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したらばSSスレの倉庫 兼 ネタブログ
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クトゥルー系SS初挑戦です。
苦手な方は読まれない事を強く推奨します。



 これを書いている私の精神は既に発狂していると言ってもいい。手はこれ以上ないほどに震えているから、きっと解読に途方も無い苦労を要するだろう。しかし私はこれを書かなければならない。そして書き終えたらすぐさま、この羽ペンでもって自らの喉を突き死ななければならない。私を狂人とは思わないで欲しい。この借家にある全ての鏡を絶叫と共に叩き割った後だとしても。私の遺言となるこのメモを読んで頂ければ、その理由を全て察して貰えるだろうから。
 私がフシギ団員としての職務で見回りを行っていたのは、ファーイーストシディーの南方にある食屍鬼の巣食う忌まわしき不死城の前に広がるなだらかな丘陵――穀倉地帯であった。幹部であるブルの命により、私と不運な友人ギルマンは雲ひとつない夏空の下を、ファーイーストの特産であるアンズ酒を軽く呷りつつ砂浜を歩いていた。城からは絶えず暗雲が滲み出し、近寄れば寒さにも似た怖気を肌身に感じるものの、距離を置いて散策する分には実に風格のある古城であり、観光にはおあつらえ向きだとすら思えた。穀倉地帯にはびこるモンスターの数も取りたてて増えた様子は感じられず、歪な多角形の角を持つソーラーゼレブや三本の触手のような根で這う異界の樹モーリーを数十体打ち倒した男二人は、砂浜に座って強烈な日差しの下、海を眺めていた。
「それにしても熱いな」
 ギルマンが酒臭い声で話しかけてきた。彼は私に比べ多くの酒をかっくらったらしく、私よりも若干昂揚している風に見えた。私が黙って首肯すると、友人は海を見つめなおし、唐突にアーマーを脱ぎ始めた。何をしているんだ、と驚いた私が問いかけると、彼は鎧とシャツとズボンを砂浜に投げ捨てパンツとマスクだけになってから、事もなげにこう言った。
「海に入るんだよ」
「馬鹿な事はやめるんだ」
 この世界のヒト――我々はエミル種だが、仮にタイタニア種やドミニオン種であっても――全てが知るように、海は古の民どもの領域である。遥か先代と古の民の契約により、海はインスマウスによって統治される事が決められている。インスマウスとは魚の体からヒトよりも野太い四肢が突き出すように生え、尋常ならざる奇態な腫れぼったい唇とおぞましい渦を描く青い髭を持ち、額の触手からはチョウチンアンコウのようにランタンをぶら下げた、およそ神の産物とは思えない不気味な冒涜的窮まりない生物だ。彼奴等の本拠地はアクロニア大陸南東部に口を開けた太古の坑道、あの有名なおぞましい書物『レメゲトンの書』に記されるところの大陸の洞窟の闇に包まれた最下層にある、と人々の間では密かに噂されている。そのインスマウスとの契約の仔細は一般には広まっておらず既に忘れ去られて久しいが、兎も角、このエミル界に住むヒトにとって海に入る事は絶対的な禁忌である。契約を破り海に出た、と目されるフシギ団であっても、正確に陳述するなら、海の下に開けた通路を通って三つの島へ往き来しているだけであり、直接海水に触れる様な事はまずもってあり得ないのである。
「何の問題がある、この辺にはインスマウスどもは居やしないよ」
 友人ギルマンの言う事は間違いではなく、確かにファーイースト島でインスマウスが目撃された試しはない。しかし私はどうにも胸を掻き毟られるような不安をぬぐい去る事が出来なかった。だが再三の私の制止にも耳を貸さず、愚かにも友人は未踏の海へと足を踏み入れてしまった。
「おお、冷たい。気持ちいいぞ、君も来い」
 容赦のない太陽光線の中、水飛沫を舞い上げながら海水浴に興じる友人。首筋を焼く日差しに、サウナの様相を呈するマスクの中身。一瞬だが、私も海に飛び込みたい衝動を感じた。だが私が衣類に手をかけるよりも数瞬早く、それは起きた。
「う、うわっ」
「どうした、ギルマン」
 友人の姿が、水面に沈み込んだ。頭の――もといマスクの先まで沈んだかと思うと、必死に手で水を掻いて海から顔を出そうとした。しかしすぐさま、彼は沈み、そして浮き上がった。それを何度か繰り返しているのを見ている内に、私は正気に戻り、ただ事じゃない友人の傍に駆け寄った――自分の服が濡れるのは構わずに。友人が溺れているのは、不可思議にも我々が立てるくらいの、水深が深くない部分であった。その為、幸いにも友人の手を掴み、丘へと引っ張り上げる事は私にとって容易い仕事だった。
「助かったよ……有難う」
「何があったんだ」
 マスクの内側で荒い呼吸を繰り返す友人に、私は厳しく問うた。すると友人は首を傾げ、マスクの為に表情は見えないが怪訝そうな口調でこう話した。
「なんというか、足を引っ張られたような気がしたんだ」
「なんだって」
「だけど、俺の思い違いだろう。多分海藻が足に絡みついたんだ。危ないところだったよ、有難うな」
 事もなげに、そう言ったギルマン。しかし私はその刹那、殺意にも似た視線を感じたような気がして、はっと海の方を向いていた。しかし海には何の影も見えない――ように見えた。だが視線を向けた瞬間だけ、波間に反射する太陽の光の中に、一つだけ種類の違う光があるのを見た気がするのだ。水面から飛び出た、ランタンの中の暗い光を。
「どうしたんだい」
「いや、なんでもない――きっと君の言うとおり、海藻に足をからませたんだろう。これに懲りたら、もう馬鹿な真似は止めるんだな」
「判ったよ、判ったから、ブル様には黙っててくれよ」
 私達二人は身支度を整えると、足早にその場を立ち去りフシギ団本部へと帰った。その道中、私は常に何者かに見られているような気がしていた。

 それから暫くの間、私達の任務地は海賊の島と呼ばれるフシギ団とパイレーツ達の戦いの前線だった。戦いの前線と言っても、相手はぬいぐるみが殆どであり、ドミニオン界で行われている戦争と比較したらままごとのような戦争ごっこにしか過ぎないのは否めない。だが私の心を妙に騒がせる出来事は幾つかあった――パイレーツタイニー達が、私と私の友人を指さし、何事かをまことしやかに囁き合い嘲笑しているように見えた事は、その一つだ。友人はそれに気付かないようだったが、友人にも何か不気味な変化が訪れているような気がしてならなかった。食事は肉よりも魚を好むようになり、どういう訳か塩分をやたらと摂るようになった。また寝言にも奇妙な呪文のようなものが増えた。一度私は、大いなる努力と決意でもって、その全てを書き写そうとしたのだが、聞き取れた個所の多くが発音の困難な『くとぅるふ・ふたぐん』という謎のフレーズだった。そして、それとは関係ない事かも知れないが――今となっては納得の事実なのだが――彼と一緒に居る間は、妙に腐った潮の香りが濃くなるような気がしたのだ。フシギ団のアジトは元々三方を海に面しているので、海の臭いには常に触れている筈なのだが、妙に鼻に付くと言うか、彼のそばではぞわぞわするような胸糞悪い臭いを嗅いだ。彼と直接関係があるか否かは定かでは無かったので、問い詰める様な事はしなかったが。

 更に暫くすると、我々は再びあの不死城の前の砂浜のパトロールへと赴く事になった。その第一日は、朝から胸騒ぎが耐えなかった。何か良からぬ事が起こると、判り切っているかのように足が動かなかった。だが友人ギルマンは私とは対極的に、私を引き摺り意気揚々と見周りへと繰り出したのだ。彼は穀倉地帯に到着すると、私の前に立って意気揚々と丘を下り、砂浜に立った。
「ギルマン、そんなに海に近付いては危ない」
 海を見るその背中に、私は思わずそう呼びかけていた。
「何が危ないんだい?」
 ギルマンは真顔で――フシギ団のマスクを被っているが、長年の付き合いでそんな気がした――そう問い返した。確かに、何が危ないのか自分でもさっぱり分からない。しかし朝から続く不安と焦りが、まさに最高潮に達しようとしていた。その為、突然水柱がいくつも上がり、海から奴らが飛び出してきた時、私の思考回路がパンクし何もできなかった事は仕方がないと言えよう。
「な、何だ!?」
 海から飛び出してきた者――ファーイーストには居ないと思われていたインスマウス達――は、砂浜を荒々しく踏みしめギルマンへと襲いかかった。5体ほどのインスマウスにより友人の姿は隠され、もつれながら海の方へと運ばれていった。海に入ってもインスマウスの速度は落ちる事が無く――それどころか増して――水面を滑るように、果てしない外洋に向け進んで行った。その後に起こった更に信じがたい光景は、とてもではないがヒトの言葉では描写出来るものではない。海が上下に割れた、とでも言えばいいのだろうか。視界の端から端まで、海が上下に分かれ真黒い口を開いたように見えた。その間へと消えてゆく、インスマウスとギルマン。成す術も無くそれを茫然と見つめる私は、しかし気付いてしまった。真黒い口、という言葉が比喩でも何でもない事に。上下に割れた海の下側は、白くジェリー状で、行く筋も縦線が走っていた――それは唇と髭であった。そして上側は、膠質で真っ白い、緩やかなカーブを描く曲線で、その両側には海にある筈も無いもの――半分開かれた、地の底のような黒々とした瞳だった。海では無い。水平線を埋め尽くす、両眼の下まで裂けたクチバシのように尖った口を持った巨体の鯨にも似た何か。その怪物が現れた途端、宇宙の秩序は崩壊し、世界中を絶叫が満たしたかのようだった。ああ!壮強なるク・トゥルー!古の者たちの偉大なる邪神ク・トゥルー!数千兆年の時を経て解放された彼の者が、眷属の捧げた貢物を――私の友人を貪っているではないか!
 そして――ああ、思い出すだけでも発狂は避けられない。食事を済ませ口を閉じたあのク・トゥルーの両眼が、ぐるりと動き、私に焦点を合わせた瞬間を。あの悪意に満ちた目が、口が、弓なりに曲がり、私を見て確かに嗤ったのを。
 その瞬間、私の精神は粉々に砕け散った。もう元には戻るまい。私は宇宙の秘密を悟ってしまったのだから。我々ヒトの背後に潜み続けた邪神どもの影を。その封印が正しい星辰により解かれつつある事を。呪われたル・リエーの都よりク・トゥルーが解き放たれれば、地上は狂気と恐怖が支配し人類はただ泣き叫び殺戮されるだけであろう事を。
 血迷いマスクを脱ぎ棄て、全力で砂浜から逃げ出した事については、殆ど記憶が無い。次に目を覚ました時、私はファーイーストシティーの緑盾騎士団に保護されていた。何事かを喚き散らしながら、半狂乱で街に駆け込んできて倒れたところを助けられたらしい。幸運にもマスクを脱ぎ棄てていたため、フシギ団と思われることなく、ただ気の触れた冒険者として受け入れられた私は、町内会長の厚意により無償で一軒あばら家を貸してもらえる事になった。だが家を借りるや否や、街の人々は呆れ果てて私から離れていった。私が家じゅうの鏡という鏡、ガラスというガラス――窓ガラスだけは残した――を割ってしまったからである。しかし次の弁明を読めば、私が狂って破壊行為に至った訳ではない事を理解してもらえると思う。
 哀れな友人ギルマンがク・トゥルーの忌まわしい大口に呑み込まれる刹那、私ははっきりと見たのだ。インスマウス共が醜悪な笑みを私に向けて、彼のマスクをはぎ取るところを。そして、その下の彼の顔は、皮膚は絵の具で塗ったかのように青ざめ、触手のような青い髭が顔の横から生え、唇は人ではありえない程に分厚く膨れ上がっていたのだ!それを見た時、私は古の民との契約の内容をはっきりと悟った。そして――私は、彼を助ける時に、確かに海に浸かっていたのを思い出したのだった。
 今の自分の姿を誰かに見せられない以上、私は家に閉じこもり、自分の顔が映るかもしれない窓を見る事も無く悪夢にうなされて過ごして来た。ある時、フシギ団員の連絡員が玄関の前まで来て私の名を読んだが、私は頑として出頭に応じようとはしなかった。連絡員は毒づきながら去ったが、しかしその間際に、確かにこう言った。
「しかし、なんでお前の家の周りはこんなにヌメヌメしてるんだ。
 ウロコみたいなのが沢山落ちてるし、魚臭くて耐えられん」
 その晩から、何か重いものが裸足で石畳を闊歩する嫌らしい音と、鱗を持った体を引き摺る身の毛もよだつ摩擦音が、夜明けまで家の周りを何周もするのをはっきりと聞くようになった。もう限界だ。私は毎晩、あの悪臭を放つインスマウスに攫われ、海原に開いた亀裂のような口の中の彼らの楽園に連れて行かれてしまう夢を見る様になった。近い内に、それは現実のものとなろう――そんな事には耐えられない、残された救いは死しかない。
 これでもういいだろう。先程から外が煩い。裸足が石畳を踊る様に打つ奇妙なリズムと、ぬめる巨体をこのあばら家のドアに何度も叩きつける音。だが後はランプの火を消し、この羽ペンを自分の喉仏目掛け思い切り突き刺すだけだ――いや、おかしい。ランプを消したのに部屋が明るい。私は見た。窓の外に揺れているランタンと、二つのぎらつく目で中を伺う異形の群れを。彼奴らと私とを隔てる唯一の障壁、窓ガラスが割れた。腐った海の、魚の臭いが部屋に流れ込んでくる。

 やめろ!来るな!こっちに来るな!!!
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