メリー:お世話になりました。
フォリア:本当に帰るんですか?
メリー:ええ……少し、一人で考える時間を下さい。
フォリア:……判りました。
明日はこちらから伺わせて頂きますね。
サージャ:メリーさんは“死亡者”として雇い主には報告しておいたから
恐らくもう襲われる事はないだろう。
メリー:……苦労かけました。
サージャ:いいさ……気を付けて帰れよ。
…………
ウォルス:何か御用ですか、セージマスター。
セージマスター:ウォルス君……君に、言わねばならない事があってな……。
ウォルス:! ひ、ひょっとして……
ウォルス:また掃除してくれ、と……?
早くミリアリアさん帰ってきてくれませんかね……。
セージマスター:そうそう、掃除を…って、そうじゃない。
ウォルス:掃除…「そうじ」ゃない……やはり上手いですね。
セージマスター:君には負けるよ、ソージマスター君。
……げふん、ふざけるのはここまでじゃ。
ウォルス:はい。
セージマスター:……君の妹さんの事についてなんじゃが……
ウォルス:……待って下さい。
僕に妹なんていません。
セージマスター:……下らぬ嘘を吐くでない。
その程度の事、ギルド評議会なら簡単に調べられるのじゃぞ。
マエリベリー・花月。君とは一歳違いで、君を追うように地上へ来て――
ウォルス:やめて下さい!
メリーは……妹は、僕らを裏切ったんです……。
家族の期待を裏切ってSUではなくタタラベになって、
挙句の果てにはドミニオンと逃避行……
あんなの、僕の妹じゃ無い……っ。
セージマスター:……その割には、しっかり調べ取るのぅ。
ウォルス:…………。
セージマスター:いい年して、妹離れが出来ておらんようじゃの。
ウォルス:いい年して片付けが出来ない人に言われたくありません。
セージマスター:おやおや……琴線に触れてしまったかの。
じゃが、そんな事言っておる場合じゃないかも知れんぞ。
ウォルス:何ですか?
セージマスター:君の妹じゃが……
もう、この世の人じゃないかも知れん。
ウォルス:―――――――
…………
メリー:はあっ……はあっ……
ぜ、全部自分の足で歩くのがこんなに大変なんて……。
ふぅ……庭までもうちょっとだけど……少しだけ休もう……
……あれ、庭?
……ひょっとして……あの紐も、よじ登らないと……
む、無理……腕がもげる……!
だけど、今からフォリアさんの所に帰るのも……
……もう、やだ……!
どうしてこんな事になっちゃったの……!?
レッドも、ヴァルカンも、消えて……
兄さんにも嫌われて……
何で私、一人ぼっちなの――――
…………
セージマスター:――――
死体の回収は……状態が酷過ぎて出来なかったらしい。
そして、現場には――
ウォルス:あの…………マスタ-……
すみません、僕、気分がすぐれないので……ここで失礼します。
セージマスター:…………。
ウォルス:(邪神に襲われた?)
(馬鹿な。そんな馬鹿な話があるものか!)
(何かの間違いに違いない。
あの図太い妹の事だ、今もどこかでのうのうと生き延びてる筈だ)
(そう、あの頃のように……)
…………
(兄さん、これから地上での二人っきりの生活だね~)
(うん、いろいろ大変だろうけど、頑張ろうね)
(あ、あのね、兄さん。
天界にいた頃に
どうしても言えなかった事があったの)
(なんだい、メリー?)
(…………)
(私ね……兄さんの事が――)
(……やめてよ)
(兄さん!?)
(僕たちは兄妹なんだよ。なんで、なんでそんな事言うの?)
(どうして……兄さんは私の事、嫌い……!?)
(そうは言ってないよ……だけど)
(なら、抱きしめてよ……愛してるって言っ――)
パン……ッ
(あ…………)
(兄さん………?)
(兄さんなんて……)
(ま、待ってメリー!)
(兄さんなんて――)
(大っ嫌い!)
ウォルス:(僕の……僕の、僕のせいだ……っ!
僕が意気地無しだったから……メリーを愛してやれなかったから……!)
お願いだ……帰ってきてくれ……!
……ひっく、レッド……兄さん……
ウォルス:……空耳……?
(いや、兄さん、と言ってもいくらでも世の中にいる訳だし……)
…………う、うぇぇ……ひく……兄さん………
ウォルス:…………
そんなに都合の良い展開がある訳が無い。
だけど――
僕は、その声に、聞き覚えがある気がしてならなかった。
あの、僕の後ろをちょこちょこ付いてきた、泣き虫の声――
間違いでもいい。
それでも僕は、噴水の反対側へ――
ウォルス:ねぇ、君はなんで泣いてるの?
メリー:え?
ウォルス:ほら、顔をあげて――
その時――
僕は奇跡の存在を信じた――
兄さん…………っ!