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【Genocide Numbers】

Act.17




ザ―――……

西アクロニア平原拠点に設置された大型スピーカーから、ノイズを放つ。
時計は丁度、作戦開始時刻を指している。
平原に集まったエミル界の四方軍、傭兵軍、トンカ軍、そしてドミニオン軍の全軍団員は
息をひそめてレジスタンスリーダーの演説に耳を傾けた。




あー、あー、俺だ。
……聞こえるか?

今から俺の熱い、あつ~いメッセージを
全無線機に送るぞ。

えーっと、あー……、こういうのはあまり得意ではないんだが……。
一旦手を休めて、聞いて欲しい。

まずは、誇り高きエミル族、タイタニア族の兄弟諸君に
このドミニオン世界の代表として俺から礼を言わせてくれ。

我々ドミニオン族だけではこのような大規模な作戦、成し得なかっただろう……。
……ありがとう。
心から感謝をしている

こうしてこの日を迎えられたのは
諸君ら兄弟の協力があってこそだ。

……さて、ドミニオン族諸君。

……長い、長い戦いだった。
父、祖父、曾祖父――
それ以前の代から続く、この戦いの歴史にもようやく終わりが見えてきた。

思えば我々ドミニオン族の歴史は血塗られたものだった。

財を奪われる者、土地を奪われる者、命を奪われる者、そして――

――大切な者を奪われる者。

そんな血塗られた歴史も今日で全て終わりだ。
――なぜなら俺達が勝つからだ!

古より始まったこの戦歌。
俺達の手で終わらせるからだ!

――これより、
『戦歌の大地』作戦を開始する!!

――ヤロウども!いくぞ!!




「うぉぉぉぉぉぉ――――!」
アクロポリスまで届かんばかりの雄叫びが上がった。
ドミニオン界の命運をかけた戦いが、遂に幕を開けた。

居並ぶ大隊の中には、将軍とその麾下3人の姿も有る。
カラミティーは大鎌を握りしめ、今しがた演説を流していたスピーカーを見つめていた。
「ドミニオン軍は散開して平原を攻めよ!
 ただし深入りはするな、敵機には数名で当たれ。
 この戦いで死者を出すんじゃないぞ!全員生きて勝利を噛み締めよ!」
ルージュは配下の部隊に指示を飛ばす。
平原の軍隊の役目は、あくまで陽動。
パーティーの主役は地下から潜入する精鋭部隊だ。
こっちはとにかく、大勢で騒いでおけばいい。
「うぉぉぉぉー!行くぞぉぉぉー!」
「南軍にだけは負けるものか!進め進め!」
最早お祭り騒ぎだ。
統率も何もあったもんじゃない。
勇ましげな咆哮と共に突っ込んでゆく各軍に続いて、ノウマン達も出た。
「我らも参りますぞ!」
「あいよ~!」
「……うん!」
喧騒の中、カラミティーは今初めて
自分がこの世界を守るドミニオン軍の一員になった実感を得ていた。
ノウマンやシェーラ……将軍にすら負けないくらい
勇猛な戦いをしよう、と心に誓った
――死ぬまで戦士であり続けた、レッドハンドのように。





第七工廠マザールームにて。
エキドナは忌々しげに、レジスタンスリーダーの演説を聴いていた。
「ええい、ドミニオンの小倅め!」
舌打ちと共に、現在の保有戦力リストを呼び出す。
シュメルツやエレフェント等の量産機はそこそこ数がある。
大型機のナウマーンやテュポーンも少数ながら投入可能。
問題は――彼女の保持する最高戦力である
ジェノサイドナンバーズがほぼ壊滅状態であることだった。
全六機中、GN003PとGN005Pしか手元には残っておらず
その二機すらも両方イレギュラー化の疑いが濃厚という。
「……出撃を命ずべきか喃」
エキドナは部屋を構成する巨大CPUに問いかける。
壁の鉱物質の物体が明滅し、答えを弾き出す。
「……うむ、判った。
 GN003Pの倫理回路をブースト、じゃな」
倫理回路のブースト――それはフラカッソの『心』を激しく抑圧し
彼に機械らしい行動を強制する。
長時間使用すると、ブレインにエラーや矛盾が溜まり過ぎて崩壊を起こすが
間もなく上書き処理する機体なので、エキドナは気にしなかった。
「それなら妾から離れようとも、イレギュラー化するまいて……」
エキドナは黒い笑みを浮かべ、一人で頷いた。






「なんとか終わったか……」
成功しているかどうかは、起動するまで判らない。
だが自分がそれを確認することは無いだろう。
「…………何をやってるんだろうな、俺は…………」
フラカッソは、作業を終了し、証拠を全て消し去る。
使った道具も、作業ログも。
誰かに見つかるわけには行かない――特にエキドナには。
「よし……後はヴィソトニキだけだな」
彼は充電用カプセルに横たわった、彼のお姫様を見下ろす。
「……すまん」
傍らに跪くと、映画で男がやっていたように
彼女の頬に口付け――しようとして、やめた。
「…………本当に、何をやってるんだろうな、俺は……」
ヴィソトニキの衣類を元に戻し、元の体勢に戻そうとした。
その時だった。
「―――ッ!」
ブレインに突然走った疼痛。
ノイズ――とは違う、むしろノイズとは対極に位置する電磁波。
「……なん……だ…………」
フラカッソの『心』を象っていたノイズが、それに駆逐されてゆく。
彼の中にあった大切な何かが、どんどん消されてゆく。
「やめ………ろ…………!」
フラカッソはあまりの激痛に、床に倒れ蹲った。
「(消すな、止めろ、消すんじゃない!)」
頭の中から消えてゆく、何か。
彼が彼でなくなっていくような恐怖。
「ヴィ、ソ……」
彼は、震える手でヴィソトニキのいる方へと手を伸ばした。
視界の中のヴィソトニキの姿が、だんだん色褪せていく様に思う。
彼の瞳の中で輝いていた彼女が、光を失っていく――



「…………俺は、何を言っているんだ……?」

ヴィソトニキ?

それは開発名だ。

コイツはGN005P。

それ以外に何があるというのか。

<緊急指令:ジェノサイドナンバーズは西平原に出撃せよ>

「…………任務了解」
フラカッソは――否、No.3は立ち上がり、マシナフォームへとチェンジした。
その瞳からは、一切の光が失われていた。





「ん…………」
ヴィソトニキが眼を覚ますと、そこは充電用カプセルの中だった。
蓋は閉まっていないが、エネルギーはチャージされていた。
だが彼女が眠りについたのは、そこではない筈。
「フラカッソ、どこ……?」
「……眼が覚めたか、No.5」
ヴィソトニキの声を聞きつけ、フラカッソが歩いて来た。
その体はマシナフォーム――すでに臨戦態勢だった。
「西平原にヒトの大部隊が侵攻してきた。
 我らにも出撃命令が下りている、迅速に用意せよ」
「……」
その口調は、フラカッソのものではない。
No.3、機械としての彼の話し方だった。
そこには、昨日まで彼女を抱いていた時の、不器用だが暖かい言葉は無かった。
今の彼は、命令を淡々と伝達するだけのマキナ。
「どうした、No.5、命令が聞こえなかったか」
「……聞こえました、了解、No.3」

ヴィソトニキは悟った。
自分の夢の時間は終わったのだと。
それでも、諦めがついた。
記憶を消される前に、一時だけでも幸せな、幸せ過ぎる時間を味わったのだから。

それに――

行く先が戦場でも地獄でも
彼がいるなら、私は進める――






レジスタンスリーダーの放送は、北平原で寝ていたアニキのアンテナも捉えていた。
「……これはラッキー、なんだよな……?」
アニキは、敵の――第七工廠にいるエキドナ配下のDEM達が次々に出撃するのを
センサーで感じ取り、呟いた。
忍び込むには最適の状況が出来ていた。
最も、アニキは知らないが、この戦闘はベリアル達の潜入のために
アクロポリスの警備を手薄にさせるのが目的。
侵入しやすい状況が作られているのは、当然と言えた。
「よし、行くか!」
岩陰から飛び出すと、アニキはアクロポリスの城壁に向かって駆けた。
僅かに残っていた警備用のDEMの死角から近付き、背後から殴り掛かり
あっという間に全員を戦闘不能に。
あっさりと、故郷である第七工廠に踏み込んだ。
だがレーダーを起動し、仲間を探し始めたアニキは戸惑う事になる。
「カーネイジ……いないのか?」
レーダーに移ったGNは二機。
No.3とNo.5。
その二人も、西口方面に向かって移動中だ。
「……参ったな」
このまま手ぶらで帰るのも、釈然としないアニキである。
他に何か無いか、とレーダーの精度や範囲を適当にいじり続ける。
やがて、かなりの深度に強い反応を見つけた。
「エキドナはいるのか……」
流石に母親、動かないでどっしりと構えているようである。
思えば、フラカッソやカーネイジをけしかけて
ジェノサイドナンバーズ内で争わせたのは彼女。
コイツのせいでカーネイジと戦わねばならなかった。
そう考えると、急に怒りが沸いて来るアニキだった。
「よし、まずはエキドナをとっちめよう」
非常に乱暴な結論。
相手が母親だろうと、この一帯を統べる最強クラスのDEMだろうと、アニキは全く恐れない。
道中の雑魚を殴り飛ばしながら、エキドナに通じる道を闊歩するのであった。





マザールームにアラームが鳴り渡った。
<北口より侵入者確認>
「む?」
監視カメラが捉えた映像が、ホログラムになって彼女の前に現れた。
そこには、ヴィエルヴェインを頭上高く持ち上げ
脚をもいで壁に叩き付ける悪鬼のようなDEMの姿。
「GN002P!」
それを見て、エキドナの顔は綻んだ。
無論それは、愛娘の帰りを喜ぶ母親の顔ではない。
彼女に積んだアニキラシオンエンジンを回収出来るから喜んでいるのである。
いかにGN002Pのパワーが強くとも、所詮はエキドナの被創造物。
打つ手はいくらでもあった。
「ふっふ……思った以上に、うまく事は運んでおるようじゃ喃」
エキドナはほくそ笑む。
その時、足元深くで、何かが崩れるような音がした。
だが彼女は、スクラップの山が倒れた音だろうと考え、無視した。
マサカーをそこに捨てたことなど、最早忘れ去っていた。





闇の中で、何かが蠢いた。
エキドナの足元地中深くの廃棄処理場に、ソイツは居た。
うずたかく詰まれた廃棄物の山々。
その一つが、圧倒的質量を持ったそいつが、獲物を狙っていた。
食べ続け、食べ続け、巨大になった彼。
節足のようなパーツが伸び、逃げ惑う壊れかけたDEM-エレファントを串刺しにした。
最後の力を振り絞り逃げようとするが、瞬く間にバラバラにされて取り込まれてしまった。
「違ウ……コイツジャナイ…………」
その巨大な塊は、残骸を自分に組み込みながら唸るように呟いた。
彼は随分大きくなった。
この地の底のゴミ溜めで、棄てられた機械を喰らいに喰らい
今では誰にも負けないほど大きくなった。
体躯は機械で構成され、奪い取った武装で固められていた。
その姿は、天界の機械の守護兵ガーディアンゴーレムに輪郭だけは似ていたが
全身から飛び出る武器やツギハギだらけのボディは、醜悪すぎて似ても似つかない。
「ミンナ………何処ニイル…………?」
そこまで巨大化しても、彼は満足しない。
彼が完成するのに必要な五人は、まだ取り込めていないから。
彼は手探りで這いずり回る。
やがてその巨体は、廃棄処理場の壁にぶつかった。
「……」
彼は肥大した体を、どうにか持ち上げて上を目指す。
「エキ……ドナ様………」

――何故、私を棄てられたのですか。

マサカーの声にならない叫びは
誰にも届かず闇に消えていった。





平原を埋め尽くす、怒号。
兵士たちは、兎に角派手に暴れていた。
しかし前線は殆ど進めず、平原の中央辺りでDEMを迎え撃っていた。
「なかなかやりますね、エミル界の方も」
ルージュが腕を組んで、呑気に言う。
その正面では、3人が各々の刃で敵をなます切りにしていた。
「全っ然手応えが無いわよぉー!」
「その程度かDEM共ォー!」
シェーラとノウマンは、いつも通り大暴れしている。
カラミティーもその隣で、ばっさばっさと敵をなぎ倒していた。
だが、急に彼女は動きを止めた。
「……将軍、来ます」
「む……」
三人の視線が、カラミティーの背中に集まる。
「カラミティーの昔の仲間かい」
「……はい、二人」
カラミティーは、フラカッソとヴィソトニキだと確信した。
「……二人とも強い。
 被害が出る前に、私が相手してくる」
「手伝う~?」
シェーラが肩に斧を担いで聞いてきたが、カラミティーは首を振った。
「……大丈夫、身内の落とし前は、自分でつける!」
そう言うや否や、カラミティーは敵の密度が濃い場所に躊躇いも無く飛び込んだ。
敵陣に消えてゆく背中に、ルージュは大声で言った。
「必ず帰還なさい、カラミティー!
 将軍命令です!」
「……了解!」



<警告:GN004P接近>
「……No.5、警戒しろ。
 裏切り者のNo.4が、来る」
「!」
自軍の間を縫って先行するフラカッソが、ヴィソトニキに淡々と伝えた。
「ど、どっちの方向!?」
「冷静になれ、レーダーを起動せよ」
フラカッソは槍を構えると、その場に立ち止まった。
周囲には大型のトロット、デストロイT01が配備されている。
「……近い、警戒しろ」
「う、うん……」
あまり戦いたくないとは思ったが、ヴィソトニキも銃をリロードした。
大型の機械が立てる呼吸音に囲まれ、二人は背中合わせに立ち警戒を続けた。
しかし二人が見ているレーダーから、同時に反応が消失した。
「え――消えた!?」
「!」
いつの間にか、デストロイT01の排気音が消えていたのに先に気付いたのは、フラカッソだった。
「……No.5、上だ!」
叫びと同時に、全てのデストロイT01がバラバラになって崩れ落ちる。
そして、紫の空をバックに、大鎌を持ったDEMが飛来した。
「……見つけたよ、二人とも!」
「裏切り者がッ!」
カラミティーの振り下ろした大鎌と、フラカッソが突き上げた大槍が宙で激突。
ジェノサイドナンバーズ同士の戦い。
同じ母から生まれた同胞の壊し合い。
金属の衝突音と共に、悲劇の幕は開かれた。
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プロフィール
管理人 こくてん
MMORPGエミルクロニクルオンライン
Cloverサーバーで活動中。
管理人室は ほぼ日刊で更新中。
連絡先は
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