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【Genocide Numbers】

Act.24




オメガタイプの飛翔能力を使い、カーネイジはあっという間にマザールームの入口に辿り着く。
しかしその場に立ちすくみ、部屋の惨状に言葉を失っていた。
通路を埋め尽くす機械の触手。
優に100メートルはある通路を、DEMや防衛メカをバラバラにして適当に繋げたような
醜悪な触手が、緩慢な動きで這いずり、のたうち、脈動していた。
それらは全て、マザールーム中央部に鎮座する巨体の体から伸びている。
マサカー――いや、彼の持つシステムが生み出した怪物、DEM-ジェノサイド。
GN計画がかつて目指し、その危険性から闇に葬られた機体。
その姿は、カーネイジが最後に見たときよりも一回りも二回りも肥大しており、
マザールームの大天蓋にも届きそうなサイズになっていた。
やがては天井を破りアクロポリスに進出し、支配領域を飛躍的に拡大させる事だろう。
「……絶対に、倒さないと……」
カーネイジは大剣を構え、部屋の奥で動かない怪物をじっと睨んだ。
その足元に、細い触手が一本這いずり寄って来た。
「うわっ、寄るなっ!」
反射的に剣で切り捨る。
その途端、部屋の空気が変わった。
DEM-ジェノサイドの叫びが通路の壁で乱反射し、何重にも増えてカーネイジを襲う。
「オォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!」
「! う、煩い……何この声……」
苛立たせるような、それでいて、切なくさせるような咆哮。
それに呼応するように、触手の動きが活発になり始めた。
カーネイジに斬られた事で、全体が警戒態勢に入ってしまったようだった。
「くっ!」
スラスターを起動し、カーネイジは真上に舞い上がった。
一瞬前までいた床に、機械の腕が何本も轟音を立てて振り下ろされる。
その一本一本がカーネイジの体をペシャンコに出来そうな太さだった。
しかも大きさに反し、常人の眼には止まらない程の速度で触手は動く。
「流石に、迫力が違うね……」
通路の先、本体までの道のりを見て、カーネイジは呻く。
無数の触手が、そこを阻んでいた。
だが、もう退けない。
アニキラシオンエンジンの燃料がどれくらい残っているか判らない以上
相手の懐まで飛び込んで自爆するのが確実、と彼は判断した。
次の触手が飛んでくる前に、彼は剣を正面に向けて構えた。
「いくよ、マサカー――いや、DEM-ジェノサイド!」
<感覚加速――10倍>
<スーパーソニックグライド:開始>
翼とスカートのスラスターが、爆発的な推力を彼に与える。
彼は恐れることなく、超音速の世界へと飛び込んで行った。



0.1秒経過
カーネイジは天井スレスレを飛行し、触手を迂回しようと試みた。
「!」
しかし目の前の天井が罅割れて盛り上がり、そこから触手が顔を除かせる。
触手の先端は、ヴィエルヴェインのアームパーツが使われており、三本の鋭い爪が生えている。
彼は慌てて、剣を斜め下に向け進路を変えた。

0.2秒経過
天井から出現した触手が彼を追い縋るが、カーネイジは構わず下がる。
床から飛び出てアーチを作る触手の下を潜り、最初の触手を撒こうとした。
だが高度を下げたところを、左右から別の触手が彼を狙って来る。

0.3秒経過
カーネイジは強引に体をひねり縦になる。
左右から迫る触手の間を、ギリギリのところですり抜けた。
超音速飛行による衝撃波が、二本の触手にぶつかり、僅かだが時間を稼ぐ。
だが安心したのも束の間、彼のセンサーが下からの接近物体に対し警告を発する。
床の穴から、束になって触手があふれ出ようとしていた。

0.4秒経過
今度は剣を上に向け、緊急回避。
真上に飛ぶカーネイジを追尾し、十本近い触手が彼の後ろに付く。
死角に入った触手は、衝撃波を回避して上昇。
天井付近まで達したカーネイジは、急制動を掛けて方向を90度転じ、DEM-ジェノサイドの方向を向いた。

0.5秒経過
天井を蹴り、再発進するカーネイジ。
彼の背後を、触手の束が通り抜け天井に突き刺さった。
だがその音が届く前に、彼は再び音速へ超える。

0.6秒経過
正面から数本の触手が、まっすぐ突っ込んでくる。
カーネイジは身を捩じりながら、その間を掠めるように潜る。
その時、彼はDEM-ジェノサイドの右腕が持ち挙げられており
掌から飛びだした砲のようなものが光っている事に初めて気付いた。

0.7秒経過
本能的に危機を感じたカーネイジは、触手の群れを潜りぬけ高度を下げる。
それと同時に、光砲が極大レーザーを放った。

0.8秒経過
レーザーはカーネイジの脇を抜けて、彼を追っていた触手群を蒸発させる。
しかし彼の片方の翼の外側のスラスターが、そのあおりを喰らい溶解していた。
安定性を失い、体勢を崩しかけるカーネイジ。

0.9秒経過
超音速でバランスを失う事は死に直結する。
カーネイジはハーフロールを打ちつつ、なんとか平衡を維持。
そしてレーザーが通り抜けた後の、触手の消えた空間に飛び込み更に加速する。

1.0秒経過
遂に、マザールームの中央に到達した。
速度を緩め、DEM-ジェノサイドの前で制止する。

<感覚加速――3倍>
<スーパーソニックグライド:終了>

「…………」
プレッシャーだけで圧死させられそうな、圧倒的質量をもった怪物。
遠くで見るよりも更に巨大に感じるDEM-ジェノサイドの前で、カーネイジはふらふらと浮かぶ。
たった一秒――彼にとっては十秒の感覚加速と飛行制御で、彼のブレインには疲労が蓄積していた。
だが、残された仕事はアニキラシオンエンジンの爆破――自爆だけ。
兄姉達の顔がちらりと脳裏を過るが、彼は雄叫びをあげてそれを掻き消す。
「これで終わりだよ――――!!」
カーネイジは一直線に、DEM-ジェノサイドの胸元に飛び込む。
上から横から、触手や腕が彼を狙ってきたが彼はその間を掻い潜る。
あと少し、というところまで近付いた時、DEM-ジェノサイドがまたもや咆哮を上げた。
「グオォォォォォォォォォォォォォ!」
「!?」
その途端、カーネイジの飛行軌道がブレる。
彼のブレインが、エラーを訴えていた。
視界が真っ赤に染まる。
「なに……この声…………!?」
遠くで聞いた時に感じた、『心』が締めつけられるような声。
それを間近で聞き、彼のブレイン内に異常なノイズが発生していた。
彼は気付かなかったが、マサカーの『心』がカーネイジの『心』に共鳴した結果だった。
「この感覚……!」
停止しかけたブレインで、カーネイジは何かを掴む。
このノイズ――咆哮の正体が、判りかけた。
彼が、何処かで感じた事のあるノイズに凄く似ていた。

しかし動きを止めたカーネイジは、敵の格好の的。
DEM-ジェノサイドの左手が、上からカーネイジ目掛けて振り下ろされる。
「!」
衝撃。
スラスターの幾つかが破損する音。
ブレインが一時的に完全停止する。
そして彼は意識を失い、まっすぐ落ちて行った。
DEM-ジェノサイドが現れた、床の大きな穴から、地下深く。
マサカーの棄てられた、廃棄処理場へと。





カーネイジがマザールームに入る、少し前のこと。
「そんな、なんで…………っ!」
握りしめられた小さな拳が、コンソールを叩く。
メインベースに響く嗚咽は、ドゥームのもの。
彼女は今しがた、カーネイジからの通信を受け取った。
悪い予感は、的中した。
それは、カーネイジの最後になるかも知れない通信だった。
『このままマサカーを倒してくる』
淡々と彼はそう言った。
だがそれは、『自爆するから帰る事が出来ない』という意味に他ならない。
「どうして、あのボディを使わせたんだ……!」
ドゥームは何度目になるか判らない後悔をしていた。
カーネイジに出し抜かれるとは、彼女は夢にも思っていなかった。
アニキが助かっても、彼が犠牲になってしまっては話にならない。
「馬鹿! 馬鹿! ボクの……馬鹿っ!」
何度も何度も、コンソールを叩く。
ジェノサイドナンバーズ一非力な彼女の拳だが、感情の籠った連打のせいでコンソールにヒビが入る。
やがて音を立ててコンソールが割れ、破片が手を傷付けた。
彼女は床にへたり込む。
二つのヴェロチスタビットも、床に落ちて乾いた音を立てた。
「う……うぅ…………カーネイジ…………!」
ドゥームは己を激しく呪う。
つくづく、自分の無力さと愚かさが嫌になる。
もう死んでしまいたかった。
誰かを犠牲にしてまで、生き残りたくなかった。

その時。
メインベースのドアが、何の前触れもなくスライドした。
はっとしてそちらに顔を向けたドゥームは、驚愕に目を見開いた。
戸口に現われたその人物は、彼女の表情を見、顔をしかめて呟いた。
「酷い面だな」
「!」





暫く気絶していたらしい。
随分と長い距離を落下したが、ここはどこだろう――
「いたたた……」
大の字になって倒れていたカーネイジは、目を覚ます。
幸い五体満足で、重要な機能は無事だが、全身に激しい痛みを感じた。
今、超音速飛行をしたら、体がバラバラになってしまう気がした。
「……ここは廃棄処理場……?」
カーネイジは上を見上げる。
遥か遠くに、マザールームの光が見える。
それ以外に巨大な縦穴で光を発するものは殆ど無く、かなり暗かった。
散らばったスクラップを踏みつけつつ立ち上がると、闇の中に巨大な塔が見えた。
「DEM-ジェノサイドの基幹部分……」
機械を集めて作られたそれは、有機物のようにゆっくりと脈動を繰り返している。
その最上部に、さっきカーネイジが戦っていた頭や腕が生えているようだった。
カーネイジは更に、足元も微妙に上下している事に気付いた。
恐る恐る周囲をよく観察すると、機械の残骸の峰々が僅かだが動いているように見えた。
「まさか、これ全部がDEM-ジェノサイド……!?」
「ウゥゥゥゥ……」
「誰!?」
か細い唸り声に、カーネイジは警戒して剣を構える。
錆ついた蝶つがいのような声は、機械の塔の方向から聞こえてきた。
恐る恐る近付くと、塔の表面に鉄火面のようなDEMの頭部が埋まっていることに気が付いた。
頭パーツなど腐るほど転がっているが
その顔は意思を見ってカーネイジを見つめているようだった。
ふとカーネイジは、その面貌に既視感を覚えた。
「……マサカー……?」
データベースで一度だけ見た事のある、ジェノサイドナンバーズの初号機。
大分傷ついているが、間違いなかった。
「誰……ダァァ……」
「僕はジェノサイドナンバーズのNo.7、カーネイジ――」
「ジェノ…サイドナンバー……ズ……!」
自分の部隊名に反応したのか
カーネイジの自己紹介を聞いた途端、マサカーの両目が赤く輝いた。
「!?」
「来イィィィィィィィ!」
マサカーの周囲の機械の柱から、黒くて細い節の付いた触手が、無数に飛びだした。
カーネイジは落ち着いて大剣を振るい、その全部を切り落とす。
「ウゥゥ……ナゼ……ダ……」
触手が全て斬り落とされると、マサカーは瞳のライトを明滅させて、途切れ途切れに話す。
「No.2、No.3、No.4、No.5、No.6……ドコ、ニ…行ッタ…………」
「…………」
「何故……我ダケ……棄テラレ……タ……」
鉄火面のようなマサカーに表情は無い。
スピーカーが壊れかけていて、抑揚やイントネーションも滅茶苦茶である。
それでもカーネイジには、その言葉に籠められた悲哀を感じた。

「DEM-ジェノサイドの声に籠められていたのは……
 『寂しさ』なんだね、マサカー」
「寂……シイ……理解……出来ナイ……」
カーネイジはアニキと初めてあった時を思い出した。
いて欲しい人が、いなくなった時の気持ち。
きっとマサカーも同じ事を感じていたのだ。
カーネイジが聞くところによれば、彼は破壊されてからヘッドのみの状態で
一ヶ月も修理工場で放置され、挙句の果てにエキドナに廃棄された。
DEM-ジェノサイドが生まれてしまったのは、彼に仕込まれたプログラムのせいだろうが
そこまで追い込んだのは、エキドナだ。
彼もまた、被害者だったのだ。
「マサカー……DEM-ジェノサイドを止められない?」
「…………ウゥ…………」
しばし間を空けてから、答えが返って来た。
「ジェ……ジェノサイドハ…………
 我ノ、制御、ヲ……受ケ付……ケヌ」
「そっか……」
マサカーの頭部さえ破壊するなり切り離すなりすれば止まるか、と
一瞬期待したカーネイジは、肩を落とす。
自爆する覚悟はしていたが、落胆は隠せなかった。
「ウゥゥ……全、テ……取リ込ム…………」
「おっと」
マサカーは再び、プログラムに従いカーネイジを吸収しようと触手を出して来た。
自我を保つのも困難なのだろう。
カーネイジは後ろに飛び退ると、胸のハッチを開ける。
「……今、楽にするよ」
アニキから奪い取ったブラックボックス――アニキラシオンエンジンを、慎重に取り外す。
目で確認できないので、触覚だけが頼りだった。
「っ!」
アニキラシオンエンジンとボディを接続するパイプを切断すると
オメガタイプへのエネルギー供給がガクッと下がった。
数分飛べるぐらいのエネルギーしか残らなかったが
どうせもう使わないのでカーネイジは気にしない。
「さぁ……」
カーネイジの左の掌の上に、アニキラシオンエンジンが乗せられた。
手に何とか収まる程度の、漆黒の箱。
これの気まぐれに、随分と彼らは振り回されて来た。
「こんなもの……この世に存在しちゃいけないよね」
そして物語の幕引きをするのも、これだった。
漸く、全てが終わろうとしていた。
「……さようなら、みんな」

左手がまっすぐ振り上げられる。
その動きで、アニキラシオンエンジンは、高く跳ね上がった。
両手を大剣に添えて、カーネイジは正眼に構える。
アニキラシオンエンジンが、頂点に達し、落下に転じる。
タイミングを見計らい、カーネイジは目を閉じて、剣を――



――思いっきり、振り下ろした。





「攻撃する時に目を閉じるな、No.7」
「え……」
予期せぬ男の声に、カーネイジは思わず目を開く。
剣は確かに、何にも当たらずに地面に切っ先を突き刺し、止まっていた。
「まだまだ未熟だな、新兵」
「って、フラカッ――No.3!?」
「……フラカッソでもいい」
フラカッソはカーネイジからやや離れたところに立っていた。
その右手には、アニキラシオンエンジン。
空中で止まる一瞬を突いて、彼が奪ったのだった。
カーネイジは慌てて取り戻そうとした。
「か、返してよー!」
「お前はさっさと帰れ」
フラカッソはにべもなく言うと、後方を顎で示した。
「そこの壁を上ると、スクラップの搬入口がある。
 逆走すれば安全にデムロポリスに出られる」
「何を言って――」
食い下がるカーネイジ。
フラカッソの持つアニキラシオンエンジンに手を伸ばすが、避けられる。
「お前は生きろ」
「な、なんでさ!」
「見ろ」
フラカッソは左手を――銃を握った手をカーネイジの前にかざした。
「! その手は…………」
「……ヴィソトニキは、もうこの世に居ない――俺の目の前で逝った。
 俺の居場所はこの世じゃない、アイツのいる、あの世だ。
 だがな――」
目を細め、左手を眺めながらフラカッソは言う。
「No.7、お前はまだ帰る場所がある。
 No.2は……お前の帰りを待っている」

フラカッソは、ここまで来る道中で助けたアニキを思い出す。
左胸に傷を負い倒れているアニキを見つけた時、彼は不思議と攻撃する気にはならかった。
大した手当は出来なかったが、断線部分とオイル漏れを起こしている箇所を修理した。
作業の最中に、アニキは意識を少しだけ取り戻した。
朦朧としながら、彼女はうわ言の様にカーネイジの名を、何度も何度も呼んでいた。
その姿に、不覚にも自分を重ねてしまったのだ。
ヴィソトニキを失い、絶望に悶える自分を。

「帰れ。
 残される方の苦痛を考えろ」
「……はい……」
カーネイジは、エンジンを奪おうと伸ばしていた手をすごすごと引っ込める。
そして剣を拾い、フラカッソの示した搬入口へと足を向けた。
「それでいい」
「……」
搬入口の入口に立ち、カーネイジは一度、振り返った。
フラカッソがじっと見つめていた。
「何をしている、さっさと行け」
「……ね、ねぇ、フラカッソ!」
カーネイジは叫ぶように呼び掛けた。
「何だ?」
「僕達……僕達ってさ……」
ありったけの想いを、一つの言葉に籠める。

「僕達、兄弟だよね!」
「……」

僅かな間、二人の間に沈黙が訪れ、そして――
「…………ふ……」
フラカッソが、幽かに笑みを浮かべた。
離れていたが、カーネイジにもそれは確かに伝わった。
カーネイジの見た、フラカッソの最初で最期の笑み。
それを見届け、カーネイジは走り出す。
出ないはずの涙を、必死に堪えて。
「さようなら、さようなら兄さん……!」
兄の姿は、もう、見えなくなっていた。

「兄弟、か」
フラカッソは、その言葉の意味を噛み締めていた。
きっと、カーネイジなりにフラカッソへの敬意と感謝を籠めた言葉だったのだ。
「兄と弟……か。
 弟は兄を敬い……弟を助けるのが兄の役目。
 ヒトの兄弟は、そういうものだと聞くな」
だとしたら、自分は最後に、兄らしい事を一つ出来たのではないだろうか。
自分が代わりになって、弟を生き延びさせた。
そう考えると、この役回りも悪いものではない気がするフラカッソだった。
「さて、No.1……いや、“兄さん”」
フラカッソは、機械の塔に埋め込まれたマサカーを振り返る。
「…………ゥ…………」
「もう、会話が出来るほどの自我は残ってないか」
僅かに瞳を明滅させただけのマサカー。
目的の一つであるNo.3が近くに来ても、彼の意志で触手が出て来る事も無かった。
それを見て、フラカッソの顔が苦しげに歪む。
「俺が悪かった。
 兄さんがエキドナに破棄された時、俺が無茶してでも助けに来ていれば、こんな事にはならなかった」
「…………」
マサカーの破棄を宣言したエキドナに感じた、激しい怒り。
フラカッソは、自分の感情に逆らわず素直に従っていたのなら
マサカーをこんな化け物にせずに済んだと悔やむ。
「今判った。
 俺は兄さんを尊敬していた。
 リーダーとして、先輩機として」
「…………」
「だからエキドナに激しい怒りを感じたのだろう。
 今更気付くとは、我ながら情けの無いことだ」
「……グゥゥ…………」
フラカッソの話が彼に届いているのか否かは判らない。
だがフラカッソは、話したい事を全て話し終え、満足げに言った。
「そろそろ、いい頃合だ」
「……ゥゥゥ……」
槍を地面に突き立て、アニキラシオンエンジンを右手に持つ。
「俺達の戦いを、終わらせよう」
マサカーの方向を向いて、斜め上に放り上げる。
エンジンは放物線を描き、頂点で丁度二人の中間に来た。
「ヴィソトニキ――」
拳銃を握った左手を右手で包み、エンジンと照準を重ねる。
「――今、そっちに行くからな」
引き金にかけた指に、力が籠められる。
「グゥゥゥオォォォォォォォ!」
「!」
突然、マサカーが廃棄処理場に響き渡るような唸り声を発した。
それに呼応するかのように、周囲のありとあらゆる機械が、フラカッソに殺到した。
だが、フラカッソが機械に埋められるよりも早く
「これで――終わりだ」
弾丸が、ブラックボックスを貫いた。




「はぁっ!はぁっ!」
カーネイジは必死に走っていた。
立ち止まると、兄の事を思い出して挫けてしまいそうだったから。
デムロポリスに出てからも、彼は飛ばずに走り続ける。
エネルギーの残量が少なく、スラスターを起動することもままならない。
「早く……逃げないと……」
フラカッソとて、いつまでも待っているわけにはいかないだろう。
一刻も早く脱出し爆発を逃れなければ、兄の想いが無駄になる。
その一心で足を振り上げ懸命に走るが、非常な現実が彼を襲った。
「うっ……!」
踏み出そうとした脚が動かなかった。
カーネイジは前のめりになって、思いっきり転倒した。
「え、エネルギーが……」
最早、脚を動かすだけのエネルギーすら残ってない事に気付く。
懸命に力を入れるも、体は全く言う事を聞かない。
「ここまで来て……!」
カーネイジは悔しさで、目の前が暗くなった。
そして焦りが頂点に達した時、爆発の音と振動が第七工廠を揺らす。
だが――――

「――――!」

爆発が彼を巻き込むその刹那。
彼は右手を、誰かに力強く、引っ張られるを感じた。





漏出する反陽子。
それに接触する電子。
大量の粒子と反粒子が引き起こす未曾有の対消滅爆発。
DEM-ジェノサイドと第七工廠の全ての機械は
その忌まわしい過去ごと、全てこの世から消滅した。
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プロフィール
管理人 こくてん
MMORPGエミルクロニクルオンライン
Cloverサーバーで活動中。
管理人室は ほぼ日刊で更新中。
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