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【Genocide Numbers】

Act.3


その日、正午も近づきつつある時刻、西アクロニア平原を1人の男が歩いていた。
女性向けの黒鳥のドレスにブーツを履いているが、一応男。
女装弓兵の異名を持つストライカー……サージャである。
「ここら辺か?」
西平原北側、切り立った岩山のすぐ傍でサージャは立ち止まった。
手にした携帯端末を見遣る。
液晶ディスプレイには、西アクロニア平原の一地点……つまり彼の居る座標を示す文字の羅列。
その下には、『貴方の秘密を知っている。一週間後の正午、そこで待つ。』と続いている。
今日がその一週間後だった。
現在の時刻は11時58分。
「誰もいないじゃないか……」

始めこのメールを見た時、彼はただの悪戯かと思い無視しようとした。
だが、メールの出所を調べると、不審な点に行きあたった。
送り主は不明。
何処のサーバーから送られてきたかを調べると、何故かギルド評議会のメインサーバーに繋がった。
しかも、更に遡ると、今の時代は使われていない筈の人工衛星経由で
もっと他の場所から送られてきた事が判明した。
(……評議会のサーバーを経由して送ってくるとは……)
ギルド評議会と裏で繋がっている彼は、評議会のサーバーのプロテクトがどれだけ強固か知っている。
何故、わざわざそんな危険を冒したのか。
恐らく挑発の為である。
自分はこんな事も出来るんだぞ、と力を示し、サージャの興味を引こうとしているのだ。
(乗るべきではないのかも知れん……だが……)
彼には、もう一つ気掛かりな事があった。
評議会のサーバーには、アクロポリスに関する重要なデータが大量に納められている。
その為、各国からのハッキング――特に技術大国であるアイアンサウス――が耐えない。
だから評議会は、サーバーに強力なプロテクトをかけて保護している。
それの構築にはサージャも一枚噛んでおり、絶対に破られる事は無いと彼自身も思っていた。
だが半年ほど前、そのプロテクトを掻い潜りデータを盗もうとした輩が現れたのだ。
サージャが特殊な手段を講じ、データを持ちだされる事は阻止した……が、犯人は判らず仕舞いだった。
もしかしたら、このメールも同じ相手から送られて来たのかも知れない。
サージャはそう考え、呼び出しに応じたのだった。

「無駄足だったか?」
サージャが時刻を確認しようと懐中時計を取りだすと丁度三本の針が同時に12を指した。
依然、周囲に人影は無い。
帰るか、それとも、もう少し待ってみるか。
サージャがそう考え始めた時、急に上空が明るくなった。
「……何だ!」
反射的に矢をつがえ、真上に向けて構えを取る。
サングラス越しに見た青空には、何故か太陽が二つ。
否、片方の光は太陽では無かった。
その証拠に、周囲の空間が急速にねじれ始めている。
「これは次元断層……!」
遥か高みに現れた光は、世界同士の衝突で生まれた火花。
光はやがて光を吸いこむ穴に代わり、周囲には紫電が走り始める。
その中に、赤い物体が一つ。
「あれは……」
それは真っ黒な瞳から大地にこぼれた、一滴の血涙の様だった。
だが地上に近づくにつれ、それの機械的なフォルムが見えてくる。
「……DEMか……!?」
DEMなら相当の重量があるだろう。
直撃すれば、不死身に近い彼と言えども、痛い。
サージャが慌ててバックステップで距離を取ると、数秒前まで彼が居た位置に落ちてきた。
周囲に轟く地響きと爆音。
予想通り、落下物が相当な重量を持っていた事を示唆していた。
もうもうと立ちあがる粉塵をものともせず、サージャはそれに歩み寄る。
「やはりDEMか……壊れてるのか?」
それは、見た事が無い機種のDEM。
黒いボディーには大きな穴が空き、四肢も変な方向に曲がっている。
全身には焼け焦げた跡があり、方々でパチパチと火花が小気味良い音を立てていた。
だが完全には壊れていないらしく、ボディーに触れると微弱な震動――モーターの駆動を感じられた。
今なら修理が出来るかも知れない。
サージャは黙ってDEMを担ぎあげると、踵を返した。
「流石に機械種族、重いな……」
重量は優に200キロは超えていたのだが、口調とは裏腹に軽々と運び去るサージャ。
ふと彼は、メールの事を思い出す。
送り主とこのDEMが同一人物かは、判らない。
疑問は何一つ解けず、逆に増えただけなのは確かだった。
「送り主は、俺にこんな事をさせたかったのか……?」



「これまた、酷い壊れ方だな……直せるのか?」
食卓に横たえられたDEMのスクラップを見て、面倒そうに尋ねる女。
女親方服に身を包み、真っ赤な髪にサンバイザーを付けたブラックスミス。
サージャが住む家の女主人メリーは、厄介事を持ちこんだ男をジト目で睨んでいた。
「大丈夫だ、問題ない」
サージャはテキパキと修理の準備を進める。
ブラックスミスであるメリーの家には、鍛冶や機械組み立ての為の道具は一通り揃っていた。
加えて、サージャは過去にDEMを弄った経験があった。
それは30年前くらいだが、基本のアーキテクチャは同じだと彼は踏んでいる。
「なんでエレキテルラボに持っていかないんだよ、あっちが専門だろ」
アクロポリス周辺で発見されたDEMは、まずエレキテルラボに収容されるのが普通である。
ラボには、DEM研究の最先端であるウェストフォートに負けない設備が用意されているからである。
出資者である評議会の方針で、そこに来たDEMは全てチェックを受ける事になるのだが
メールの事が気になるサージャにとって、それは都合とは言えなかった。
だから、自宅に運び込んだのだ。
食卓を臨時の手術台にされた家主は不機嫌だったが、仕方が無い。
「どうせ暇だろ。フォリアも今は居ないし、手伝ってくれ」
フォリア、とはサージャの相方のドルイドである。
だが癒すよりも壊す方が得意な性格なので、居ても役に立たなかった公算が大きい。
「はぁぁ……」
サージャが投げたドライバーをキャッチし、メリーはわざとらしく溜息。
覚悟を決めて、DEMのネジの一つに突き立てた。
「仕方ないな、晩飯までに終わらせるぞ」

だが、修理は思った以上に難航した。
四肢の故障は問題なく直せたが、動力炉の修理に問題があった。
「……なぁ、何でコイツ、生きてるんだ?」
「知るかよ。俺が見たDEMは、動力炉は一つっきゃ無かったぞ」
二人が頭を悩ませているのは、右胸の動力炉が完全に潰れているにも関わらず
DEMの全身にエネルギーが供給されてる点だった。
通常、動力炉をやられるとDEMは機能を停止する。
メモリーを保持するために予備電源が用意されている事も有る。
が、このDEMは全身のエネルギーケーブルが生きているのである。
「考えられるのは……コイツだが……」
サージャが触れたのは、DEMの左胸。
動力炉と同じサイズの、真っ黒い箱が据え付けられているのだが
その箱、どうやっても開きそうにない。
ネジ穴や繋ぎ目はなく、中から太いケーブルが数本伸びていた。
「このブラックボックスが、このDEMの心臓部、と?
 …確かに左胸にはあるけどさ」
メリーはブラックボックスの表面に書かれた文字を見る。
『annihilation』
「アナイヒラレイション……いや、アニキラシオン……か?」
「このDEMの名前か?あんまり役に立たなそうな情報だなぁ…うーん」
思案深げな様子で、ブラックボックスの触診を続けるサージャ。
じっとそれを見ていたメリーだが、急に何かに気付いたようにその手を払った。
「って……なんだよメリー」
「あんまりレディーの胸を触り過ぎるなよ、女装弓兵」
「……レディー?コイツが?」
二人はDEMの頭部に視線を向ける。
赤い瞳に、ライトイエローのツインテール。
メリーの言う通り、このDEMは女性型なのだろう。
「ほら、こんなに美少女じゃないか」
「そうか?まあ、どうでもいいけど……俺、自分にしか興味無いし」
大げさに肩を竦めて、サージャは右胸の修理を開始した。
「とりあえず、動力炉を直しておけば問題は無いだろ」
「そうだな。私は腹部の穴を修理するか……」
再び互いの作業に集中する二人。
そのDEM――No.2の復活は近かった。



「よし、これでOK!」
胸部の最後の配線を終え、半田ごてを台に戻すメリー。
4時間に渡る作業だったが、何とか夕飯までに終える事が出来た。
「じゃあ起動するぞ」
サージャが配線に装甲を被せる。
これで動力炉から全身にエネルギーが供給されて、DEMの機能が復活する筈だった。
ブラックボックスの謎は最後まで解けなかったが、起動には問題ないとサージャは判断していた。
「無事に起動してくれよ……4時間もかけたんだから」
メリーはDEMを真上から見下ろして、その目が開かれるのを待つ。
やがて、DEM内部からいくつもの震動音が響き始めた。


<アニキラシオンエンジン:オーバードライヴシークエンス終了>
<アニキラシオンエンジン:出力0.5%>
<ノーマルエンジン:出力70%>
<エネルギーレベル安定>
<エネルギー経路を非常モードから通常モードに移行>

<各部アクチュエーター起動成功>
<各部センサー起動まで10秒、9、8...>

「(ここは何処だ。私は何をしていたんだ?)」
覚醒したNo.2は、即座に思考を開始した。
とりあえず、直前の記憶を呼び起こす。

<直前の状況を呼び出します>

「(そうだ、私はNo,1の迎撃を行っていた)」
No.1を敵と認識し、右の拳で殴りかかろうとしたのだ。
まだ戦闘は続いているのだろうか?
センサー類が起動中なので、五感は全く働かない。
戦闘中だとすれば、一瞬の停止が命取りになりかねない。
故にすぐに行動するべきだ。
静止しているよりは
そう短絡的に判断し、直前の行動を繰り返した。
つまり、右の拳を思いっきり前に――

「ぐはぁっ!?」
「め、メリー!?」
突然のことだった。
DEMが起動したその瞬間、右ストレートがメリーの顔面を強打した。
当然のように油断していたメリーは、弓なりに吹き飛んで、背中から壁に思いっきり叩きつけられた。
そのままずるずると壁を滑り、頭から地面に落ちる。
ゴンッと言う重い音を、サージャは聞いたような気がした。

「…………。」
拳に何かが当たる感覚で、No.2は五感の再起動を確認した。
瞼を開けると、そこは見覚えのない場所。
椅子、電球、ソファ、テレビ……下にあるのは長いテーブルのようである。
「何処だ……?」
「……てめぇ……!」
「?」
声の方に顔を向けると、1人のヒト――エミル種の女性が居た。
鼻血を垂らして、逆さまに壁に張り付いている。
これはエミルの奇習なのだろうか。
「貴様は何者だ――」
「メリーさん、大丈夫か!」
もう一人、弓兵と思しきドミニオンの女性が駆け寄って行く。
この鼻血を出している個体の名前は、メリーと言うらしい。
「いててて……やってくれるじゃねぇか、この恩知らずDEMが……!」
サージャの差し出した手を思いっきり振り払って、メリーは立ちあがった。
鼻血も拭かず、つかつかとNo.2に歩み寄り
「根性叩き直してやる!」
「!」
いきなりパンチ。
戦闘型DEMであるNo.2が仰け反り、後ろにひっくり返るぐらいの強力なヤツだった。
「うわ…」
ドミニオンの女性――いや、声紋から判断するに女装した男性が、呟いた。
「(損害軽微。迎撃開始)」
No.2は即座に起き上がり、ファイティングポーズを取る。
「来いよ、この腐れDEM!」
再びメリーが殴りかかる。
No.2もそれに応じ、右のパンチを繰り出す。
二人の拳が、真正面からかち合った。

「お、おい、メリーさん!」
素手で殴り合うメリーとNo.2。
交差する拳撃と蹴撃。
食卓は吹っ飛び、椅子は倒れたり壊れたりして、家の中はあっという間に嵐の後のようになった。
見かねたサージャが、弓でNo.2を射抜こうと矢をつがえると、メリーが叫んだ。
「邪魔すんなサージャ!これは私とコイツの喧嘩だ!」
「け、喧嘩なのか!?」
最初の一撃が、メリーの闘心に火をつけてしまったらしい。
「ああ、そうだ、喧嘩だ!コイツが売った!私が買った!」
容赦なくDEMを殴り、DEMも全力で応戦しているように見える。
これを殺し合いと言わず、何と言うのか。
だが、付き合いの長いサージャは
「喧嘩か…喧嘩なら仕方ないな。好きにしろ」
呆れ果てた様子で、部屋の隅に言ってテレビの電源を付けた。
ソファーが壊れていたので、体育座りで。
「……夕飯までには終えろよー」

「(コイツら……一体何者なんだ?)」
パンチの応酬の狭間で、No.2は考える。
相対するメリーは、DEMであるNo.2に臆することなく、しかも武器も使わずに立ち向かってくる。
そしてサージャと呼ばれた女装は、メリーの仲間であるにも関わらず
No.2を攻撃しないでテレビを見始めたではないか。
「よそ見すんじゃねぇ!」
「ぐっ!」
メリーの脚の甲が、No.2の脇腹を叩く。
思わず体勢を崩したところへ、打撃の嵐。
「オラオラオラ!」
「くっ、この……!」
腕でガードし、打撃の切れ目を狙ってパンチを繰り出す。
メリーの頬にクリーンヒット――だがメリーは倒れない。
踏み止まり、まだ闘う姿勢を見せる。
「へっ、やるじゃないか……」
「(笑ってる……?)」
一体、何が楽しいのか。
敵である私を殴り、私に殴られ、何が愉快だと言うのか。
「いいぞ!こんな素手喧嘩、久々だ!」
「貴様は……一体何が楽しいのだ?」
拳の勢いを緩めないまま、二人は言葉を交わす。
「なかなか出来ないからな、喧嘩なんて!」
「……喧嘩……?」
相手の中では、これは殺し合いでは無く喧嘩だと言う。
だが喧嘩という言葉は、No.2の使用する語彙に含まれていない。
No.2は自分のデータベースの中から、喧嘩の項目を呼び出す。

【喧嘩】
個人間において、怒りの感情によるエネルギーの発露や意見や利害の対立が
言葉の応酬または腕力をぶつけあうなどの形で現れる事を指す。
おおむね会話や性行為と同様、コミュニケーション行為である。

「(コミュニケーション……!?)」
相手を殺す為に振るわれる拳で、その相手との意思疎通を行う。
その矛盾に、No.2の思考回路は一瞬フリーズした。
「オラァァァ!」
「!」
その隙に、メリーは一気に懐に飛び込んだ。
そのまま、額と額をかち合わせる。
所謂パチキである。
「ぐぁっ…!」
「へっ…」
No.2は堪らず仰け反った。
DEMであるNo.2よりも、生身のメリーの方がダメージは大きい筈だが
メリーは全く怯むことなく、拳を握りしめる。
「喰らえェェい!」
脚を更に一歩踏み込み、肩の回転で拳を振り上げる。
無防備になった顎を狙う、必殺のアッパーカット。
「――――!」
No.2の200キロ超の鋼鉄の体が、宙を舞った。
ブレインを激しく揺さぶられ、一時的に機能停止状態になる。
だがその刹那、No.2は奇妙な感覚を得ていた。
「(なんて強い女だ……)」
だが。
落ち行く意識の中で、No.2は思う。
次は勝とう、と。
「(次、か……次のある“戦い”……)」
何故か、口元に『笑い』と呼ばれる表情が、浮かぶ。
「(なるほど、これが喧嘩……か……)」
生まれて初めて、No.2は笑った――――



「勝ったか?」
テレビの前の女装が、振り向きもしないで尋ねた。
「あたぼうよ」
「…怖い女だ」
メリーは倒れたNo.2に近寄ると、その体を引きずり、上体を壁にもたれかけさせる。
「おい、起きろDEMっ子」
「う……」
頬を二回叩かれ、No.2のブレインは動作を再開する。
目の前に、青痣の出来たメリーの顔。
メリーは片膝を突いて、No.2と目の高さを合わせていた。
「私は負けたのか」
「ああ。私が勝った」
口角を少し持ち上げ、勝ち誇った笑みを浮かべるメリー。
光学センサーが壊れた訳でもないのに、その姿はNo.2の目に眩しく映った。
「お前は、強いな……」
圧倒的という程ではなかったが、メリーはNo.2よりも一段上だった。
それが判った今、No.2に抵抗する気は最早失せていた。
「……私を破壊しないのか」
「折角直したんだ、そんな勿体ない事出来るか」
「……その割には、随分本気で殴ってたような……」
テレビの前の女装が呟いたが、メリーは無視した。
「お前達が私を修理してくれたのか?」
「そうだ」
「何故?」
敵であるDEMを、彼らが何故修理したのか。
メリーの答えは、簡潔だった。
「夢見が悪くなるからな」
「……理解不能だ。
 だが、こう言う時、ヒトは礼を言うのだったな……」
No.2は瞳を宙に泳がせる。
データベースから、使った事が無い言葉を引っ張り出し、口にした。
「有難う……これであってるか?」
「気にすんな。それより、聞きたい事が有る」
「何だ?」
メリーは先程より幾分真面目な声音で、No.2に質問する。
「何故、空から落ちて来た?どうして破損していた?」
「それ、俺も聞きたいな」
いつの間にか、横にサージャ腰を下ろしていた。
「うむ……どこから話そうか……」
No.2は、途切れ途切れの情報を可能な限り繋ぎ合わせ
ここに至るまでの経緯を、二人に話し始めた。


「……要約すると、お仲間に攻撃されて、反撃でソイツをブッ壊して
 気付いたら次元断層でここに飛ばされてた、ってところか」
話を聞き終えたサージャが、ざっくりと纏める。
残念ながら、サージャにメールを送った相手は判らずじまいだった。
「で、お前はどうするんだ?」
「……」
メリーの問い掛けに、No.2は答えが返せなかった。
ドミニオン界に帰る、という選択肢は無い。
恐らくイレギュラー扱いとして処分されるだろう。
だからと言って、DEM達にとっては敵対組織であるギルド評議会に投降したくは無い。
「行き場所、ないんだろ?」
No.2の考えを見透かすように言うメリー。
「意地悪するなよ、判って言ってるだろお前……」
サージャが肘でせっつく。
「悪い悪い。
 ……ウチに来ないか?」
初めからそう言うつもりだったのだろう。
メリーはNo.2の肩に手を置いて、そう誘った。
「お前の家に?」
「ああ。ウチは変な奴ばっかり居付くんだ。
 記憶喪失の全裸剣士とか、槍を振り回す聖職者とか、自称邪神のネコマタとか」
「困ったもんだよな、全く」
大げさに肩を竦めるサージャ。
「……あと口の減らない女装趣味の変態もいたな。
 まあ、そんなだから、迷いDEMの一体や二体位、ドンと来いだ」
メリーは立ち上がると、No.2に手を差し伸べた。

「(コイツは何故、私に関わろうとするのか?)」
差し出された手を見て、No.2はメリーというヒトに対して思いを巡らせる。
次元断層から落ちてきた私を、何の得にもならないのに修理。
修理した筈の私を、喧嘩だと言って容赦なく殴り付け。
打ち負かしたら打ち負かしたで、破壊するでもなく。
最後はウチの来いと誘いをかけてきた。
機械的に診断するなら、見事に整合性を欠いた行動、としか言いようが無い。
「(コイツの行動原理が、論理的に分析出来ん……………だが……)」
No.2は、再び不思議な感覚に襲われた。
メリーにアッパーカットを喰らった時に感じたのと同じ、思考回路の揺らぎ。
非論理的である筈のメリーの思考が、何故か理解できてしまうような感覚。
ヒトが言う『シンパシー』に相当するモノだろうか。
「(心を持たない機械の私が、ヒトの心に共感してる、と言うのか……?)」
だとしたら、私にも心があるという事だろうか。
そう考えた時、No.2の中に一つの願望が芽生えた。

私は知りたい!
もっとヒトの事を知りたい!
もっとメリーから心を学びたい!

初めての、内から沸き出る欲求。
気が付くとNo.2は、メリーの手を握り返していた。
熱い手だった。
「宜しく頼む、メリー」
「よろしく――ええと……名前を聞いてなかったな……」
「私の型番はGN002P――ジェノサイドナンバーズ内ではNo.2と呼ばれていた」
「ナンバーツー、なぁ……」
メリーは困ったように頭を掻いた。
「それは名前とは言わんだろ、普通」
「……そうなのか?」
うんうん、と隣でサージャも頷く。
「ガッコで言うところの出席番号みたいなものだろうなぁ」
ガッコが何なのかは判らなかったが、No.2には意外だった。
しかし、これ以外の呼ばれ方をした事は無い。
するとメリーが、No.2の左胸を指さして言った。
「アニキラシオン!これでどうだ?」
「アニキラシオン……?」
「お前の左胸のパーツに書いてあった文字だよ。
 これなら名前っぽいだろ?」
アニキラシオン――それは、No.2の開発名であった。
「アニキラシオン……」
No.2は――いや、アニキラシオンはもう一度、口に出してみる。
悪くない。
理由は判らないが、No.2と呼ばれるよりも、ヒトに近づいた気がする
「うん、良いな」
また自然に、笑みが浮かんだ。
名前を得た事で、さっきまでの自分を全て捨て、新たな一歩を踏み出した気分だった。
今までエキドナやNo.1の命令のみに従っていたNo.2とはオサラバだ。
まだ右も左もわからない心だが、ヒトの社会で生きて行く。
新たな決意を胸に、アニキラシオンは拳を振り上げた。
「私は今日からNo.2ではなく、アニキラシオンだ!」






「……でもさ」
サージャは躊躇いがちに口を開いた。
「アニキラシオン、って長いよな、ちょっと」
「ああ、確かにそうかもなぁ」
名付けた張本人にも関わらず、あっさりと肯定するメリー。
「じゃあ、本名がアニキラシオンで、普段は仇名で呼ぶ事にすっか」
「仇名?」
「ニックネームとも言うな。私だって本名はメリーじゃない、もっと長い」
「そうなのか」
これもヒトの習慣か。
DEMは型番が長くても判り辛いとは感じない為、アニキラシオンは新鮮に感じた。
「では、ニックネームは何とする?
 私にはその感覚が判らないから、お二人に任せたい」
サージャとメリーは顔を見合わせる。
「アニキラシオンなら……やっぱりオーソドックスにシオn」
「俺はアニキでいいと思うんだが」
真顔で言うサージャ。
「アニキって、おま、アニキラシオンは女性型……」
流石に可哀想だ。
メリーはそう思って即座に却下しようとした。
だが
「アニキ、か……良いのではないだろうか」
「え゙」
当の本人は、何故か気に入った様子。
何度かアニキアニキと呟き、1人で頷いている。
「い、いいのかソレで」
「有難うサージャ、良く判らないが、素敵なニックネームのような気がする」
「なぁに、いいってことさ」
サージャは得意げだが、メリーはなんだか釈然としない表情。
だが、アニキラシオン……もといアニキは、拳を振り上げて名乗りを上げた。
「よし、これから私はアニキだ!」




すっかりその仇名が定着した二週間後。
“アニキ”が筋肉質の男性を示す尊称だと知ったアニキラシオンに
ボッコボコに殴り倒されるサージャの姿があったと言う。
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プロフィール
管理人 こくてん
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