼女は最も欲したものを、手にしたのだった――



  ああ、ああ、神様。
  この世に御座しまする機械仕掛けの神様!

  私は――ヴィソトニキは、幸せです。
  この世のヒトとDEMの中で、一番幸せな存在です。

  神様、ありがとう――





フラカッソ「ヴィソトニキ―――――――――!!!!!」





彼の魂の叫びは、戦いの大地をも轟かせる。
「――ターゲット捕捉。
 右正面の大型機の残骸の背後だ」
二人を探していたDEMの一隊は、対象物を取り囲んで攻撃態勢を取った。
残骸ごと、二人をブチ抜くつもりらしい。
半円に陣を構えた機械達の中には、エレフェントやギガントのような高火力の兵器も含まれていた。
「攻撃開始」
リーダー機の合図と共に、一斉に火を吹く砲口。
真っ赤な炎の華が、残骸に穴を空け、溶かし、そこに有るもの全てを破壊した。
「攻撃終了。
 対象の反応はしょうし、ツ―――――?」
「…………死ね」
リーダー機は、見た。
破壊したと判断を下した筈の敵の一機、GN003Pの槍が背中から自分を貫いている事に。
「―――!」
他の機体が、一斉に砲口を転回し、フラカッソを狙おうとした。
だが、フラカッソの方が遥かに早い。
槍を握った右手は動かさず、彼は攻撃を続行する。
「…………失せろ」
跳ね上がった左腕は、銀色の拳銃を握っていた。
早送りのように左手がせわしなく動き、弾丸を吐き出す。
それは全て、ヴィソトニキがやっていた様に、敵の弱点を的確に貫く。
まるで彼女が宿ったかのような銃捌きの前に、その一隊は瞬く間に殲滅させられていた。
「…………砕け散れ……!」
リーダー機から槍を引き抜くと、もう壊れたそれを執拗に突き刺し、原形を留めなくなるまで破壊した。

全身から赤いオーラを立ち上らせ、彼は新たな敵を探す。
「何もかも……破壊してやる……!
 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
彼の雄叫びは、新たな敵を呼ぶ。
新たな獲物を見付け、彼は銃と槍を構える。
最愛の人を失い、空っぽになった『心』を満たしたのは、怒り。
今や彼は、敵を倒す事しか考えられない狂戦士となり果てていた。





「…………駄目だヨ、アニキ!」
「ええい、退け!ぶつぞ!」
「ぶたれても蹴られても投げっぱなしジャーマンされても、
 行かせる訳にはいかないヨ!」
「お前は今墓穴を掘った投げっぱなしジャーマ―――ン!」
「うわァー」
ズシン
「いたたたたタ……」
「あばよ、ドゥーム。
 メリーに会ったら、帰れなくてゴメンって言っておいてくれよ」
「あ、待って!」
「それと……カーネイジにも――――」
「アニキ!行かないで、アニキ―――――!」



「……うるさいなぁ。
 何騒いでるのさ、二人とも……」
カーネイジが、作業台で目を覚ました。
ドゥームに脚部の修理をして貰っている間、スリープモードに入っていた彼だが
姉二人の大声での掛け合いに、それが解除されてしまったのだ。
彼の右脚は、応急処置で別のDEMの脚部パーツが接続されていた。
バランスは悪いが、歩く事は出来るであろう。
「ありがとう……って、どうしたの、姉さん」
カーネイジが部屋を見渡すと、入口で項垂れているドゥームが見つかった。
ドゥームは肩を落として、暗い声で呟いた。
「アニキが……アニキが、行っちゃったよ……」
「どういうこと……!?」

ドゥームは要点をかいつまんで話した。
マサカーは際限なく機械を吸収し続ける化け物と化した事。
アニキの左胸のブラックボックスは、大爆発を起こせる事。
そしてアニキが、自爆でマサカーを破壊しようと出て行ってしまった事。

「……そ、そんな!
 早く追いかけないと!!」
また会えたのに、再び離れ離れ。
それどころか、もう二度と会えないかも知れない。
カーネイジは気が気でなくなり、ドゥームに詰め寄った。
「ソウは言っても……」
ドゥームは口籠る。
彼女にもどうしようもない、と仄めかしていた。
「その脚じゃ、とてもじゃないけどアニキを追っかけられないヨ……」
「そう、だね…………」
完全に打つ手なし。
もうアニキとは会えない事が決定的になった。
カーネイジは全ての力を失い、床にへたり込む。
「…………」

どうして、人生とはこうもままならないのか。
カーネイジは、自分の運命を強く呪った。
彼の好きな人は、いつも彼の手をすり抜けて行ってしまう。
彼の力が及ばないが為に。

「せめて、この脚だけでもちゃんと動けば……」
腿から先の、自分のものではない脚を睨む。
マサカーまでの道のりは、アニキでも困難なほど敵が溢れているに違いない。
カーネイジの体さえ完全なら、走って追いつけない事もない筈だった。
そこまで考え、ふとカーネイジの中で、閃くものがあった。
「完全…………そうか!」
「ン?」
同じく床にぺたりと座りこんでいたドゥームが、力無く顔を上げた。
「何処かに、スペアボディがある筈だ!」
「!」
カーネイジは以前、光の塔でフラカッソを手合わせをしていた時に
このメインベースについて色々と講義を受けていた。
設備や機材についての話の時に、彼らにはそれぞれスペアボディが用意されてると聞いた。
ボディーが大きく破損を受けた場合、データを移し替えて代わりに動かせる機体である。
アニキやカラミティーのように特殊な型には存在しないが、
フラカッソやカーネイジのような只の戦闘型にはちゃんと用意されている、とも聞いていた。
だが、ドゥームは首を振った。
「そ、そんなの無いヨ……」
「え?」
カーネイジは耳を疑った。
ドゥームは激しく首を振って、カーネイジの言葉を否定する。
「カーネイジは……ホラ、新型だからサ……
 そんなの用意されてるワケないじゃないノ」
「…………そっか」
言われてみれば、その通りかも知れなかった。
カーネイジは未完成の状態で、エミル界に連れてこられたのだ。
その彼にスペアボディが与えられていなくても、当然と言えた。
だが、彼のスペアボディが無いからと言って、何もできない訳でもない。
「ならフラカッソのスペアボディ借りる!」
カーネイジのブレインを、フラカッソのスペアボディに移植する。
同じ人型で戦闘型なので、動かせる筈だとカーネイジは思った。
違和感はあるだろうが、壊れた脚を引き摺った今の機体より遥かにマシである。
それに、カーネイジはフラカッソの強さに密かに憧れすら抱いていた。
故に不満など無く、むしろ誇らしいぐらいの気持ちでの提案だった。
「エ、ちょ!?」
カーネイジはメインベースに併設された武器庫に、バランスの悪い足でずんずんと入って行く。
ドゥームは慌てて追い、彼を引きとめようとした。
「そ、それは適合の問題とか色々……」
「ええと、ここかな――――あれ?」
姉を無視し、カーネイジは円筒状の機械がいくつも壁に立てかけられた場所に辿り着く。
この中にそれぞれのスペアボディが入っている、とフラカッソから聞いていた。
彼が目的としたのは、『GN003P SPARE BODY』と書かれた円筒。
しかしその横に、『GN007P SPARE BODY』の文字が記された円筒も立っていた。
「なんだ、あるじゃん、僕のスペアボディー」
「あ……それは空っぽだから開けちゃ駄目だヨ」
円筒の開放ボタンを押そうとしたカーネイジの手を、ドゥームが握って押さえる。
カーネイジは、彼女に疑惑の視線を向けた。
「……なんで、空っぽなのに開けちゃ駄目なの、姉さん」
「…………」
痛いところを突かれ、ドゥームは押し黙る。
彼女が何かを隠している、と察したカーネイジは
彼女を振りほどいて開放ボタンを押した。
白い煙を上げながら、円筒型の保管機が開いてゆく。
「え……?」
「ああ…………」
ドゥームが再び項垂れる。
彼女は、カーネイジにこれだけは見せたくなかったのだ。
「何、これ…………」
現れた機体に、カーネイジは息を呑んだ。
それは、彼と似たフォルムはしていた。
だが、彼では無い。
「……まさか、これは――」



煙の中から現れたそれは
完成した『GN007P』のボディー。
ジェノサイドナンバーズ最強となるべく作られた、最後の機体だった。
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プロフィール
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