テメェの都合なんざ知るか!メリーだけは渡さねぇ!!
やはり、カス、だな。お前は。
父として子らに命じます――剣を納めなさい。
(俺は…………誰なんだ……)
…………
ウォルス:……御影さんの保護者として……その提案に従うのは、気が進みません。
それに、あの男が協力してくれるとも限りませんし……。
フォリア:ですが、それしか無いんです。
誰も死なず、そして目的を達せられる方法は。
ウォルス:それが……メリーの望み、ですか……。
フォリア:……このままだと、きっとメリーさんは
……勝っても負けても、傷つきます。
ウォルス:……判りました。彼の協力を仰ぎましょう。
御影さん、ちょっと出かけてきます。
御影:えっ?
フォリア:ちょっとウォルスさんをお借りしますよ。
ウォルス:今晩は帰れないかも知れませんので、先に寝てて下さい。
御影:ね、ねぇ、私も……一緒に――
ウォルス:駄目です……。
御影:どうして……?
ウォルス:えーと……危険だからです。
御影:聞いてたよ……『博士』って人に、会うんでしょ?
ウォルス:!
……だから、駄目です。彼は――
御影:だから、行きたいの。
ウォルス:え……?
御影:お願い、ウォルス……小ウォルスもこっちきて一緒にお願いしよ。
御影:(じっ)
小ウォルス:(じっ)
ウォルス:ううう……っ。
フォリア:ふふふ、本人に覚悟があるなら、いいんじゃないですか?
不審な行動を見せたら、私の槍が黙ってません。
ね?(じっ)
ウォルス:……女の子って怖いですね。
やれやれ……御影さん、コート着て下さい。
御影:うんっ。
これでいい?
ウォルス:あと、この間あげたマフラーも巻いて行ったほうがいいですよ。
御影:♪
小ウォルス:♪
フォリア:あら、ウォルスさんの手編みですか?
ウォルス:え、ええ、まあ……。
御影:えへへ……。
フォリア:羨ましいなぁ。
ウォルス:欲しいなら、フォリアさんにも編んで上げましょうか?
御影:あったかいよー。
フォリア:いえ、そうではなくて。
そんな素敵な彼氏が私も欲しいな~って。
御影:駄目っ、ウォルスはあげないっ。
ウォルス:あ、あはは……。
メリー:……以上よ。
レッド:なぁ、メリー……
メリー:……信じられない……?
レッド:いや、信じるよ……俺は馬鹿だからな。
メリー:どういう理屈だ……。
レッド:……だけど、どうしても聞きたい事が一つある。
メリー:何?
レッド:どうして……黙ってたんだ?
メリー:……それが、一番いいと思ったからよ。
レッド:何だと……!?
レッド:さっきも言ったけど……黙ってりゃ、俺が喜ぶと思ったのか!
メリー:……なら、今まで幸せじゃなかった?
レッド:幸せだったさ。
毎日、お前と一緒にいられて幸せじゃないわけねぇだろ。
だけどよ――許せねぇんだよ、悔しいんだよ!
お前が、俺に黙って事実を背負い込んでた事が!
俺の事、そんなに信用できなかったのか……?
そんなに俺は頼れない男か!?
メリー:誰も、そんな事は――
レッド:だってそうじゃねぇか……
なんで、そんな他人行儀なんだよ……
俺は、お前と悲しみも分かち合いたかったんだよ……!
…………
博士:夜中に何かと思いきや……
獄中まで、そんな事を依頼しに来るとはな。
何で俺が投獄されてたと思ってんだ……大体
そいつらも一緒ってどういうこった。
一年前、何があったか忘れたわけじゃあるまい。
フォリア:黙りなさい中年。
出来るのか、出来ないのかはっきりして下さい。
博士:最近の10代は怖ぇな……
……長めに見積もっても、使えるのは12時間だろ?
12歳程度までなら、なんとか成長させる事が出来るだろう。
肉体だけなら、な。
フォリア:それなら問題は無いです。
博士:だが、俺に支払われる報酬は何だ?
囚人だからってタダ働きするつもりは無い。
……『被験体1084』を返すと言うなら、文句は言わないが。
ウォルス:ふ、ふざけないで下さい!
フォリア:報酬は“釈放”です。北軍か評議会の監視は付きますが。
博士:一体どんなコネを持ってるんだお前ら……
仕方ない、その報酬で満足する事にして仕事をしてやろう。
見せてやるよ、この『博士』の研究の結晶をな。
元になる生体情報はあるのか?
フォリア:はい、この翼を……。
ウォルス:それは……!
博士:本当に謎の多い連中だな。
ま、良かろう。貴様らも手伝えよ。
…………
メリー:……ごめん。
レッド:いや……俺も言い過ぎた。
別に悪気があって隠してたわけじゃないって事くらい、判ってるさ。
だけど、次そういう事したら……
本気で怒るからな!嫌いになるからな!
メリー:判った、もう隠し事は、しない…約束する。
レッド:よし、明日のことを考えようぜ!
メリー:へ……随分、あっさりしてるね?
レッド:長々と喋らせておいて悪いが……実は、過去になんて興味ない。
聞いたからって、何か変わる必要も無いしな。
明日にゃ忘れてるかも知れねぇ。なんてったって
俺は馬鹿だからな。
今が楽しければ、それでいいんだ。
メリーは……違うか?
メリー:え……
私だって、楽しい事は大好き……だけど
他人が傷つけてまで、幸せを掴む勇気は無いよ……。
……レッド……“自分”を殺せる?
私は……出来ない。死にたくないけど、殺す事も出来ない……。
レッド:はっ!何だ、なら簡単じゃねぇか。
目的は一つ、あとはどうすりゃいいか、考えるだけさ!
誰一人として死なせやしない。
無い知恵絞って、方法を考えようぜ。
…………
リン:ん………………っ…………
レッド:愛いな……リン。
唇も肩も腰も臍も愛いが……その心が何よりも俺は愛しい。
リン:有難う……レッド。
私も……貴方に贈られた名前で呼ばれるの、大好き。
レッド:ふふ……これから、何度でも呼んでやるさ……。
さて……名残惜しいが、そろそろ実体化を解くんだ。
リン:え、まだ3分……それにキスしか――
レッド:明日は決戦だ。
俺もお前も、相当消費する筈――無用な実体化での魔力の放出は避けるべきだ。
リン:うん…………判った……。
レッド:すまないな、リン……
一日中魔物を狩り尽くしても、僅か数分しかお前を愛してやれん。
だが、明日、お前は肉体を手に入れるのだ。
お前を造りお前を殺そうとした、あの女の……。
リン:レッド……どうしても、メリーを殺さないとならないの……?
レッド:大丈夫だよ、リン。これは当然の報いなんだ。
お前が気にする事は、何もない。
リン:…………。
(僅かな時間しか触れ合えないとしても、
レッドといられるなら、私は満足……。
だけど今更、そんな事は言えない……。
きっとレッドだって、こんな剣女じゃ満足出来ないんだ……)
(御免、メリーともう一人のレッド……
貴方達の幸せ、奪いに行くよ……)
…………
レッド:ぐがー……。
メリー:……よし、よく寝てる……流石マジック謹製の睡眠薬。
御免ね、レッド。
でも、貴方は甘過ぎる。そして優し過ぎる。
……だから好きになったんだけどさ。
(とりあえず話し合って、みんな幸せになれる解決法を探そうぜ!
俺達にはたくさん仲間がいるじゃねぇか。
きっとどうにかなる!だから殺し合いなんて物騒な真似は止めようぜ)
馬鹿だね、昨日のもう一人のレッドの目付き見てなかったの?
あの眼は、目的のためなら平気で人も殺せる眼だよ。
私は、貴方に理想を捨てろとは言わないけど
理想に殉じては欲しくない……。
だから今度は、私が貴方の代わりに血に濡れる。
私が勝っても負けても、もう貴方は狙われない。
私は、貴方に嫌われても――貴方を死なせたくない。
…………一応言っておくよ。
――――さよなら。
…………
???:よぉ兄弟。
メリー:!
サージャ:一人で行くなんて、随分と酷い事するな?
メリー:サージャ……何処にいたんだ?
サージャ:レッドのパパさんに、酒呑みながら経緯を説明してた。
いやぁ、流石名家、いい酒が揃ってたよ。
メリー:……来るのか?
サージャ:俺が本気出して蹴散らしちまえば一件落着なんだが……
親友の気高い決意を、無駄には出来ない。
邪魔が入った場合だけ、俺が出てやる。
……
審判って感じか?
メリー:相変わらず掴みどころが無いな。
だけど――元気出た、有難う。
サージャ:勝ちに行く人間の目になったな。
よーし、じゃあ行こうぜ。
メリー:あ、そう言えば、フォリアはアクロに戻ったって言ってたけど……
何しに行ったのか聞いてる?
サージャ:聞いてない……が、どうせ御節介だろ、気にするな。
メリー:はあ……。
…………
ウォルス:……すー……
御影:くー……
小ウォルス:かー……
博士:餓鬼は気楽でいいな。
こっちは……時間的にそろそろ仕上げだな。
成長加速術式、全停止。
フォリア:おお……魂は入ってませんよね?
博士:入ってない……ってか、こんな速度で育てても定着しないんだよな。
だから、ただ目覚めさせても廃人確定だ。
フォリア:予定通り、好都合です。
博士:事情を詳しく聞いてないから何とも言えんが
これ以上の責任は持たんぞ。
フォリア:十分です。本当に、有難う御座いました。
博士:誠意は報酬で示せ。貴様らは信用ならんからな。
そういえば、足りない遺伝情報をあの餓鬼の髪から抽出したから
セージの紋章が宿ってる。元の遺伝子はタタラベだが…いいのか?
フォリア:大事の前の小事です。
博士:そうか。じゃ、とっとと連れてけ。
北軍の奴らに頼めば、服も用意して庭まで運んでくれるだろう。
フォリア:はい、それでは。
釈放の件は、近日中に必ず。
博士:忘れるなよ。
博士:さて……
…………
レッド:……
畜生……メリーの……メリーの…………
メリーの大馬鹿ヤロ―――――――ッ!