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【Genocide Numbers】

Act.7

No.7に次いで、No.4も任務失敗。
僅かな手がかりすら手に入らず、既に2日が無為に経過した。
いや……何も起こらないよりも、状況は悪化しているかも知れない。
No.7もNo.4も、アクロポリスから帰還後、様子に異常が見られる。
時折分析不可能な行動を取ったり、ナンバーではなく開発名を呼称として用いたり。
イレギュラー化したDEMの行動記録を読むと、似たような事が記されていた。
No.2の暴走に続き、No.4、No.7のイレギュラー化。
それだけは避けねばなるまい。
アクロポリスに、DEMを狂わせる何かがあるというのか。
戦いを知らない、平和ボケしたヒトの群れが居るだけではないのか。
一度、自身の目で確かめる必要があるだろう。

もう一つ懸念事項がある。
ここまでの作戦行動が、No.6の指示に大きく依存し過ぎている点だ。
No.6は確かに優秀な機体ではある。
それ故に、自分の分析能力では到底及びもつかない行動を取るのは、当然のことかと考えていた。
だが、もしNo.6が既にイレギュラー化していたならば。
我々ジェノサイドナンバーズを、それと判らない様に影から操作しているとしたら。
我々は何処へ行ってしまうのだろうか。

「リーダー機として、俺はどう行動すべきか――」

No.3は立ち上がる。
待ち受ける、次の任務の為に。



No.3が作戦テーブルに着くと、一同は既に揃っていた。
直前までの思考を一旦保留にし、No.3はリーダー機としての職務を果たす事にする。
「それでは、本日の任務内容の確認を行う。
 ミッションは依然、No.2の鹵獲もしくは破壊、だ」
スクリーンには、アクロポリスとNo.2の詳細画像。
No.3がコンソールを操作しながら説明を続ける。
「今日はNo.5に任務に当たって貰う事になっていた筈だ」
「はい」
二挺拳銃を下げた銀髪のDEMが、前に出る。
No.5――ヴィソトニキである。
その姿を一瞥し、No.3は改まった口調で告げた。
「……任務内容を変更する」
「えっ」
場の空気が、緊張に包まれる。
「リーダー機としての判断だ」
「…………」
「任務は『No.5単騎でのアクロポリス潜入』となっていたが
 これに一つ条件を追加する」
そこで、一旦間を空けた。
4機の視線がNo.3に集まる。
その全てを睥睨するように、バイザー越しに見渡して、No.3は言った。
「…………俺も同行する」



「……結局、さァ……」
No.3とヴィソトニキが出撃した後の基地。
ドゥームとカーネイジとカラミティーが、作戦テーブルで暇そうにしていた。
カラミティーに至っては、テーブルに突っ伏して少し溶けている。
本人曰く、省エネルギーモードとの事だが。
「No.3って……デートしたかったのかナ」
宙に視線を彷徨わせながら、ドゥームがぽつりと呟いた。
それを聞いたカーネイジは首を傾げる。
「……でーと?」
「いや、なんでもない……忘れていいヨ」
発言をかき消すように、ドゥームは手をぱたぱたと振った。
流石に妄想が行き過ぎた、と反省して、ドゥームはコンソールを弄り始める。
No.3がヴィソトニキとの同行を決めたのは、そんな理由じゃないだろう。
ドゥームは数秒思考し、すぐに答えを出した。
No.3は、危惧したのだ。
ヴィソトニキを一人でアクロポリスに行かせる事を。
それは、既にアクロポリスに行った組――カーネイジとカラミティーが疑われている事を示唆している。

実際、二人はドゥームの望み通り――それ以上の成果を出していた。
【アクロポリスでヒトと密な接触をし『心』を宿らせる事。】
それが、ドゥームの描くシナリオの第二章だった。
ヴィソトニキには色々と吹き込んで来た為、既に『心』らしきものは芽生えている。
あとはNo.3だけ。

「(そう考えると、これは嬉しい誤算なのかナ)」
No.3がヴィソトニキの傍に居ることで、ヴィソトニキの『心』がNo.3に影響を与えるかも知れない。
だが、No.3がヴィソトニキをイレギュラーと認識したら
逆に処分してしまう可能性も、無い訳ではない。
「(難しいネ……)」
高性能のブレインを持つドゥームでも、『心』のことは良く判らない。
意図的に作ることは出来なくても、いつの間にかそこにある物。
形は無いのに、ある、と言い切れる物。
彼女に判るのは、これくらいだ。
「(実に、難しいネ……)」

思考を中断したのは、突然の甲高い電子音。
壁に設置されたスピーカーから、声が響いていた。
『こちら……3………クロポリスに到着…た』
No.3からの通信。
電波状況が悪いらしく途切れ途切れである。
「こちらNo.6。無事に到着したようで何よりだヨ」
『N…2の現在位置を……ってくれ……』
「はいはーい」
ドゥームは索敵装置を起動し、アニキの位置を調べ始める。
アニキの位置を示す光の点は、アップタウンの中央付近に出た。
昨日と同じく、嘘情報を送ろうとしたドゥーム。
だが、小悪魔的な笑みを浮かべると、何を思ったか――
「判ったヨ。ダウンタウンの中央」
『ダ…ンタウンの…央だな?』
「ウン、ダウンタウンの中央」
ドゥームが送ったのは、本当の情報。
『了解し……通信を切…………』
正確に聞き取ったのを確認し、No.3は通信を切った。
ブッとノイズを散らして、スピーカーはそれきり黙る。
それと同時に、今まで黙って溶けていたカラミティーが体の何処かからか音を発した。
「……ドゥーム」
「ン?何かナ?」
いつの間に開発名で呼ぶようになったのか、と思いながら、ドゥームはカラミティーを見た。
「本当のこと……教えてよかったの?」
No.3とアニキが接触すれば、必ず闘いが起こる。
カラミティーは、そうなって欲しくなかった。
「……ふふフ……」
だが質問には答えず、ドゥームはただ、怪しげな笑いを返しただけだった。



その頃、西アクロニア平原にて。
人目につかない位置に庭を下ろしたNo.3とヴィソトニキは、出撃準備を行っていた。
ノーマルフォームにチェンジし、持ってきた衣装に着替える二人。
ヴィソトニキは長袖の白いシャツに、黒のミニスカート。
一方No.3はと言うと、迷彩柄のパンツにアーミー用のジャケット。
戦場に赴く兵士の格好そのまま――その上、レシーバーサングラスまでかけている。
全てNo.3が適当に選んできたものだった。
「…………」
その姿を見て、ヴィソトニキは何故かエンジンの出力が下がったのを感じた。
だが今更着替えろとも言えないし、それに足る理由が無い。
明確な理由も無く、No.3が行動を変えるとは思えなかった。
「どうした、No.5?
 なにやら出力がダウンしたようだが」
「……問題ない。
 それより、No.6はなんて?」
「No.2の位置だが……」
そこで一旦言葉を切り、No.3は考えた。

 『もしNo.6が既にイレギュラー化していたならば。
  我々ジェノサイドナンバーズを、No.6がそれと判らない様に操作しているとしたら』

今朝、自分が推測した事を呼び起こす。
これは仮定でしかない。
明確な根拠も存在しない。
だがNo.3には、直感とも言うべき確信が、あった。

「どうしたの?」
「……No.2は……」
No.3は、リーダー機として決断した。
任務成功の為に。
No.6の発言を、虚偽と取るならば――
「No.2の現在位置は、アップタウン中央だ」



「はい裏目ったヨ!」
「ホントだ……ドゥームすごーい」
「もっと褒めテー!」
二人がダウンタウンに移動するのを確認して、二人は陽気に騒ぐ。
これで二人がアニキに出会う危険は回避された訳である。
ドゥームは、今朝の作戦変更で、No.3が自分も疑っているのを感じていた。
故に、彼は自分の情報に逆らうだろうと読み、敢えて本当の事を伝えたのだった。
「でも姉さんたち……これって危なくない?」
「ン?」
二人を見ていたカーネイジが、不安げに言った。
「リーダーに疑われてる、って事は……
 僕らイレギュラー扱いされて処分される危険があるんじゃ……」
カーネイジの心配は尤もだった。
誰も口に出していないが、ここの三人には『心』があるのを、互いに察している。
だがNo.3は違う。
彼はまだ『心』が無く、機械的に物事を判断する。
イレギュラーと判断すれば、味方であっても躊躇い無く処分するだろう。
カーネイジは昨日手合わせをしたので、No.3の強さが嫌と言うほど判っていた。
「ソコは賭けだねェ……」
No.3が『心』を持つかどうか。
ドゥームのシナリオにおいて、現在はそれが一番の問題点だった。
リーダー機であるNo.1が大破した為、No.3はリーダー機として調整を受けている筈。
情報処理能力や戦闘力といったフィジカルな強化だけでなく
DEMとして規範を犯さぬよう、と言う強固なプロテクト――特製の倫理回路が組み込まれている。
他のメンバーに比べ、『心』が芽生えにくい可能性が高い。
「ウン……分の悪い賭けだネ……」
ドゥームは、No.3も『心』を芽生えさせる筈だと信じている。
だが、『心』に関して絶対というものは無い。
No.3が『心』を持たず、DEMの規律に従いドゥーム達と敵対するならば――
「……でもマ、対策は用意してあるヨ」
ちょっと乱暴だけどネ、と付け加え、それきりドゥームは黙った。



一方その頃、ヴィソトニキとNo.3のコンビは西可動橋に足を踏み入れるところだった。
「この防衛システムは、先の大戦から得た教訓か……
 だが形骸化しているな」
この橋が閉ざされ街を護る壁になった事は、彼の知る限りでは無い筈だ。
長きに渡る平和は機構は錆付かせ、咄嗟には動かせないように見えた。
それはきっと、この世界の軍隊も同じだろう。
「こんな街、機械種族全部隊で侵攻すれば半日とかかるまい――むぐっ」
「な、No.3、そんな言葉、誰かに聞かれたら……」
ヴィソトニキは慌ててNo.3の口を押さえる。
白魚のような指が、No.3の唇に触れた。
「……放してくれないか、No.5」
「あ、ご、ごめん」
ヴィソトニキは、慌てて手を引っ込める。
「俺の方こそ、不用心だった。
 潜入捜査において、目立つ行動は厳禁だった」
No.3は淡々とそう言う。
「No.5、やはりお前は優秀なサポート役だな」
「えっ、そ、そう……?」
何故か動揺させたようだが、それはNo.3の忌憚の無い意見である。
元々ヴィソトニキは『支援型』として製造されており、戦闘においては他メンバーの補助に当たる場合が多い。
遠距離からの支援狙撃であったり、弾幕を張っての防御であったり。
特に、前衛型でも速度に難の有るNo.3とは、相性が良かった。
シュミレーターでの戦闘訓練でもペアになる事が多い。
その為No.3はヴィソトニキを高く評価していた。
「この任務でも、何か気付いた事が有れば適宜修正した貰いたい」
「りょ、了解!」
ヴィソトニキの動力炉の出力が、跳ね上がった。

アップタウンに足を踏み入れた二人は、その賑やかさに目を見張った。
街の至る所に赤や白の装飾。
何故か真っ白な綿を乗せた模造植物がいくつも設置されている。
小型の電球を連ねた銅線が、その植物や街灯に幾重にも巻きつけられ
ランダムに点滅を繰り返しているのを見て、No.3は疑問を呈する。
「……なんだこれは?」
No.3は内蔵したデータベースにアクセス。
返された答えは、クリスマスという聞き慣れない単語。
元は聖人の誕生日を祝う祭だったが、今ではその意味を失い、ただ騒ぐだけのもの…らしい。
DEMには祭り、という概念は無い。
ウェストフォートのドミニオン達も、そんな事はしていないだろう。
ある祭りと言えば、血祭りぐらいだ。
だが一方のヴィソトニキは、と言うと
「綺麗ねぇ……」
デコレーションされた町並みを見て、目を細めていた。
「……!」
No.3は聴覚を疑った。
「(『綺麗』……!?)」
『綺麗』という語彙はDEMに無い。
美的感覚や芸術的感覚のような戦闘に不必要な感性は、DEMに備わっていないからである。
物事を『綺麗』と感じるのは、ヒトの行為――まさかNo.5も既にイレギュラー化を……
「(はっ!そうか……!)」
そこまで性急に思考を進めたところで、No.3は何かを閃いた。
No.5ともあろう者が、イレギュラー化する筈は無い。
そう、これは――
「(『芝居』か!この街に溶け込む為の……!)」
目立つ行動をとれば、こちらが近づく前にNo.2に情報が伝わり、逐電される恐れがある。
それに、評議会に登録してない二人が評議会や軍に怪しまれるのは非常に都合が悪い。
「(流石よ、No.5……俺もDEMの常識に囚われず、柔軟に見習わねば)」
そう反省し、No.3はとりあえず真似をしてみる事にする。
無意味に点滅を繰り返す色とりどりの電飾を見て、抑揚の無い口調で、一言。
「ああ、綺麗だな」
「!!!」

唖然呆然。
No.3が『綺麗』なんて言葉を使うとは思って無かったヴィソトニキは、まさに硬直した。
自分が言うのはおかしいが、DEMは普通、そんな言葉は使わない。
「……あの、No.3……?」
「何だ?」
「ええと、今、綺麗って……」
「間違っていただろうか?」
「いや、そんな事は無いけど……」
真顔で問い返されると、返答に困る。
「次はどうすればいい?」
「え?えーっと……」
何故、リーダーであるNo.3が私に聞くのだろうか。
上手く説明できないが、今日のNo.3は朝から様子が変だった。
「と、とりあえず歩き回って探せばいいんじゃない……?」
「了解した」



「いないか……No.5、そちらの様子はどうだった」
「こっちにも反応は無かったわ、No.3」
アップタウンの中央に聳え立つ大支柱。
その周りを手分けして見て回ったのだが、かすりもしなかった。
「もう移動したのかしら……」
ヴィソトニキが困った様子で周囲を見渡した。
その横で、No.3は反省していた。
「(……No.6の情報は、正しかったのか…?)」
そうだとしたら、自分はとんでもない作戦ミスを犯した事になる。
だがNo.5の言うように、ここから移動した可能性も捨て切れない。
もしかしたら、既に自分たちの存在を察知して逃げたのかも知れない。
考えられ得る可能性をリストアップしてはデリート、を繰り返しているNo.3の袖をヴィソトニキが軽く引っ張った。
「……ねぇ、No.3……」
「何だ?」
「私達、浮いてない……?」
「それは『周囲と馴染まず、違和感が有る』という事だろうか」
「う、うん……だってどう見ても地面に脚付いてるでしょ……」
周囲を見渡す。
自分達と同じ程度の外見年齢の男女の組が、数多く見受けられる。
「そうだろうか。
 我々と似た男女二人組は、比較的多数居ると思われるが」
「うーん、なんて言うのかな……距離間とか……」
ヴィソトニキは難しそうな顔で言う。
「距離……」
No.3は、もう一度周囲を精査する。
自分達と類似していると思われた男女は、大抵、手を繋いだり腕を絡ませたりしている。
つまり、零距離。
「(流石No.5、このような仔細な点にまで留意するとは……!)」
すぐさま実践すべきだろう。
「No.5……こちらへ」
「え―――あっ」
No.3の手が、ヴィソトニキの肩を抱いた。
ヴィソトニキの背中にNo.3の腕の温もりが押しつけられる。
No.3の顔が、横を向いたら鼻が触れてしまいそうなくらい近くに。
「あ…………」
<思考回路にエラー発生 出力上昇>
ヴィソトニキのエンジンの出力が、また一段階上昇した。
「(な、なんで――!?)」
本人にも、原因は不明。
パワーをセーブしているノーマルフォームで出力が上がった為に
体の至る所でほんのりと温度上昇が起きていた。
「む、No.5、エンジンが不調か?」
これでもか、と言わんばかりに密着していたNo.3は、その異変にすぐ気付いた。
「え、そ、そんなことないよ?」
慌てて否定するNo.5。
ここまで来て調子が悪いから帰ります、じゃ話にならない。
「そうか……?」
「それより、こ、この腕は……」
「距離がある、と指摘されたから改善してみた。
 ……変えたほうが良いだろうか?」
「え……い、いいんじゃないかしら?」
「そうか、良かった」



「うわぁー、見て見てウォルス、あのDEMさん達ラブラブだよー」
No.3が声の方を見ると、ドミニオンの少女が二人を見て指差していた。
「こ、こら!指差しちゃ失礼ですよ御影さん」
すると、彼女の手をタイタニアの青年が引っ張り、引き摺る様に連れ去った。
No.3に、すみませんすみません、と頭を下げながら。
「あ、ねぇねぇ、今日は何処に連れてってくれるの?」
青年の腕に抱きつきながら、少女が問うた。
青年は真顔で、こう告げる。
「僕らもラブラブしながらブラブラとか……
 これはヒトをえラブギャグでしたねハハハ」
「…………」
局地的に冬将軍が訪れる。
今日もウォルスは、大変あラブっていた。



「あれは魔法攻撃か……?」
突然氷結状態になった少女を見て、No.3が呟いた。
「男性の方は衣装よりセージだと分析できるが…」
「……」
ヴィソトニキは何故か黙るが、それに気付かずNo.3は一人でブツブツと呟き続ける。
「しかし、詠唱を確認出来なかった。
 あのような不可思議な魔法を使うとは、タイタニアは侮れぬな……」
「……」
「どうした、No.5」
ヴィソトニキの反応が無い事に漸く気付いたNo.3と、意を決した表情でNo.3を見上げたヴィソトニキの視線が、一直線に重なる。
すっと上げた人差し指で、相手の鼻を指して、小さな声で呼んだ。
「ふ……フラカッソ」
「フラカッソ?」
それはNo.3の開発名。
だが開発名で呼ばれたのは、初めての経験である。
「今見てて思ったのだけど、番号で呼び合うのは不自然……じゃないかしら」
おずおずと言うヴィソトニキ。
頬はまだ、微かに熱を帯びて紅い。
「だから開発名なのか?」
No.3には、理解し難い感覚である。
GN003PもNo.3もフラカッソも、示すモノは皆同じ。
ならばより短い呼称を用いるのが、賢い選択ではないだろうか。
No.3はそう結論を出す。
そうとしか結論を出せないのが、今の彼である。
だがしかし
「……No.5、お前がそう言うのならば、俺は従うまでだ」
今日の彼の中では、ヴィソトニキの判断の方が優先された。
「わぁ……じゃ、じゃあ、私の事も……」
弾んだ様子で、自分を指さすヴィソトニキ。
言わんとしてる事は、No.3にも判った。
一言、開発名で呼べばいい。

「…………」
だがそれを口にするのに、抵抗があった。
リーダー機にバージョンアップした時に組み込まれた倫理回路が、行動を阻止しようとしているのだ。
『開発名で呼び掛ける』
たったそれだけの事に対し、倫理回路は何故か強い抵抗を示していた。
「……駄目?」
No.5が見上げてくる。
プラスチックの赤い瞳を見た時、No.3の中に衝動が生まれる。
どうしても言わねばならない、という強い強い欲求。
「…………ヴィ……」
倫理回路の制止と衝動の板挟み。
悲鳴を上げるブレイン。
No.3は歯を食いしばり、自分の信ずべき方の後押しをし――
「――――ヴィソトニキ!」
最後に鍔迫り合いを制したのは、衝動だった。
「うん、フラカッソ――」
開花を待ち望み続けたつぼみが咲くように、ヴィソトニキの顔が綻んだ。
その瞬間、No.3の中で異常な――だが心地の良いノイズが響き渡った。
――フラカッソという人格が生まれた瞬間だった。

フラカッソは、倫理回路が誤作動したのだろうと判断した。
このような特殊な潜入ミッションに対応して居なかった為
予期せぬ事態に、倫理回路が働いてしまったのだと。
そう考えると、彼の思考は一気にクリアになった。
――なんだ、何も異常なところは無い、俺は普通だ。



だがフラカッソは知らなかった。
母から与えられた以外の名を持つこと。
自分の意思で名を選びとること。
それは、一部のイレギュラー化したDEMにおいて発現が認められた、言わばイレギュラーの初期症状。
だからエキドナはフラカッソに、与えられた以外の名を意識する事を禁じる倫理回路を組み込んだのだ。
そしてそれを破った今、彼もまた、イレギュラー化しつつ――『心』を持ちつつある。



もう一つ、彼の知らないことがあった。
その倫理回路は、彼を監視する役目を持っていた。
何か重大な異常を感知すれば、それは即座にエキドナの知るところとなる。
例え彼が、別の世界にいようとも――
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