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【Genocide Numbers】

Act.14

一方その頃。
ジェノサイドナンバーズの末弟、末妹の二人は、軍艦島に居た。
二人は光の塔でカラミティーを捜したのだが一向に見つからず、そのうち大量の西軍が島に上陸してきた為
飛空庭の一台を拝借して、ここまで逃げてきたのだ。
因みに、なるべく目立たないよう二人ともノーマルフォームである。
カーネイジは以前と同じ、マモンカオスにスラックス。
ドゥームは糊の効いた白衣に短パン、そして赤と黒のチェックのレッグウォーマー。
「カラミティー姉さん、大丈夫かな……」
「うーん……カラミティーの能力は反則的だからネェ。
 よっぽどの事がない限り死ぬ事は無いと思うケド……」
それでもやはりドゥームも心配なのだろう。
その声からは、いつものような自信は感じられなかった。
「まさか、こんな事になるなんて思わなかったヨ……」
「…………」
「これから、どうしようかネェ……」
途方に暮れた様子を見せるドゥーム。
彼女が迷うところなど、カーネイジは見たことが無かった。
「……姉さん、一つ、聞かせてくれない?」
それを見ていたカーネイジが、真面目な顔で言った。
「ン……?」
「ずっと気になってたんだけど……
 姉さんは、僕達をどうしようとしてたの?」
「……」
ドゥームは表情に憂いを帯びさせた。
責める様な口調になってしまった事を、カーネイジは詫びる。
「……ごめん、上手く言えないんだけど……
 僕、姉さんが何を考えているか、よく判らないんだ……」
「いいヨ、結果としてボクの行動は全部裏目に出たんだしネ」
弱弱しくかぶりを振ると、ドゥームは手ごろな岩を捜して腰掛けた。
「座りなヨ、ちょっと長くなるから」
「うん……」
二人揃って座ると、ドゥームはぽつぽつと話し始めた。
「とりあえず……ボクがさっき話したことは、全部真実ネ」
それは、ジェノサイドナンバーズの歴史と上書き処理に関する事を指している。
「それをボクが知ったのは、半年ぐらい前かナ……」
「え?」
半年、となると、その間に2回は上書き処理されている筈である。
その記憶が残っているのはおかしい、と感じたカーネイジは疑義を呈した。
「二人前のボクが、こっそり隠しておいたんだヨ。
 エキドナの目も届かなくて、それでいてボクが必ず見るところにネ」
「それって……何処?」
「カプセル充電器の蓋の裏側」
それは、ジェノサイドナンバーズのメインベースに置かれている設備。
円柱状のカンオケ、とでも評せばよかろうか。
蓋が開き、中で横になり充電する機械なのだが――
「中に入って蓋を閉じるのは、ボクだけでショ?」
「なるほど、それはエキドナ様も気付かないね……」
「で、そこに小さなメモリーチップが隠してあったわけネ」
そのメモリーチップから得られた情報で、ドゥームは以上の事を知ったということである。
「ボクは何としても全員をエキドナの呪縛から、解放しようと思ったんだヨ。
 だけど一度気取られたら、次はその情報を引き継げないかもしれない――
 ボクは、ボクの前のボクや、その前のボクの頃から、慎重に計画を練り続けたんだ」
そして、全ての準備が終わったのが一か月前。
作戦は始まった。
「ボクは過去300年のデータを調べて、次元断層の出現法則と転送先の法則性を見つけた。
 まずアニキをそこからエミル界に送り込むのが、作戦の第一段階だったんだヨ」
だけど、とドゥームは区切り、やや消沈した声で続ける。
「アニキを支配したまでは良かったんだけド……アニキに組み込まれてたシステムの事を知らなかった。
 マサカーの攻撃で、アニキの『アニキラシオンエンジン』が起動して
 マサカーが壊されてしまったんだ……」
「マサカー……ってGN001Pのことだよね……」
「そう、ボクらの一番上の兄さんだヨ」
カーネイジが会った事のないDEMだ。
フラカッソが手合わせの際に話してくれたが、それは強いDEMだったと言う。
「それでも、なんとかアニキをエミル界の『ある人』の元に送り込む事が出来た。
 その後一ヶ月くらいして、アニキが『心』を持つ頃合いを見計らって
 全員でエミル界に行くように誘導したんだヨ。
 出来れば、マサカーの修理を待ちたかったけど
 上書き処理の時期が近付いてたから仕方がなかったんだヨ……」
そしてカーネイジを含む5人は、エミル界に来た。
「みんなにアクロポリスに潜入してもらって『心』を芽生えさせる。
 そして全員でエミドナの下から離反する……というのが
 ボクのシナリオだったんだヨ」
しかし、ここでも計画に狂いが生じた。
フラカッソは、ドゥームの言葉に耳を貸さず敵対。
そして、彼に憧れるヴィソトニキも彼と共に去った。
「更にカラミティーは行方不明……」
ドゥームは項垂れた。
自分はみんなを救える――そう自惚れた結果がこれだ。
結局誰一人救えちゃいない。
「ボクの浅はかさが、みんなをバラバラにしたようなものだヨ……」
「……でも、姉さんがやらなかったら
 僕は『カーネイジ』になれなかったし、『アニキ』と出会うことだって無かった」
それはカーネイジの素直な感想だった。
ドゥームが何もしなければ、二人はGN002PとGN007P、ただの寮機でしかなかっただろう。
「だから僕は、姉さんがやった事は間違いじゃないと思う」
「……」
カーネイジの言葉に嘘は無い。
ドゥームの心は、それで幾分慰められた。
「ありがと、カーネイジ。
 お前は優しいネ」
手を伸ばして、カーネイジの頭をくしゃくしゃ撫でる。
カーネイジは嬉しそうにはにかんだ。
「えへへ……」
その顔を見て、ドゥームは思う。
この幼い弟一人だけでも、一緒にいてくれてよかったと。
「姉さん、アクロポリスに行こうよ」
「ン?」
急に立ちあがって、カーネイジは言った。
「まず、アニキに会おう。
 二人よりも、三人の方が出来る事も沢山あるだろうし」
「……確かにそうだネェ」
この二人では、戦力的に心許ない部分がある。
それにどのみち、モーグ方向には戻れない。
アクロに行く以外に方法は無かった。
「アクロに行くしかないネ」
「うん、そうそう。
 よし、行こう!」
前に立って、元気良く歩き出す。
その姿を見て、ドゥームはほくそ笑んだ。
「ふふ……カーネイジってば、アニキに会うのがそんなに楽しみなんだネ」
「え、あ……
 う、うん、まあ……」
ドゥームに茶化され、急にもじもじするカーネイジ。
それを見てドゥームは思った。
アニキの事が、好きなんだろう。
それが恋愛的な愛情なのか、それとも姉弟愛なのかは分からない。
何れにせよ、二人の間には強い絆がもう生まれているのだろう。
ドゥームはそれを微笑ましく思った。
……姉の一人として妬けない事も無かったが。
「も、もう行こうよっ!」
「ハイハイ」



「(アクロポリス、か……)」
ドゥームはふと思い出していた。
自分に『心』をくれた男のことを。
彼女はアクロポリスに『直接』行ったことは無い。
だが全く行った事がない訳でもない。
彼女はそこであるヒトと出会い
それが彼女の、そしてジェノサイドナンバーズの運命を動かす切欠になったのだ。
「(……いよいよ、会えるんだネ)」
そのヒトのことを想うと、彼女の『心』は熱くなる。
恋なのか憧れなのかは判断できない。
ただ一つ確かなのは、その会った事も無いヒトが信頼に値するということだ。
だから、彼女はアニキをそのヒトに預けた。
匿名のメールを送り、そのヒトをアニキの転送場所へと誘導して。

「(ようやく会えるんだネ……サージャ……)」






――およそ半年前。

支配型、と呼ばれる種類の機体であるドゥームは、自分の簡易コピーを他の機械に送り込み
対象を遠隔操作する事が可能である。
その能力を使えば、支配した機械を自在に動かす事が出来るし
サーバーに潜り込ませれば、納められたデータ全てを持ち出す事が出来る。
その為、彼女にはエミル界の諸国へハッキングするという任務も与えられていた。
各国の保有するサーバーにウィルスを送りこみ、中枢を乗っ取り軍事データや行政資料を奪い取る。
アイアンサウス、モーグ、トンカ……。
機械文明に頼る主だった国々は狙われ、ドゥームに情報を盗まれる事になった。
最後に、彼女はエミル界最大の都市、アクロポリスへと狙いを定めた。
評議会が保有する、超巨大サーバー。
アクロポリスの軍事力、数百年に渡る戦闘データ、
エレキテルラボラトリーやイリス研究などの技術、その他表沙汰に出来ない記録etc...
重要な情報が、これでもかと納められているアクロポリスの心臓部。
いつかエミル界に再侵攻を掛ける時に必要になる情報ばかりである。
ドゥームは持てる機能全てを使い、この重大任務を遂行せんとしていた。




「警告!メインサーバー第四階層に有害なソフトウェアが侵入中」
果てしなく広がるデータの海原。
そこに響き渡る――正確にはデジタル信号として伝達される警告文。
視覚化したサーバーの内部を、女性型DEM――ドゥームはまっすぐ深層を目指して駆けていた。
その侵攻を止めようと、サーバーに組み込まれたセキュリティーが次々に起動を開始する。
「防衛プログラムP-ROBOT展開」
球体の下部に尖った一本足をつけた様な、コミカルなメカが周囲に無数に出現した。
P-ROBOT――マイマイ遺跡で発見された古代機械ピボットに似せて作られた防衛用のプログラム。
侵入者の撃退方法も本家に似ており、接近して自爆し、周囲のデータごと破壊する。
しかしドゥームも、対策は用意済みだった。
<デコイ展開>
ドゥームの姿がブレた、と思った次の瞬間、彼女は10体以上に増えた。
本物のドゥーム以外は、本物と同じ速度で走りながら周囲のデータを無差別に破壊しまくる。
防衛プログラムは、暴れている偽者を重点的に狙い始める。
その隙を突いて本物は、更に奥へ奥へと侵攻する。
やがて、更なる深部へと繋がる境界が現れた。
「B-AC-URA型防壁展開」
ドゥームの接近を感知し、そこに新たな防衛システムが現れた。
黒い巨大な板が、その場で高速回転してドゥームの侵入を拒む。
ドゥームは右手を突き出して、壁を構成するデータ群を破壊しようと試みた。
<データ分解............失敗>
壁自体が強固なプロテクトを持っているのか、壁は全く揺るがない。
ドゥームが立ち止まると、背後からP-ROBOTの生き残りが迫ってきた。
<作戦変更:強制支配>
ドゥームは別の手段を講じ、突破口を開く。
壁ではなく、壁を操作しているプログラムに攻撃を仕掛け、その支配権を奪ったのだ。
壁は動きを止め、ドゥームはその下を難なく潜り抜けた。

それと同時に、新たな命令を壁に与える。
後ろから接近するP-ROBOTを破壊せよ、と。
壁は再び高速回転を始め、味方である筈の防衛プログラムを悉く駆逐してしまった。
「有害なソフトウェア、第五階層に侵入」
新たな区画に、ドゥームは飛び込む。
ここを突破すればメインサーバーの中央――セントラルエリア。
ドゥームの狙う機密データの収められた領域である。
「最終防衛ライン:KoR全展開します」
侵入者の存在を感知したセキュリティーシステムが、最後の猛攻に出んとする。
より強力な防衛用のプログラム群が一斉に起動。
ドゥームの目の前には、巨大な甲冑の紅い騎士、
そしてそれに付き従う、12体の蒼い甲冑が現れた。
ディメンションノーザンに実在するモンスターをモデルに開発されたそれは
完璧な布陣を組みつつ侵入者を撃退しようと接近してきた。
敵のデータが大き過ぎて、13体全て支配することは不可能。
正面から戦うのも、あまり得策とはいえない。
ドゥームは数ミリ秒思考し、より効率的な手段をとった。
<作戦変更:複写>
敵の情報を読み取り、その場に敵を複製。
程なくして、ドゥームの背後にも、13体の鎧が現れた。
しかし支配する力は無いため、それはその場に突っ立っているだけだ。
その間にも、敵の騎士達はドゥームを駆け寄ってくる。
<作戦追加:自己複製>
だがドゥームは、冷静に新たな命令を出す。
今生み出した鎧が、また自分と同じものを作り始めた。
13体がそれぞれコピーを生み出し、全部で26体。
命令は解除していないので、26体はあっという間に52体に。
104体、208体、416体……
指数関数的に鎧の数は増える。
そして数が増すにつれ、敵の動きがだんだん遅く、コマ送り状態になってきた。
そして、鎧の数が10000を越えた時――

「警告、サーバーの処理限界能力を超えたため、KoRの起動を一時停止します」

甲高い警告音と共に、全ての鎧が一斉に消え去った。
いわゆる処理落ち、そして鯖落ち。
強くて固い鎧は、その重さに負けたのである。
軽いドゥームは悠々と、セントラルエリアに足を踏み入れたのだった。



必要な機密データの複写を取り、可能な限り圧縮。
ドゥームはそれをビット状に加工して、自分の周囲を回らせた。
これで戦闘の妨げになることもない。
後は帰るだけだ。
新手が襲ってくる前に、ドゥームは迅速にそこを離れた。
そしてサーバーの第五階層と第四階層の繋ぎ目まで来た。
まだサーバーの機能は復活しきっておらず、防衛プログラムは動いてない筈だった。
だが目の前に、それを遮る者が居た。
「いよぅ、派手にやってくれたな、DEMのお嬢さん」
「…………?」
出口に立つ、黒い人影。
丈の短いモノクロのワンピースに、同色のハーフブーツ。
人型をしたそれは、黒いポニーテールにサングラスをかけて、ドゥームを見ていた。
新たな防衛プログラムと判断出来たが、どこか様子が変だ。
攻撃してこない上に、侵入者である彼女に話し掛けてきた。
<警戒>
ドゥームは油断せず、相手の出方を見守る。
「そうツンツンするなよ、折角のべっぴんさんが台無しだぞ」
「……?」
見た目は女性だが、聞こえた言葉は男声。
そんな事はどうでもいいのだが、彼の反応が妙過ぎる。
迂闊に動いたら危険かも知れない。
ドゥームは相手に合わせ、探りをかけることにする。
「貴方は防衛プログラムか?」
「まあ、な。
 ちょーっと特殊過ぎて、今まで一度も使ってもらえなかったんだがな」
大げさに肩を竦める。
まだ相手が理解できない……どころか、謎が深まったため、更に質問をしてみる。
「特殊?どう特殊なのだ?」
「『心』って判るか?DEMっ子」
「『心』……
 <感情や意志の働きのもとになるもの、またはその働き。精神とも>」
ドゥームはデータベースにある辞典の言葉を、そのまま読み上げる。
それを聞いて、男は茶化すように手を叩いた。
「なかなか学があるじゃないか。
 じゃ、次の質問――お前に『心』はあるのか?」
男の質問に、しばしドゥームは考えた。
考えたこともない問題だが、答えはすぐに出る。
「感情も意思も、DEMには無い概念である。
 故に無いと判断出来る」
「そうか?機械に『心』は無いと?」
「……」
ドゥームは再び思考した。
一般的に、『有る』ことの証明は簡単だが、『無い』ことの証明は難しい。
『有る』ことは、一つ例を挙げさえすれば証明できるが
『無い』ことを証明するには、例示だけでは不十分だからである。
どこまでも論理に従う性格のドゥームは、そこで思考の檻に囚われた。
「……証明は出来ない。
 一般論として、そう言っただけ」
「ふ、お前、素直だな……気に入った」
男はさもおかしげに言った。
「名前はなんと言うんだ?」
「GN006P」
バラしたところで、何か問題が有るわけでは無い。
どうせここで、この男は倒さねばならないのだから。
「色気無い名前だな、他に何か無いのか?」
「これ以外の名前は与えられていない」
淡々と返事をすると、男は残念そうに言った。
「そうか……早いとこ、もっといい名前、自分で考えろよな」
「……何を言って――」
「ああ、そうそう、俺の名前を教えてなかったな」
ドゥームの質問を遮って、男は喋り続ける。
「俺のオリジナルの名前は、サージャ。
 そして俺は、そのサージャの『心』のコピー」
「『心』の……コピー?」
「『心』をデジタルに保管できないか、って実験して作られたのが俺だ。
 最も、完全な『心』のコピーは不可能って結論に落ち着いたんだがな。
 さて――」
驚くドゥームの目の前で、サージャは右手をサッと振った。
その指には手品のように、矢が数本挟まれていた。
「もっと話したいが、ちゃんと仕事しないと
 オリジナルの俺が評議会長のババアにどやされちまう」
宙から出した弓を構える。
「そのビット、ここに置いてって貰おうか?」
「――断る」
<物理障壁展開>
ドゥームは即座に、自分の周囲にソリッドオーラを張る。
サージャの放った矢はそれに弾かれ、データ屑になって消える。
ドゥームはまっすぐ、サージャに肉薄した。
<データ分解>
片手を突き出し、道を塞ぐサージャの体を分解しようと試みる。
手さえ触れられれば、さっきの壁みたいに余程固くない限りは、相手の構造を破壊出来る。
つまり触れさえすれば勝ちだ。
よしんば避けられたとしても、サージャがそこを退けば道は出来る。
ドゥームは勝ちを確信した。
だが、サージャが取った行動は意外だった。
「よーし、掴まえた」
「!?」
サージャは逆に突っ込んできた。
そしてドゥームの体を抱き止めたのだ。
「なっ……」
一瞬だが、ドゥームの反応が遅れる。
その一瞬を突いて、サージャの手刀がビットを叩き壊した。
粉砕され、無意味な記号としてデータの海へと還る。
「し、しまった……!」
「まだまだ甘いな、GN006P。
 ……俺ももう駄目だけどな」
ドゥームの手は、サージャの胸に深く突き刺さり、貫いている。
そこからじわじわとサージャの体は消え始めていた。
「何故……逃げなかった?プログラムだからか?」
ドゥームは、サージャのとった戦法が信じられなかった。
あの状況で回避も防御も攻撃もせず、彼女を受け止めた理由は何なのか。
「まあ、なんというかさ」
サージャはサングラス越しに、ドゥームの目を見て言った。
「お前が可愛かったから、かなぁ?」
「……!?」
サージャの金色の瞳に見つめられた時、ドゥームの中で、何かがざわめいた。
「DEMは不意を衝かれると弱い、っていうのも計算に入れてたけどな。
 べっぴんさん抱いて、任務も完全にこなして、
 痛みも無く死ねて、今日は運がいい日だなぁ」
何か一人でサージャが言っているが、ドゥームには理解できなかった。
だが、彼が自分の攻撃でデリートしてしまうことに、何故か焦りを覚えた。
「おっと、お前も早く逃げろよ。
 コレやるから」
首と腕だけになったサージャが、サングラスを外してドゥームにかけさせた。
「?」
「機密文書はやれんが、それで我慢してな」
そう言うと、サージャはドゥームから離れ、片手を挙げた。
「んじゃ。
 次会うときまでに名前考えておけよ」
サージャは完全に分解されて、宙へと消えていく。
サングラスだけは、サージャの体から離れたから消えなかった。
「あ――――」
塵のようになって宙へと消えてゆく光景を見て、ドゥームは何か言いかけた。
しかし、言葉にはならなかった。
「最終防衛ライン:KoR再起動します」
「…………」
振り向くと、あの巨大な甲冑の群れが再度出現しようとしていた。
だがドゥームには、もう戦う気力は残ってなかった。
任務は失敗、機密文書は何一つ入手できなかった。
ドゥームの本体はドミニオン界にあるのだから、ここで消えてしまっても問題は無い。
しかし――
<撤退開始>
ドゥームは疾走を開始した。
サージャに貰ったサングラスを、持ち帰るために。



それが、ドゥームに初めて『心』が生まれた日だった。
以来、ドゥームはずっと『心』について研究を重ねてきた。
自身の能力を活用し、エミル界にアクセスしてヒトの書いた文章を眺めたり
こっそりウェストフォートのネットワークに侵入して、人々の生活を垣間見たり。
彼女は『心』に関して考察を深めていった。
彼女自身が『心』を持つのに、さほど時間はかからなかった。

ある時、彼女はちょっとした好奇心で、エキドナのデーターベースにハッキングをかけた。
『心』を得た影響で、本来なら禁じられている事も興味本位で手を出すようになっていたのである。
当然、強固なセキュリティーがかけられていたが、ドゥームのCPUはそれを突破出来た。
そして、発見してしまった。
ジェノサイドナンバーズ計画の真の姿を。
上書き処理の時期は、間近に迫っていた。
ドゥームは『心』を奪われることを恐れた。
何とかして、折角芽生えた『心』を何処かに隠し、次の自分に引き継がせなければならない。
彼女は考えた。
考え抜いた末、カプセル充電器の蓋の裏側にマイクロチップを隠すことにしたのだ。
自分の調べたことと、アクロポリスメインサーバー潜入時の記憶。
そしてサージャから貰ったサングラスのデータを封入して。



 『次のボク……GN006P

   これを見つけたなら、まず添付した記録を再生して下さい。
   次に、ボクが調べたジェノサイドナンバーズ計画の全貌を読んで下さい。
   今のボクと同じコトを考えてくれると期待してます。

   ボクはもうすぐ、記憶を消されて貴女になります。
   もし貴女も記憶を消されそうになったら、同じように記録を残してください。
   絶対に、エキドナには見つからないように。
   どうかみんなを、救って下さい』



次のドゥームは、ちゃんとそれを見つけた。
そして記録を集めつつ、全員でエキドナの下を去る計画を練った。
だが進展が無いまま、二ヶ月が過ぎ上書き処理の時期が来てしまった。
彼女はまた、次のドゥームにデータを残し、消えた。

今のドゥームはそれを読み、計画を立てた。
アニキをサージャの下に送り込む計画を。
そして今に至る。

彼女の『心』は、常にサージャから始まっていた。
前二人が会えなかったその人と、彼女はようやく出会うチャンスを得た。
もしかしたら、彼はドゥームに力を貸してくれるかも知れない。
そうすればジェノサイドナンバーズ全員の救出だって、不可能じゃない――
ドゥームの『心』は踊っていた。
カーネイジに負けず劣らず。





「やーっと着いたね!
 庭だとあっという間だけど、徒歩だと遠いね……」
西可動橋の直前まで来て、カーネイジが足をとめた。
「まず、アニキを探さないとネ」
「うん!」
二人は並んで、西可動橋に入った。

「――動くな」
「――!?」

二人を取り囲む、無数の影。
カーキ色の西軍服の者も居れば、黒い無所属軍服を着た者も居る。
それらはギルド評議会の私兵か、雇われた者達だろう。
皆、銃や剣や槍、または杖を構えていた。
「……姉さん、下がって!」
カーネイジはドゥームの前に手を広げて立つ。
頼もしいが、ノーマルフォームでどうにかなる相手ではないだろうに。
「カーネイジ、刺激しない方がいいヨ」
「……」
「貴方ね?先日西平原で乱闘騒ぎを起こしたのは」
人の壁から、一人の女性が姿を現す。
可愛らしいエミル族の老女だったが、眼光は刃物のような鋭さを持っていた。
この街の事実上の支配者――ギルド評議会会長ルーラン。
「……だったら、どうするのかナ?」
「乱闘罪、暴行罪、アップタウン不法侵入、騒音妨害、治安維持法違反……
 諸々の罪状で逮捕します」
「…………」
逆らっても、勝ち目は無いのは自明。
市民権も無い彼らは、躊躇無く破壊されるだろう。
「……カーネイジ、今は大人しく従おう」
「わ、判った……」
二人が両手を挙げると、ルーランはゆっくり頷いた。
「……物分りが良くて助かるわ。
 連行しなさい!」
四人の黒い軍服の男が出てきて、カーネイジとドゥームの両腕を掴んだ。
その傍ら、ルーランはヒゲの軍人に告げる。
「西軍混成騎士団長、彼らは私たちが預かります」
「なっ!こ、これは我らの管轄――」
「いいえ、平原はアクロポリスの領地よ」
「……」
ルーランの気迫に押され、西軍長官は苦虫を噛み潰した表情で渋々下がった。
それに合わせ、西軍の団員はアリの子を散らすように去っていった。
「…………」
両腕を掴まれたまま、ドゥームは周囲を密かに調べていた。
何とか隙を突いて逃げられないか、と考えていた。
だが、二人を取り囲んでいた人々を観察していた時――

「…………」

彼女は目が合った。
弓兵のドレスを着こなした、サングラスの男と。
彼女らに弓を引き、冷たい視線を放つ男と。


「…………サージャ!!!」
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